つらつら日暮らし

今日はくじの日(令和5年度版)

今日9月2日は、「9(く)2(じ)」の語呂合わせで「くじの日」である。「くじ」というと、現代ではいわゆる「宝くじ」を思い付く人が多いと思うし、更に展開して、いわゆる「サッカーくじ」なども思い付かれるかと思う。

それで、今日は禅宗の修行の中に、籤(くじ)を利用した例があることを見つけたので、それを紹介してみたいと思う。まずは、その本文から。

 南禅の規式、夏中、諷経に赴かざる者を罰する法に云く、籤に衆僧の双字名を書し、筒に実つ。
 毎日勤行の時、堂司行者、籤筒を仏前に置き、諷経し畢れば、住持、筒を指す。
 堂司行者、筒を取り振掉すること三たびし、而して住持の前に至る。
 維那、班を出でて、住持の右辺に至る。
 住持、籤を抽いて之を度す。
 維那、之を接し、書かるる所の名を呼ぶこと三度す。
 若し答うる者無くんば、則ち赴からざることを知る。乃ち籤を以て聴叫に度す。
 赴かざる人、方丈に上りて籤を乞う。
 若し懈ること数回に及べば、則ち住持、小片紙に罰金の式を書して、仏殿の柱に貼る。罰金一片なり。懈る者、之を方丈に納む。
    「諷経」項、無著道忠禅師『禅林象器箋』巻17「第十七類 諷唱門」


まずこの一節は「諷経」という項目に見えるのだが、その項目の説明自体には見るものはない。むしろ、上記に引用した説明文自体が重要である。この一節について、無著禅師は「南禅の規式」であるとしているが、この出典はおそらく、『南禅清規』乾巻「略記・廿一日」項であると思われる(なお、同清規については尾崎正善先生「翻刻・京都大学文学部図書館蔵『南禅清規』(1)」、『鶴見大学仏教文化研究所紀要』巻14[2004年]を参照した)。

比較すると、厳密には全く同じということではなく、更に両書の文脈が違っている理由は、拙僧自身には、今のところ分かっていない。なお、尾崎先生のご指摘では、上記に紹介した翻刻研究の底本の『南禅清規』は無著禅師による写本であり、しかも坤巻の末尾に見える無著禅師の奥書では「及謄寫訛文甚夥シ焉。其著シキ者ノハ、直ニ改正」とあるので、もしかすると無著禅師による改正の結果なのかも知れないが、それも確定事項ではない。

以上のように、不明な点があることを挙げつつ、上記の引用文を読んでおきたい。

まず、この文章は、夏安居中に諷経が行われた際に、随喜しなかった者を罰するための方法を紹介している。具体的には、籤(くじ)に僧侶の名前を記し、それを筒に入れる。そして、毎日の勤行の時に、堂司行者はくじが入った筒を仏前に置くという。諷経が終わると、住持はその筒を指さし、堂司行者はその筒を取って三回振り、そして住持の前に進む。

そこで、維那は両班から出て住持の右側に進むと、住持はその筒からくじを抜いて維那に渡し、維那はその抽選されたくじに書かれた名前を三度呼ぶ。そして、その三度呼ばれる間に返事する者がいなければ、その者が諷経に来ていないことが分かるわけである。

なお、維那はそのくじを「聴叫」に渡すという。この「聴叫」、拙僧は従来この呼称を知らなかったのだが、『禅林備用清規』や『勅修百丈清規』などにも見える。宋代の禅林では使われなかった用語で、その後の元代・明代で徐々に用いられるようになったようである。そのため、おそらく曹洞宗では余り一般的ではない。一応、江戸時代の洞門学僧である面山瑞方禅師『洞上僧堂清規行法鈔』巻5「列職」に「聴呼」項が立項され、「住持の左右に居て、呼を聴て勤仕するなり」とされている。

ここには、「叫ぶ」と「呼ぶ」という漢字の違いはあるが、余り気にしなくて良いようだ。無著禅師『禅林象器箋』巻7「第七類 職位門」に於ける「聴叫」項には「忠曰く、住持の左右に侍し、其の叫呼するを聴いて、使令を受ける者なり」とされている。この「叫呼」というのは、「大声で呼ぶ」という意味があるので、要は住持の近くにいて、その指示を仰ぐ存在を「聴叫」「聴呼」などと呼称しており、実質的には侍者・行者を指すといえよう。

つまり、維那は返事が無かった者の名前が書かれたくじを聴叫に渡し、その後住持の拠室(方丈)に運ばれたようだ。自分がいなかったことがバレた修行僧は、方丈に上ってそのくじを受け取ったらしい。おそらくはこの時、簡単な訓戒なども受けたことだろう。

また、サボりが数回に及んだ場合、住持は小さな紙に罰金の金額などを書いて、仏殿の柱に貼ったという。罰金が科せられた者は、方丈の間に行ってその金額を納めなくてはならなかった。

ところで、このようなくじを使った罰に違和感を懐く方がいるかもしれないが、やはり実際にサボる者が居たため、罰する必要があったのだろう。なお、『南禅清規』を見てみると、「坐禅の懈怠の罰金も、前に同じ」とあって、同様の方法は坐禅にも用いられた。

ということで、今日はくじの日であったので、禅の修行でくじの活用のされ方を確認してみた。是非、サボりで摘発されないよう、毎日の学びを欠かさないようにしておきたい。

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