人と仕事を考える

HRM総研代表・八木裕之のブログ

沖縄の本音

2008-06-09 14:51:30 | Weblog
 先週金曜日から、日本人事総研(JIP)の企業研究会で沖縄に行ってきた。
 JIPの顧問先企業の人事制度の説明を受けるのが目的であるが、その前に沖縄県庁で、沖縄の産業についてのレクチャーを受けた。
 沖縄の産業は、公共事業、基地収入、観光収入によって成り立っているが(3Kといわれているらしい)、最近は情報通信産業・IT関連企業の誘致が活発に進められている。
 当初はIT関連企業の中でもコールセンターの比率が多かったが、ここ数年は情報サービス業やソフトウエア開発といった企業の進出が増えているという。

 沖縄は全国一失業率が高く(07年は全国平均3.9%に対し、沖縄は7.4%)、特に若年者の失業率が高いのが特徴で(15歳以上29歳未満について、全国平均6.7%に対し、沖縄は12.8%)、一人当たりの県民所得は、本土復帰以降ずっと全国最下位が続いている。
 これら情報産業の進出は、雇用の創出という面で大いに期待が集まるところだが、県が誘致を進める理由の一つに、沖縄は日本で一番地震の危険度が低いことがあるという。本土とは断層が異なっているそうである。近年の防災意識の高まりの中で、首都圏に集中している中央官庁や金融機関のデータのバックアップの拠点としてのメリットを職員の方は強調しておられた。

 企業見学(沖縄のリーディングカンパニーということで、大変先進的な取り組みもされており、こちらも非常に勉強になった)のあと、夜は懇親会となったが、地元沖縄の社労士さんと同じテーブルになり、大いに話が弾んだ。昼間のIT企業誘致の話になり、こちらは地震が少ないとは知りませんでしたと何気なく話したところ、次の一言で泡盛でほろ酔い気分になっていたのが吹っ飛んだ。「でも戦争になったらココが真っ先に狙われるのですけどね」。
 沖縄に住む人にとって、戦争とはかくも身近なものなのか。
 そういえば県庁で、IT企業誘致の話に先立って伺った観光振興計画のお話や、観光施設の紹介の中に、ほとんど沖縄戦跡や基地のことが触れられていないのが気になった。
 最初は沖縄の人にとっては触れられたくない過去なのかと、複雑な心境を勝手に想像していたが、それは決して過去の遺跡ではなく、現在につながる日常の問題であるからかもしれない。(ある意味広島の原爆ドームが世界遺産になっているのと対照的である)
 沖縄の社労士さんからは、基地から地代(大半は日本の税金だが)をもらっている人や、米軍関係者を相手に商売をしている人たちにとってみては、基地がなくなったら困るという感情もあるということ。(普天間基地の返還など、あと50年かかっても実現できるか…とも)また、高失業率といわれても、地元の人間は家族や親戚の援助が受けられるケースも多く、さほど深刻には受け止めていないという現実的なお話も聞くことができた。
 私が沖縄に来たのは3回目だが、今回現地に来てはじめて知ることも多く、沖縄の抱える問題の奥深さを感じた。本土に住むものは、感情面での断層の違いにも気づかねばならないと思った。

参考文献:前泊博盛『もっと知りたい本当の沖縄』岩波ブックレット(2008年)

桃太郎のリーダーシップ

2008-06-04 14:38:01 | Weblog
 先週末の土・日、産業カウンセラーの全国大会に参加してきた。
 今年は岡山県で、「産業界との協働で拓く新たな役割」をテーマに開催された。労働環境の多様化、複雑化に伴い、産業カウンセラーに求められている役割を広く、深くすることを改めて考えようということだ。シンポジウムでは研究者の方や、企業の人事部長さんの議論を通して、また多くの示唆を得ることができた。

 岡山県の郷土のヒーローといえば、桃太郎である。懇親会にも着ぐるみが登場し、大いに場を盛り上げていた。登場のBGMはもちろん「もーもたろさん、ももたろさん…」である。その曲を繰り返し聞いているうちに、ふと桃太郎の話を思い出していた。
 桃太郎は鬼退治に際し、きび団子という外発的誘引をもってメンバー(犬、猿、雉)をリクルートする。メンバーの中には本来、仲の悪い者(犬猿の仲)もいたのであるが、それをまとめてみごとに所期の目標を達成する。すごいリーダーシップではないか。(この際、それなりに平穏に暮らしていたのに一方的に攻められた鬼の立場は考えないことにする。鬼にも言い分があるはずだが、いつの世も紛争というのは悲劇である)

