上野学園ホールで『ヴェニスの商人』。
市川猿之助サン、高橋克実サン、中村倫也サン、大野拓朗サンなどなど。
もちろん、演出は蜷川幸雄サン、翻訳は松岡和子サンのタッグです。
そう、彩の国シェイクスピア・シリーズ第28弾です。
いやぁ、前回の『ヘンリー四世』から間をあけず。
相変わらず、彩の国ハンパないなー、ほんとに。
お話しの内容は。
『舞台は中世イタリア、交易都市ヴェニス。
裕福な貿易商であるアントーニオ(高橋克実)の元に、親友のバサーニオ(横田栄司)が訪ねてくる。
彼はベルモントに住む才色兼備の富豪令嬢・ポーシャ(中村倫也)に恋をしており、
求婚をするための金を工面してほしいとアントーニオに頼みにやってきたのだ。
友情にかけて協力しようとするアントーニオ。
だが、折悪く、彼の財産はすべて航海中の船の中にあり、手元に現金がない。
そこで自身を保証人にして借金をするようバサーニオに進言する。
バサーニオが借金を頼んだのは、ユダヤ人の高利貸・シャイロック(市川猿之助)だった。
彼は、異教徒である自分たちを蔑み、無利子で金を貸して商売の邪魔をするキリスト教徒のアントーニオに憎悪の念を抱いているが、
ある奇妙な条件を証文に記すことで三千ダカットを貸すことにする。
「三ヶ月以内に返済できなかった場合、違約金がわりにアントーニオの身体から一ポンドの肉を切り取る。」
かくして大金を手に入れたバサーニオは、友人のグラシアーノ(間宮啓行)と共にベルモントのポーシャ邸へ向かう。
一方その頃、シャイロックの娘・ジェシカ(大野拓朗)は、キリスト教徒のロレンゾー(鈴木豊)と駆け落ちしてしまうのだった。
父親の遺言により、金・銀・鉛の小箱のうち、決められた箱を選んだ者と結婚せねばならないポーシャは、
侍女のネリッサ(岡田正)とともに、次々とやって来る求婚者たちを迎える日々を過ごしていた。
そんな時、密かに心を寄せていたバサーニオがやって来て箱選びに挑戦。
見事に正解を選び当て、二人は晴れて結婚することになる。
だがその直後、アントーニオの商船がすべて難破したという報せが飛び込んできた。
アントーニオを案じるバサーニオは、ポーシャから贈られた結婚指輪を絶対に外さないと約束し、グラシアーノとヴェニスに帰って行く。
それを見送ったポーシャとネリッサも、ジェシカとロレンゾーに留守を頼んで姿を消してしまう。
ヴェニスでは、シャイロックが訴訟を起こして裁判が開かれることになった。
周囲から何を言われようと、証文どおり、アントーニオの肉一ポンドを頑なに要求するシャイロック。
アントーニオに生命の危機が迫る。
果たして裁判の行方は―――。」
そもそも、あたしは『ヴェニスの商人』というお話が、あまり好きではありませんでした。
友情を核とした、『走れメロス』的なお話か、といえば、そうでもなく。
様々な求婚相手の中から真実の愛を見つけようとする『竹取物語』的かといえば、それも違う。
ガッツリ日本の、分かりやすいお涙ちょうだい義理人情のお話ばかり見て育ったあたしには。
シェイクスピアの描く西洋のユーモアって、時々本当に意味が分からなくなる時があって。
『ヴェニス』を筆頭に、『ロミジュリ』や『ハムレット』や『リア王』や『マクベス』など。
王道の作品たちも、観たり読んだりして、なんだか腑に落ちないところが多数あります。
その中でも、これですよ、『ヴェニスの商人』。
アントーニオが裁判で窮地に追い込まれた時、ギリギリのところでポーシャが彼の命を助け。
更には、逆にシャイロックの財産をすべて、国庫と、駆け落ちした娘に分け与えるように仕向けます。
そして、むりやりクロスのペンダントを首にかけさせて、キリスト教に改宗させます。
裁判に勝って、恨みつらみを晴らせると思っていたシャイロックは、一瞬にして奈落の底へと突き落とされ。
力なく、ふらふらと歩いてゆくのです。
このお話の背景にあるのは、ヨーロッパにおけるキリスト教のあり方。
そして、人々が抱くユダヤ商人のイメージ。
あたしは無知なもので、当時のそういった情勢を、何もわかっていませんでした。
だから、何故、キリスト教徒が日の当る場所で一般的にマジョリティーとして扱われ。
「ユダヤ人」という言葉を口にするだけで、人々が顔をしかめるように、マイノリティーな扱いをうけているのか。
そして、そのユダヤ人達が、キリスト教徒や他の商人達に対して。
どれほど黒く重たい恨み妬みを抱いていたのか。
金など戻ってこなくても良いんだ、奴の心臓を、奴の命を!!と、あれほどまでに執着したのは。
なんという根深い思念、猿之助サンも迫真の演技でした。
最後のシーンは、アントーニオを救ったバサーニオやグラシアーノ、ポーシャやジェシカ達が。
全ての事がうまくいった、と大いに笑い、パーティーをしながら、大団円で幕が下ります。
それを見ながら、あたしを含め観客の心にあるのはきっと。
「え??これで、本当に良かったの??」
という、なんだか腑に落ちない思いだったと思います。
勧善懲悪では、ないよね、これ・・・、みたいな。
すると、暗転後。
シャイロックの手が、舞台の真中にピンスポットで浮かび上がり。
不気味にこちらに顔を覗きこみ、再び幕内に消えてゆくのです。
この演出が秀逸ですよね、これで、先ほどまで感じてたモヤモヤ感が。
いっきに「よっし!!」みたいな。
シャイロック、まだあきらめてないな!
みたいな、なんか続きがある、そんな気分で。
少しスッキリ終われるから、不思議、絶妙。
さすがです蜷川演出。
シャイロックの顔が、またまた良いんだー、悪い顔してんだ。
けして、可哀そうにはならない。
悪くて憎々しくて、でも、何かしらの疑問符にはなる。
難しい役だなー、猿之助サンすげー、って。
蜷川サンすげーって、ひたすら思うのです。
今回の舞台は、すべての役を男性だけで演じる、所謂オールメールでして。
ポーシャやジェシカを演じられた、中村倫也サンや大野拓朗クンがまぁぁー!カワイイこと!!
おそろしく可愛らしかったです。
一緒に観に行ってたお友達が、途中。
「ねぇ、ポーシャって本当に男の人だよねぇ?」
って、聞いてきたくらい。
可憐でキャピキャピしてて、真っ白で。
本当に可愛かったです。
今までもいろんなオールメール観てきましたけども。
中村倫也サン、恐れ入ったな・・・。
完っ璧や。