オランダから、お友達が一時帰国していた。もともと、私がオランダで結婚する前にネットを通じて知り合ったひなちゃん。彼女は当時オランダ人の彼氏と同居中で、私は彼女と同じ町で独り暮らしをしていた。それからずっと彼女と彼女の家族とはまるで本当に血のつながりがあるかのような濃い付き合いをしていた。
うちのお兄ちゃんと、ひなちゃんの長男のHくんは3か月違い。生まれたその日に会いに行って、それからずっと二人はまるで兄弟のようにいつも一緒だった。あまりにも近くて、近すぎて、とにかくよくぶつかった。会えば必ず大ゲンカ。でも、必ず一緒に遊びたがった。会えば喧嘩ばっかりするくせに、少し会えなくなるとすぐ会いたがった。性格はまるで正反対の二人。それでも二人は本当に仲が良かった。
本帰国が決まったとき、何がつらかったかって、彼女たちと別れること。何よりも誰よりも彼女たちと定期的に会えなくなることがつらかった。そんな彼女たちが4月頭に一時帰国してきて、我が家に泊まって行った。合計2週間ほどの滞在。なぜか彼女の本当の実家よりも我が家での滞在期間の方が長かった。私もひなちゃんもお互いを「血のつながらない姉妹」と思っているから、全く気を使わないでいられる。だからとても居心地がいい。
久しぶりの再会を心待ちにしていたお兄ちゃん。だけどやっぱり滞在中は大ゲンカの嵐。とにかくくだらない、小さなことでよくもめた。「僕より~が大きい」だの「僕の方がはやい。」「いやオレだ。」「エレベーターのボタンは僕が押す!」「違うよ僕だよ!」もう、私たちの声が枯れるんじゃないかって思うくらい、叱り飛ばした。でも、全く聞かない。
一緒にいろんな所に遊びに行った。遊びに行った先でも喧嘩は続く。ああでもないこうでもない。お互い泣かし泣かされ。お前ら本当はお互いのことが大嫌いなんじゃないの?!って思ってしまうほど。
そして、今日、彼らはオランダに帰って行った。最後の朝、幼稚園に出かける用意をしていたお兄ちゃんに、Hくんがこう言った。
H「ねえ、ボク今日オランダに帰っちゃうんだよ。さみしい?」
兄「さみしくないよ!だってまた会えるもん。」
H「でもねぇ、もう、もどってこないんだよ。さみしい?」
兄「さみしくないよ!」
H「じゃあもうキミはオランダ来ちゃダメだよ!もうしらないからね!」
母「(そっとお兄ちゃんに耳打ち)さみしい、って言ってあげなよ。」
兄「・・・(溜息つきつつ)さ・み・し・い・よー。」
H「ボクもさみしいよ~!」
そして別れはあっけなく。
玄関で靴をはくお兄ちゃんにHくんが
H「じゃあね~。」
兄「ばいばーい!」
そんなもんなのか、と少し拍子抜け。4・5歳なんてこんなもんなのかね。
幼稚園から帰ってきたお兄ちゃん。
今朝までの喧騒がうそのように静かな我が家。
母「なんか静かだね~。」
兄「そうだね。オランダ帰っちゃったからね。」
ちびをお昼寝させるために寝かしつけに寝室に。
お兄ちゃんはその間一人で居間でテレビを見ていた。
15分後くらいに居間に戻ってみたら・・。
お兄ちゃんが、泣いていた。
兄「ボク、ボク、Hがいなくて、さみしい。ボク、Hがいた方がいいよぉ~。(涙)」
母「そっか、やっぱりさみしいのか。そうだね。ママもさみしいよ。」
兄「ボク、Hと一緒がいい。Hと一緒にまだいろんなことがしたい。でも、オランダは遠いから、もう一緒にいられないよ~。」
母「ずっと一緒だったもんね。お兄ちゃんの初めてのお友達だもんね。でも、お友達はどんなに遠くにいても、離れてても、ずっとお友達でいられるんだよ。ママもひなちゃんが帰っちゃってとってもさみしいけれど、でも、ひなちゃんとママはずっとお友達だから、また会えるのわかってるから、大丈夫。お兄ちゃんも、さみしいけど、Hとはまた会えるから大丈夫だよ。」
兄「うん。うん。うん。」
何度も何度も頷きながら涙をぽろぽろと流すお兄ちゃん。
そうだよね。いつも一緒だったもんね。離れてみてはじめて気がついたんだね。
二人はかけがえのない、友達だったってことに。
「ボク、おてがみかく。」
そういって画用紙を取り出したお兄ちゃん。
今度は素直に「あえなくて、さみしいよ。」って書けるかな。
大丈夫。二人はずっとトモダチだよ。