つらつら日暮らし

「法鉢伝付」切紙について

拙僧が所持している切紙集(これは、資料として購入したもので、拙僧が室内で伝えられたものではない)には、幾つかの伝法作法に関わる内容のものが入っているのだが、今回紹介するのは「法鉢伝付」という名前の切紙である。正直なところ、拙僧はこの切紙を、他で見たことが無い。おそらく、石川力山先生などは、各地でご覧になっているのだと思うのだが、主著の『禅宗相伝資料の研究(上下巻)』(法蔵館)の索引などでも探すことが出来ないので、詳しいことは分からない。

そこで、今回の記事では、当該切紙の内容を紹介することで、読者諸賢の見識に教えていただければ幸いである。なお、予め述べておくと、内容は2段落である。おそらくは、前段だけで十分なのだが、他の切紙同様に、関連する説話を挿入することで、この切紙の価値を高める努力が後段で行われている。

  法鉢伝付
 此の応量器は三世諸仏の持鉢なり。是れ七種有り。金・銀・銅・鉄・瓦・石・木なり。此の七種を合して一鉢と為して迦葉に伝ふ。此の鉢を持する者、現世に福楽を得、未来に三悪四衆の飢饉の難に逢わず。無上菩提を成就し、法喜禅悦食を飽満するが故に、今汝に授け畢んぬ。

 世尊一日、阿難に勅して云く、「食時将に至らんとす。汝ぢ当に城に入りて鉢を持すべし」。
 阿難、応諾す。
 仏云く、「汝ぢ既に鉢を持せば、須く過去七仏の儀式に依るべし」。
 阿難、便ち問ふ、「如何なるか是れ過去七仏の儀式」。
 仏、阿難を召す。
 阿難、之に応諾す。
 (仏)云く、「鉢を持し去れ」。
    原典の訓点に随いつつも拙僧が補って訓読した


なお、真ん中で一行抜けているのは、ここで前段と後段が分かれることを示すために、便宜的に付した。それで、拙僧が先ほど述べたように、まず前段だけで法鉢授与は終わっているし、その意義についての宗旨宣揚も十分である。よって、後段は要らないと思うのだが、先ほどの繰り返しになるけれども、より前段を強調せんがために、付け加えられたものと推定される。

それで、まず前段だが、典拠不明である。ただし、宗門で伝えている「応量器」が七種の素材を兼ねており、持鉢の結果、現当二世に福楽を得て、最終的には無上菩提を成就することまで説いている。これは、法鉢の功徳を説くものとしては非常に強調されている。また、道元禅師は『正法眼蔵』「鉢盂」巻で、鉢盂の素材が何であるかにこだわるべきではないとしたが、その教えを敷衍したものと見ることも出来なくはない。いうまでもないことかもしれないが、『十誦律』巻56などでは、仏は「瓦・鉄」の二鉢のみ許し、「金・銀、他」の八種を許さなかったというから、伝統的な見解ではあり得ないことを示している。

それから、後半であるが、これは釈尊と阿難との問答である。そして、出典は明確で『密菴和尚語録』(『大正蔵』巻47所収)「臨安府径山興聖万寿禅寺語録」に見える(実際に、同語録から引いたかは不明。孫引きの可能性は残る)。しかし、この後段の内容について、特に前段との関係は見えないが、おそらくは「鉢盂」に「過去七仏の儀式」を重ねようとするのはあり得る話であり、また、それは洞門室内で散見される基本的な語話となるから、関連する問答として引用されたのは理解出来る。

前段については、もう少し具体的な作法などがあるかとも思ったが、これが「切紙」であることを思うと、『伝法室内式』などで法鉢を授与してから、改めて当切紙のみを伝授し、その宗旨を宣揚させたのかもしれない。そんなことを思わせる内容である。

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