本学会では、平成19年度第24回東京大会において、「シンポジウム「保険外併用療養費制度(混合診療)実施により、今後の歯科医療はどのように変わるか」をテーマに高い関心度のなかで、活発な討議が行われましたことは、記憶に新しいと存じます。しかし、多くの臨床医およびインプラントを臨床に応用されている先生方は、この問題の制度的結論を急ぐことなく、医療倫理に基ずいた患者の求める良質の歯科医療の遂行に傾注すべきであることが良策であると考えている。成熟する資本主義社会において、QOLを求める人々のために医療技術開発は常に進化し、医療現場の歯科医師達は日々最新技術の研鑽に余念がない。しかし、一方で、日常の保険診療と保険外(自費)との制度上の問題点を意識しながら、良質な医療技術の維持と経済基盤を背景とした皆保険制度(被保険者の権利)とのジレンマに悩まされているのが今日の歯科医療の現状でもある。 目下、混合診療が全面的に認められていない現状において、現代歯科医療のグローバルスタンダードとしてEBMが確立しているインプラント治療法は、これを必要とし、求める患者に安全に実施することは、良識ある歯科医師として当然の義務である。しかしながら、昨年末発覚した藤枝市総合病院歯科口腔外科の保険医療機関停止の行政処分は、まさに医療倫理が保険制度により患者の権利と医師の義務を蹂躙した事件である。そもそも、国(厚生労働省)は保険診療と自費診療を同時点で行うことは「療養担当規則第18条・第19条の特別療法等の禁止」に抵触すると主張している。この藤枝市総合病院口腔外科の保険医取り消し処分の理由は、仄聞するにインプラント埋入手術を行うさい骨移植を併用する場合、入院費、麻酔、外科医による骨採取などの、諸費用を保険請求するなど164件の不正請求が見つかったとして、処分を下したようだ。行政としては医療財源を主眼にした処遇であり、インプラント治療(自費)にかかわる一切の治療行為は自費と見做しているようだ。一般歯科開業医レベルのインプラント治療の際、インプラント植立部位の対合歯が挺出いる場合、この対合歯を保険で治療しては違法なのか?・・・、咬合が崩壊している患者の咬合を再構築してからインプラント治療を行ったら全て自費になるのか?・・・、またインプラント埋入後、骨との結合(オステオインテグレーション)を獲得する期間、義歯を製作したり、修理した場合は保険が利かないのか?・・・日常の歯科医療現場は保険給付と給付外の診療行為の線引きが曖昧であり、担当医としては被保険者(患者)の権利を尊重した医療費の請求を選ぶことになるようだ。 混合診療の善し悪しについては、古くから議論に暇がなかった。過去に数件の裁判事例(歯科関係)があったが、昨年11月7日に医科の事例で東京地裁の下した判決は「国が混合診療を原則禁止としているのは違法」であることを示し、その理由として、健康保険法のなかに混合診療を規定する項目がないとして、国の方針を覆した。これに対し厚労省は「保険対象外の医療行為は安全性や有効性が認められていない」との理由で、控訴中である。ここで、国の言う安全性、有効性の問題であるが、日常の歯科医療の中には安全性、有効性が確認されているにもかかわらず、保険給付から除外されいる材料や行為が数多くあるが、これを患者との合意の下に、治療に取り入れた場合は、当然自費徴収となる。例えば義歯(保険)に破折防止の補強線(自費)を入れる行為などは混合診療となる。 今後、医療制度改革が進められるなかで、問題点1は最新医療技術・器材を如何に保険導入・承認(迅速性のある)するか。問題点2は財源(給付と負担の割合)、これに混合診療の組み込みは避けられないであろう。資本主義社会において、日新月歩の高水準の医療には高負担となり、国に財源がなければ、全ての医療は国民の負担なしにはありえない。国民の自覚した医療制度の論議が必要である。