つらつら日暮らし

仏教に於ける「債務」について

今日は3月16日、勝手に語呂合わせで「債務の日」としておきたい。今日はこのテーマに関連して、仏教に於ける「負債」の話を2つしておきたいと思う。まず、仏教は比丘になるための条件を定めたが、その中に以下のような記述がある。

  十六遮
一に自ら名を称せず、二に和尚の名を称せず、三に年満たず、四に衣を具えず、五に鉢を具えず、六に父聴さず、七に母聴さず、八に負債、九に奴、十に官人、十一に丈夫、〈以下は、人権問題を含むため、省略〉
    『律宗新学名句』巻下


以上は、中国で編集された律蔵の綱要書であるが、「十六遮」に該当すると比丘になることが出来なかった。そして、「八に負債」とあって、自分自身などに借金があった場合には、比丘になれない(事実上は、出家が不可)とされたのである。この件は、以下のような指摘がある。

 爾の時、負債人有り、債主から逃避して、園中に来至して、諸もろの比丘に語りて言わく、「我れを度して出家を道と為せ」。
 時に諸もろの比丘、輒く出家を与う。
 具足を受け已りて人間に乞食し、財主の捉うる所と為り、高声に喚びて言わく、「止めて我れを捉うること莫れ、止めて我を捉うること莫れ」。
 左右の諸もろの居士聞きて、即ち問うて言わく、「何故に喚ぶや」。
 報じて言わく、「此の人、我を捉う」。
 其の人に問うて言わく、「汝、何故に捉うるや」。
 報じて言わく、「我が財物を負う」。
 諸人語りて言わく、「汝、放ち去りて、捉うること莫れ。汝、既に財を得ず、或いは官の罰する所と為る。何を以ての故に、摩竭国王瓶沙、先に教令有りて、若し能く出家学道する者有らば、善く梵行を修して苦際の尽くるを得ること、随意なるを聴す、留難有ること莫れ」。
 財主、即便ち之を放つも、瞋恚を生じて言わく、「我が財物を負いて、而も得ること能わず、此を以て之を推すに、沙門釈子、尽く是れ負債人なり」。
 時に諸もろの比丘、此の事を以て往きて仏に白す。
 仏言わく、「自今已去、負債人を度して、出家することを得ざれ、若し度す者は、当に法の如く治すべし」。
    『四分律』巻34「受戒揵度之四」


以上のような理由が律蔵では開示されているのだが、要するに或る借金を負った人が債権者から逃げて、僧侶達のところまでやって来て、自分を出家させて欲しいと願い、それは直ちに許可されて比丘になったという。その後、食事をもらいに村落などに入ったところ、その債権者に発見されて、拘束されそうになったため、大声で止めろ、止めろと叫んだという。

その様子に驚いた周囲の人々が、「何事か」と尋ね、債権者が比丘となっていた借金者を捉えていることを知ったのだが、その周囲の人々から債権者は、或る事実が伝えられた。それは、この比丘を捉えたままだと債権者は罪を得る可能性があるので、解放しなくてはならないこと、その根拠として、マガダ国のビンビサーラ王が定めた法律があることなどが示されたのである。

債権者は仕方なく解放したが、その後怒りを生じて、自分に対しての負債があるにも関わらず、それを返してもらうことも出来ない。仏教の僧侶達は全員、負債人ではないか、と述べたという。

これを聞いた他の比丘達は、釈尊に相談したところ、(おそらく釈尊は、これにより世間の恨みを買ったり、諍いの原因になることを気遣って)それ以後、負債人を出家させることはならないと律したのであった。

ところで、この時の負債だが、1円でもあったらダメなのだろうか?すると、以下の一節があった。

負債とは、乃至、一銭、十六分の一分と為すなり。
    『四分律』巻30「一百七十八単提法之七」


・・・いや、良く分からないな。そういえば、律蔵の註釈書には、以下の記述も知られる。

負債とは、若しくは自ら負債し、若しくは祖の負債し、若しくは父の負債し、若しくは児の負債し、若しくは債己に由るならば、出家することを得ず。人有りて債を償うことを為すは、出家することを得る。
    『善見律毘婆沙』巻16


何と?負債については、自分のものだけでは無く、祖父や父、或いは子供が負債を抱えていたとしても出家できないという。この辺は、負債がまだ連帯的に償還されなくてはならなかった時代の考えだったのかもしれない。そして、負債が償われるのであれば、出家出来るという。

以上から、仏教に於ける「負債」とは、あってはならないものであった。理由は、仏教の比丘は、無産的立場に自ら望んで入るからである。そうなれば、負債は絶対に償うことが出来ない。もし、負債者が比丘になれば、世間の債権者から大きな怨みを得ることとなるため、釈尊は負債者の出家を禁止した。つまり、在家者の「債務」は、絶対のものだったといえる。

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