Entre ciel et terre

意訳して「宙ぶらりん」。最近、暇があるときに過去log整理をはじめています。令和ver. に手直し中。

パリについて(1)

2007年05月19日 | 日々雑感

 今年の春に初めて異国の地を踏んだとき、シャルル・ド・ゴールの到着ロビーだったがどこか「異国」らしくなかった感じがしたのを覚えている。

 実際にフランスに来たんだ! という思いに強く襲われたのは、パリ市内に入ってきてから。エールフランス空港のバスに乗ってモンパルナス駅まで行く途中に見える、セーヌ川にかかる橋や、有名な広場、道にさりげなく置かれている彫像の数々。

 そんなパリも、調べてみると意外と面白いことがわかる。今回は、大学のゼミの資料作り、資料整理もかねて、そんなパリについて最近調べていることを綴っていきたいと思う。もはや一種のフランス病ともいえるものを患っているかもしれない管理人だが、読んでいただければ幸いである。

 TOP画像を見て、これがすぐにパリ市内である、と思う方は、おそらく余程のフランス通かパリへ旅行したことのある人だろう。ただし、ここで示してあるのは、パリにあったかつての城壁跡である。パリに城壁なんかあったっけ? と思う人がいるかもしれない。もちろん、現在のパリ市内には城壁はなく、代わりにその跡地に環状高速道路が建設(1957年)されている。「パリを囲う壁はパリを不平でぶつぶつ言わせる」《Le mur murant Paris rend Paris murmurant.》なんて言う早口言葉もあるくらいだ。パリ市内を歩くと、よく標識に「門」(la porte)の文字を見かける。これらは城壁をくぐるための門、すなわちパリの市内外をつなぐためのものであった。その代表例がサン・ドニの門であり、サン・マルタンの門であった。

 門、と聞くとパリで最も有名なものは言わずと知れた「凱旋門」(L’Arc de Triomphe)であろう。これはナポレオンが1806年にフランス軍の光栄を讃え、自ら建設の布告をしたとして有名な門であり、残念なことに彼はこの完成を目に焼きつけることなくこの世を去っていった。
石井洋二郎氏は著書の中で、こんなことを語る。
「本来凱旋門というのは、勝利を記憶し、顕揚するというよりも、戦場の血で汚れた兵士たちの身体を清めることが主要な役割であった。そこを通過して市内に入場することで、彼らは言ってみれば「お祓い」を受けたのである」(『パリ-都市の記憶を探る』ちくま新書、p.32)

 パリの城壁は、当然ルーブル宮(現ルーブル美術館)という王宮を中心に、町を囲っていた。しかしそれらは徐々に膨張をはじめ、最終的には「徴税請負人の壁」と呼ばれるところで落ち着いてくる。このときの壁の様子を表している、ということでよく取り上げられるのが、エミール・ゾラ(Emile Zola)の小説『居酒屋』(L’Assommoir)だ。
「彼女は今朝ほどその街路の上に、労働者たちの群れ、つまりパリの巨大な営み、その目覚めるのを見た。いま、この時刻には、舗道は一日の日光に暖められて、入市税関の壁の向う、パリの町の上に、暑い反射熱を燃え上がらせている…」(古賀照一訳『居酒屋』新潮文庫、pp.50-51)

 さてさて、ここでふと考えるのは、パリ、というかヨーロッパは「石の文化」であるという言葉だ。確かにパリにあるノートル・ダム大聖堂や、モンマルトル寺院、凱旋門やセーヌにかかる橋など、石造建築物が多い。しかし19世紀はくしくも産業革命が生まれる時代であり、フランスもその影響をこうむる。エッフェル塔であり、近代的な面ではポンピドー・センター(ただしこれは時代が下る)、芸術橋、鉄道の普及などもそうなのかもしれない。
 こうやって考えると、19世紀のフランスは、フランス革命ほどの大転換期ではないにしろ、何らかの転換点であったことに間違いはないのではないか。つまり「石の文化」が「鉄の文化」になり始めたころあいといえるかもしれない。その転換点を克明にあらわしているのが、一部の間で語られる教権派とフリーメーソンの抗争であったり、今回のパリ調査をするきっかけとなった印象派とサロン(官展)であり、石の文化と鉄の文化である。

 という感じで、これからは少しずつ資料をまとめる上で、この関連を日記にアップしようかと思う。もちろんこれが全てではないので、興味のある方は末に参考図書を載せておきます。これをつきつめていけば、ある意味卒業論文になるなぁ、と勝手に考えたりしてますますパリ熱が高くなる管理人。何か面白いことを知っている方、ここは違うよと教えていただける方がいらっしゃいましたら、ぜひコメントのほうよろしくお願いします。

(参考図書)
・石井洋二郎『パリ -都市の記憶を探る』ちくま新書、1997.
・ゾラ『居酒屋』古賀照一訳、新潮文庫、1970.
・宝木範義『パリ物語』講談社学術文庫、2005.
・中野隆生編『都市空間の社会史 日本とフランス』山川出版社、2004.


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