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『卯ノ花さんちのおいしい食卓』シリーズ全3巻あらすじ・ネタバレ感想



瀬王みかるさんの『卯ノ花さんちのおいしい食卓』シリーズ全3巻のあらすじ・ネタバレ感想。
おにぎりひとつですらとてつもなく美味しそうな描写に唾液が活発に出てくる。
縦軸で現代、横軸で戦争が描かれる。
不老長寿の不思議な一族と天涯孤独の少女が出会ったら?



『卯ノ花さんちのおいしい食卓』全3巻

著者:瀬王みかる
発行:株式会社集英社
 (集英社オレンジ文庫)

『卯ノ花さんちのおいしい食卓』全3巻あらすじ・ネタバレ感想

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『卯ノ花さんちのおいしい食卓』登場人物

●藤宮若葉(ふじみや・わかば)
 遊園地で母親に捨てられた
 倒産、火事で卯ノ花家に居候することに

<卯ノ花家 “薔薇屋敷”>
●卯ノ花朱璃(うのはな・しゅり)
 世間的には凪の弟のふり
 月(ユエ)一族の一人
●卯ノ花 凪(うのはな・なぎ)
 朱璃を慕って親元から逃げ出し今に至る
 普通の人間で朱璃を「先生」と呼ぶ
 [カフェ・クリスタルローズ]経営
●八重姫(やえひめ)
 月一族の中でも特に血が濃い特殊能力者
 10歳の姿のまま300年以上生きている
 人前ではアンティークビスクドール

<月一族の協会の人>
●戎(えびす)
 月一族の世話をする協会の者
 あやしい関西弁を話すが月一族らしく美形

1巻 *★*-*★*-*★*-*★*-*★*

●水口(みずぐち)
 大家の息子でアパートの管理人

●野添慶一(のぞえ・けいいち)の母
 ホステスをしながら慶一を育てていた
●羽佐間慶一(はざま・けいいち)の父
 政治家
●羽佐間慶一の義母

●卯ノ花頼子(うのはら・よりこ)
 八重姫の保護者だったがガンで亡くなった
 普通の人間

●田代明史(たしろ・あきふみ)
 田代巌の息子
 病床の父に八重を会わせたいと思っている
●田代 巌(たしろ・いわお)
 中西家の近所の子
 八重姫ひまわりから巌は「八重姫」と呼ぶ
 月一族を調べていた
●中西房江(なかにし・ふさえ)
 八重姫を預かり「八重」と呼んでいた
●田代巌の父
 戦火中から八重を見つけ巌をともに育てる
 焼きりんごが八重姫の忘れられない味
●八重姫の母
 魔女狩りにあい火あぶりにされた

2巻 *★*-*★*-*★*-*★*-*★*

●古賀愛美(こが・まなみ)
 若葉の2つ上でと同じ施設で育った
 赤ん坊の晴香を連れ若葉を訪ねて来る
●晴香(はるか)
 愛美の娘で父親に認知されていない
●高瀬晴顕(たかせ・はるあき)
 21歳の大学生でお金持ち
 両親に愛美と晴香のことを認めてもらえず
●高瀬波子(たかせ・なみこ)
 晴顕の母親で愛美達を認めたくない
 手切れ金で晴顕と縁を切らせようとする
●高瀬の顧問弁護士・佐々木

●辰巳(たつみ)
 若い頃の朱璃を支援する協会の人

●橘 琴乃(たちばな・ことの)
 朱璃の初恋の人で琴乃も朱璃を想っていた
 嫁入りし女児を産む
 空爆で大火傷を負い亡くなる
●橘 百合子(たちばな・ゆりこ)
 琴乃の娘
 琴乃が亡くなった時は赤ん坊だった
 朱璃が親代わりになり育てる
 新山という人と結婚する
●美香(みか)
 百合子の娘
●渚(なぎさ)
 百合子の孫

●卯ノ花頼子(うのはな・よりこ)
 元薔薇屋敷の所有者
 若い頃、月一族の千景に一目惚れし結婚
●上倉千景(かみくら・ちかげ)
 頼子が通う美大の講師
 頼子に命がけで結婚を迫られた
 15年間の契約で結婚したが……
●林(はやし)
 頼子と千景が結婚していた時のサポート役
 月一族と結婚していた過去がある
 八重姫を頼子に紹介する

●若葉の母
 コスモス祭で見かけた現在の母
●学と美紀(まなぶ)(みき)
 若葉の母の再婚相手との間の子供達
●若葉の母の再婚相手

3巻 *★*-*★*-*★*-*★*-*★*

●高梨彩芽(たかなし・あやめ)
 中学1年生になったばかり
 父親が月一族で戎が卯ノ花家に連れて来た
 母親が一月前に病死し身寄りが無い
●那月(なつき)
 彩芽が見舞う車椅子の少女
●小山内(おさない)
 那月の主治医
●中井 勲(なかい・いさお)
 ヘブンズ・ガーデン所長だが普通の人間
 彩芽を引き取る
●中井美子(なかい・よしこ)
 中井勲の妻