 大会分科会で、メンタルヘルス対策の意義の一つである「生産性の向上」につながるものとして、PM理論のM機能のアップの必要性を指摘する発表があった。
 PM理論とは、三隅二不二(みすみ・じゅうじ)が提唱したリーダーシップ論である。
 リーダーシップ行動には、集団目的を達成しようとするP(Performance)機能と、集団を維持しようとするM(Maintenance)機能とに分類されている。その分類を通して、効果的なリーダーシップ行動を明らかにしようというものである。
 P機能は、集団目標達成への動きを促進する行動なので、部下を最大限働かせようとする、規則をやかましくいう、指示・命令を頻繁に与える、また、目標達成のための計画を綿密に立てる、仕上げる期日を明確に示すなどの行動となって表れる。
 一方のM機能は、リーダーシップの受容に関係する機能なので、メンバー間の人間関係に配慮した行動(部下の立場を理解してくれる、部下を信頼している、個人的な問題に気を配ってくれる等)を取ることで、メンバー間の対立や緊張を緩和し、メンバー間の友好的な相互関係を強化することができるというものである。
 高い生産性をあげている集団では、PとM両方が強いタイプが多く、高いモチベーションの集団ではこのPM両方を兼ね備えたリーダーが多いということが指摘されている。(参考:奥林康司編『入門人的資源管理』pp.41-44 中央経済社 2003年)

 桃太郎の場合、「鬼退治」という明確な目標達成のため、チーム一丸となってことにあたったのだが、長く語り継がれている昔話には、虚構と同時に一面の真理が含まれているのかもしれない。欲を言うとその後の「チーム桃太郎」の様子を聞いてみたい。

 
 

「人材マネジメントの発展段階説」

2008-06-03 15:48:57 | Weblog
 前回、今日の職場環境の変化が生産性に与える影響について述べた。
 人材マネジメントの支援に携わるわれわれとしては、そういった環境の変化に対応した施策を提言することが求められる。
 従来、多くの人事コンサルタントは、少なくとも私は、企業に対し「労務管理」や「人事考課・賃金システム」という「制度」を売ってきた。
 しかし、ここにきて、単なる制度作りをアピールするだけでは、いまひとつクライアントの心に響いていないということを実感している。制度作りをすることによってどういった職場環境を作ろうとしているのか、その効果が実感できなければ、いかに立派な仕組みを作ってもしょせん画餅である。

 人材マネジメントには「発展段階」があると私は考えている。企業を立ち上げて、人を雇い入れたときには、「安全・安心して働ける職場環境」が求められる。(第1段階)この段階においては、就業規則・諸規程の整備、職場モラル・法令の順守といったことが制度や仕組みとして必要であろう。
 次に、従業員が増加すると、「組織的に機能する職場環境」が求められる。(第2段階)この段階になると、人事考課や賃金に関する取り決め、また計画的採用活動や、組織的教育研修といったことが必要となってくるだろう。
 たいていの会社はこの段階で、立ち止まり、「当社は人材マネジメントに対し取り組みを行っている」という認識を持つのではないだろうか。しかし、人材マネジメントの究極の目的は、「人を活用し生産性をあげる」ことであり、そのためには従業員には「働きがい・承認欲求を満たす職場環境」を提供する必要がある。これが第3段階といってもいいだろう。この段階を満たす制度・仕組みを考えるのがこれからの人材マネジメントを考えるポイントになるといえる。

 この「発展段階」は、マズローの欲求段階説ではないが、下位段階の職場環境が満たされなければ、上位段階で考えられる施策を打っても職場環境は良くならないといえる。すなわち、いくら賃金決定の仕組みが整っていても、明らかに労働基準法に違反しているような職場では生産性はあがらないということだ。
 われわれとしては、「ではこの第3段階を満たすために、こういった仕組みを取り入れましょう」と「商品化」して売り出したいところだが、これがなかなか難しい。ここから先は、企業によって人事考課や賃金決定の方法以上に、考え方が多様で、取り組みに対する意気込みにも温度差があるからだ。
 あえて、その方策を探ると、キャリア・デザインという発想の導入、仕事の進め方のルールの再整備、そのための組織の再編といったことが考えられるのではないかというのが目下の仮説である。今後は実際の企業のニーズを掘り起こしつつ、具体策を考えていきたいと思っている。