『永遠の仔』１～５巻 著者 天童荒太 出版社 幻冬舎文庫 価格 ２７０３円（１～５巻計）

　今回の読書通信では『永遠の仔』を紹介します。
　西日本の最高峰、霊山・石鎚山。その頂上に登れば「自分たちは救われる」と信じた少女・久坂優希と二人の少年はその下山途中、同行していた優希の父親を殺害した。三人は秘密を抱えたまま別れ、それぞれの人生を歩んだ。優希は看護婦に、少年は、弁護士と刑事になった。そして、別れから１７年後、三人は運命に導かれたように再会を果たす…。　この小説はミステリーで、２０００年の「このミステリーがすごい」で第１位を獲得しています。たしかに１７年前の殺人事件や現代の連続殺人事件の謎が解きあかされていくので推理小説といえます。しかし、謎解きはこの本の中心テーマではありません。　　　　この小説のテーマは、虐待された子どもの魂の救済なのです。この物語の主人公の３人はそれぞれ親から虐待されていました。成長して大人になってもその体験のために生きづらさを感じています。さらに、この３人が出会ったことで新たに不幸なできごとが起こってしまいます。哀しい物語です。ですか、彼らは救われ、癒されるのです。
　この小説は、文庫本で５巻もある長い物語です。また、子ども時代と現代が交互に描かれているので、読みにくいといえば読みにくい本です。しかし、３人の子どもたちと時間を共有することによって読者も癒されるのです。
　私は幼いころに父親に捨てられました。母親が一生懸命にがんばってくれたおかげで大人になることができました。でも、子どもの頃の心の傷を忘れたわけではありません。この本を読みながら傷の痛みを思い出しました。そして、最後に私も癒されたのです。
　人はなにかしら心に傷を負っていることでしょう。また、その痛みも人によって違うことでしょう。本を読んだからといってその原因が取り除かれるわけではありません。ただ、他の人と共感しあうことで「生きていこう」と思えるものなのです。