つらつら日暮らし

江戸時代の浄土真宗に於ける肉食論について(1)

今日は11月29日だが、語呂合わせで「いい肉の日」らしい。とはいえ、国内の全般的な値上がり傾向から、食肉も高騰しているという。今日はその辺、どうなるのだろうか?様々な企業が、セールや、特別な企画を打ち出して対応するような感じだろうか。

それで、仏教では一般的に、肉を食べることは禁止されていると思われていることだろう。色々と調べると、釈尊自身が食肉を明確に禁止したかどうかは微妙なようだが、どちらにしても、インド自体の宗教界の食肉忌避傾向から、仏教も食肉が禁止されたようである。そのためか、中国成立の菩薩戒の文献『梵網経』巻下では、「食肉戒第三(四十八軽戒)」が定められ、軽戒とはいえ実質的には食肉出来ないようになっている。

よって、『梵網経』の影響が強い東アジア地域では、全般的に仏教の食肉が否定されているように見えるのだが、日本では明治時代に入り、政策から「肉食妻帯令」という太政官令が出る事で、実質的に解禁されたのであった。転ずれば、それまでの僧侶は基本、肉食は禁止されていたのである。或る宗派を除いては・・・

ということで、今回はその辺の記事を見ておきたい。

  卅八肉食之事
〇問ふ、諸宗皆な肉食を制す、当流何ぞ肉食を許すや、
 答ふ、先づ諸宗を制する意を云ふべし、仏在世には肉食を許す、是れ化肉なり、涅槃の時、堅く之を制するなり、
 仏成道十八年迄は、菩薩に肉食を許す、楞伽会上に是を禁ず、
 智論四十九巻には熊の肉を衆僧に施すことあり、
 又、涅槃已前は八声聞に肉食を許す、涅槃会坐に於いて、声聞に肉食を禁ずるなり、
 禁ずる意は、滅後の比丘殺生を禁ぜしめんとなり、故に制戒故に諸宗肉食を為さざるなり、
    『真宗百通切紙』巻2、カナをかなにし段落を付けて分かりやすくする


以上の内容について、少し、読み方に功夫が要るかもしれない。上記内容は、近現代で明らかになった、釈尊伝とは全く違う文脈で示されている。つまり、江戸時代以前の、大乗仏教も明らかな仏説として信じられていた時代の内容なのである。

まず、以上の内容を簡単にまとめると、質問は、浄土真宗以外の諸宗派では、皆肉食を禁止しているが、その違いは何に由来するのか?というものであった。それについて、以上の内容は、まず諸宗派で肉食を禁止した理由を知るべきだとしている。

回答だが、おそらくこの一節全体が、『仏祖統紀』巻4を下敷きにしていると思う。その上で、仏陀の在世時には肉食を許していたが、涅槃の時に初めて禁止したという。特に、仏陀が成道されてから18年は、肉食を許可していたが、『楞伽経』の中で禁止したという。また、『大智度論』では熊肉を布施した事例もあるとしている。

更に、涅槃の前には声聞に肉食を許していたが、『涅槃経』の中で肉食を禁止したという。このことから、仏陀の入滅後に、比丘に殺生を禁止する目的で、肉食を禁止したとしている。よって、大乗仏教と、部派仏教以前の説示とが混在して語られていることが分かる。

後は、幾つかの文脈を確認しておこう。まず、「化肉」についてだが、実はこの用語の用例は決して多くない。それどころか、良く分からない話である。それから、涅槃の時に制したというのは、大乗『大般涅槃経』巻4「如来性品第四之一」での議論であり、いわゆる「三種の浄肉」論である。

それから、『楞伽経』では『入楞伽経』巻8「遮食肉品第十六」という一章が見られる。明確に、食肉の問題点を挙げて、禁止するものである。

「熊肉」の話だが、『大智度論』巻49「釈発趣品第二十」に見える一話で、『本生経』を典拠にしているとはいうが、それは詳細不明。なお、『大智度論』の話だが、或る人が、熊によって助けられたのに、その熊の情報を猟師に教え、殺させてしまい、その肉を取ったところ、とんでもない報いにあった。猟師はその様子を恐れて、熊の肉を修行僧達に布施したが、釈尊はその経緯を見抜いて、今後、肉を食べてはいけないと制した話である。

結果として、これらの話から、浄土真宗以外の諸宗派では、食肉を禁止したという話になっているのである。では、何故、浄土真宗では許したのか、その理由などは次回以降の記事に見ておきたい。

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