物語2

2018年05月20日 11時35分00秒 | 日記
物語


自分「なら、とりあえず娘さんに会わせてよ」

看病はほとんど奥さんのBさんがしており、A君は夜勤もある仕事なので休日しか看病に行けていない状況などを車の中で聞いた

病院の病室の匂いは独特な匂いがする

多くの人がそのベッドで生涯を閉じる

痛み、悲しみ、苦しみ

そうゆう重みを沢山支えてきた病室のベッドの上にちょこんと座る小さな女の子

娘「おかあさん!」

可愛らしい声が大部屋に響き渡る

キラキラした目で嬉しさを表現できるのは子供達の得意技!


眉間にシワを寄せていたBさんも口許が緩む


Bさん「いい子にしてた?」

A君「寝ていなきゃよくならないぞ?」

親子の会話を邪魔しないように後ろに居た自分と目が合う

娘「お兄ちゃんは誰?」


自分「こんにちは、お父さんとお母さんの友達だよ?お名前何て言うの?」

視線を合わせるようにしゃがみこみ、なるべく優しい声で話し掛ける


ニコッと笑いながら

娘「さき!」

笑った顔にえくぼが可愛らしい女の子!

その可愛らしい女の子の腕には点滴が繋がれ、無数のあざが闘病生活を静かに物語る


自分「さきちゃんか!さきちゃんはお母さんの事好き?」


さき「大好き!」


自分「お父さんのことは?」


さき「大好き!」


一片の迷いもなく、笑顔で答える娘の姿に両親とも今日初めて笑顔がこぼれる


自分「なら、さきちゃん自身の事は好き?」


細い腕、小さな手をモジモジさせながら、やっと口を開いた


さき「ん~?あんまり好きじゃない」


え?と驚く両親の顔

自分「なんで、さきちゃん自身の事が好きじゃないか教えてもらえる?」


さき「わかんない、でもさきは病気だし、お外で遊べないし...」


ここで、さきちゃんは口を閉ざしてしまう


自分「そっか!ごめんね、ありがとう」


ゴソゴソと自分の鞄の中から梱包された紙袋を取り出し、さきちゃんに渡す


さき「なーにー?」


自分「開けてごらん!」


両親の顔をみて、アイコンタクトで許可を求める

お父さん、お母さんの頷きの許可を得てビリビリと紙袋を破る姿は何処の子供も変わらない(笑)


さき「お絵描きセット!!」


自分「さきちゃんはお絵描き得意なんだって?」


さき「うん!」


自分「なら、お父さんとお母さんとさきちゃんの絵を書いてもらえないかな?」


買ってきた画用紙一杯に新品の色鉛筆で黙々と絵を書きだす。


さきちゃんにとって、絵を書いている間だけは入院生活を忘れられるヒトトキなのかもしれない


さきちゃんが絵を書いている間に耐えれなくなったのかBさんが口を開く


Bさん「あの~、娘を助けられるかもしれないっていうのはどうゆう事なのでしょうか?」


A君「医者ですらこの症例は珍しくて、原因がはっきりわかっていないみたいなんだけど」


自分「うん!また後で話すよ、子供の前で話す事じゃないしね(笑)
                   今はどんな絵が出来るか目を離さず見ていな!」


A君、Bさん「は、はい」


さき「できた~ おかあさん、みて~」


Bさん「上手に書けたね!」


A君「本当にさきは絵が上手だな!」

  「ん?お父さんとお母さんとさきとこれは誰だい?」


さき「それはお兄ちゃんだよ!」


さきちゃんが自分を指さしながらこちらに笑いかける


自分「え?お兄ちゃんも書いてくれたの?」


さき「そう!だってお兄ちゃん居ないと可哀相でしょ?」


こういった子供らしさに大人たちは救われることがある。


自分「なら、さきちゃんの将来の夢は絵を描く画家さんかな?」

この言葉にA君、Bさんの表情が一瞬凍てつく!

将来、未来、大人になったらという言葉が禁句のような空気感が病室に漂う

自分(やっぱり)

A君、Bさんの表情の変化で疑惑が確信に変わった。

さき「うん!大人になったら、さきが書いた絵でみんなを幸せにするの~」

自信満々で書いた絵を両手で持ちながら笑顔で話すさきちゃんを

守るように、包み込むように抱き締めるBさん。

さき「あのね、お兄ちゃんは…」

次の言葉が子供ながら口に出してはいけない、言ってはいけない言葉なのかもしれないという不安が小さな口を閉ざさせた


A君、Bさん「なに?さきはお兄ちゃんに何か聞きたいことがあるんじゃないの?」


自分「大丈夫だから、言ってごらん?」


なるべく、穏やかに、優しく目線をさげた

心配そうに両親の顔をみて、少し照れたように口を開く



さき「お兄ちゃんは、どう生きたい?」



どんな偉人たちの言葉よりこんな小さな身体で病気と戦っている女の子の口からでた言葉に

A君、Bさんの目に涙が溜まる

小学校にも入っていない子供だから、どう聞いていいのか分からなかったのかもしれない


病室という部屋が全てという世界観の中で隣のベットが次々と空いていく


元気で退院していく子もいれば、昨日までたくさんお話ししていた子の顔に白い布がかけられていくのも見てきた。


次は私の番という幼い心にも助けを求めてきたのかもしれない。


もしかしたら、私が居なくなった世界で大好きなお父さん、お母さんはちゃんと生きていける?という不安がわずかながらあったのかもしれない。


自分「そうだね~難しい質問だけど、お兄ちゃんは目の前の小さな、小さな心を助けてあげれるような生き方をしたいかな!」


キョトンとするさきちゃんの表情から、理解できていないことは分かった


自分「さきちゃん!お兄ちゃんを書いてくれたお礼に少し、魔法をかけてあげようか?」


さき「魔法?お兄ちゃんは魔法使いなの?」



自分「少しだけどね(笑)」

   「ベッドに横になってもらえる?」


しばらくするとさきちゃんは寝息をたてて寝てしまった。


その間に両親を談話室に連れ出し話を進めることにした。





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