●辰巳(たつみ)
 両親とも月一族の「長命種」
 朱璃を支援していた協会の人
 世界を飛び回っているが巴の為に帰国
●巴(ともえ)
 辰巳の妻で4分の1月一族
 病弱でついにヘブンズ・ガーデンに入る

●平野(ひらの)
 羽佐間國之の第二秘書
 幼い頃の慶一の面倒を見ていた
●平野の妻
 [クリスタルローズ]に夫と偶然訪れる

●羽佐間國之(はざま・くにゆき)
 環境大臣
 卯ノ花凪を名乗る慶一を連れ戻したい
●羽佐間昭三(はざま・しょうぞう)
 國之の父親で政治家だった
 國之を厳しく育てた



『卯ノ花さんちのおいしい食卓』

●あらすじ
5歳の時に母親に捨てられ養護施設で育った藤宮若葉(ふじみや・わかば)は、自分は社会に育ててもらったと感謝し立派に自立しようとコツコツ頑張っている。
高校卒業後、食品加工工場で働き始めて1年3ヶ月が経ったある日、何と会社が倒産、社長が夜逃げしてしまう。
その翌日、スーパーへ買い物に出掛けている間にアパートが全焼。
行く所もなければ誰も頼れない若葉を、大家の息子でアパートの管理人の水口(みずぐち)は近所で“薔薇屋敷”と呼ばれている立派なお屋敷へ連れて行く。


薔薇屋敷・卯ノ花家には、息をのむほど美しい兄弟とこれまた美しすぎる10歳くらいの女の子が住んでいた。
兄の凪(なぎ)は気まぐれにオープンする[カフェ・クリスタルローズ]を敷地内で経営しており、垢抜けていて愛想が良い。
対して弟の朱璃(しゅり)は無愛想この上なく、怖いくらいだ。
水口は薔薇屋敷内に捨てられた子猫の里親探しを買って出る代わりに、若葉をしばらく卯ノ花家に泊めてほしい頼む。


恐縮しながら成り行きを見ている若葉は、さっきから水口がずっと女の子のことを無視していることが気になって仕方がない。
どうやら水口には女の子が見えていないようで……。

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●感想
19歳の女の子・藤宮若葉が、自分がここまで生きてこられたのは社会のおかげだと感謝し、誰にも頼らずに奮闘する姿を想像すると切なくなる。
朝もきちんと起きて、炊きたてのごはんで昼食用におにぎりを作り、卵焼きや納豆、味噌汁、漬け物で朝食をとり、掃除をして、仕事の後は遊びもせずアパートに帰る。
1年3ヶ月前まで養護施設にいたから預貯金なんてない。
就職できたことに感謝してコツコツ節約。
それなのに社長が夜逃げし、翌日にはアパートの火事と踏んだり蹴ったりだ。


ここでちょっと豆知識を記しておこう。
若葉のように突然社長が従業員の給料を踏み倒して逃げた、なんてことは万万万が一にもないだろうが、もしもそんな目に遭ったなら【未払賃金立替払制度】で取り返そう。
ボーナスを除いた賃金や退職金の未払いが2万円以上あるなら最大で80%を[労働者健康福祉機構]が支払ってくれるのでな。
まずは、労働基準監督署で相談じゃ。
はい、感想に戻ろう。


「いただきます」
一人でもきちんと両手を合わせ、食事前の挨拶をする。

7ページのこの文を読んで、私は若葉のことがすぐに好きになった。
これだけで若葉がどれほど誠実に生きようとしてきたか分かる。
好感が持てるし応援したくなる。
本当に良い子だと思うが、本人は人見知りで自信がない。


若葉は、実の母親にも捨てられた自分が、他人に好かれるたり大事にされることなんてあるわけがないと思っている。
この「捨てられる」という感覚がある限り、若葉は生活面でも仕事面でも手抜きができないんだと思う。
手を抜いた途端にバサッと切られる、人見知りなのもそういう恐怖心が影響しているのではないかと思う。
人を頼れないのも、親に捨てられるような自分なんかが他人様に迷惑をかけていいわけがないって気持ちがあるからだろうな。


そんな若葉がお世話になるのは不思議な力を持っている月(ユエ)一族が住む卯ノ花さんちだ。
凪は普通の人間だが、8歳までは野添慶一、その後は羽佐間慶一になり、羽佐間家から逃げ出した後は戸籍を偽造して凪と名乗っている。
凪のホンワカした雰囲気と、彼が作る心まで満腹になりそうな料理やお菓子の数々からは想像できないが、過去がかなりハードだ。
月一族である八重姫と朱璃は、一応死ぬことは死ぬらしいがとにかく通常の何倍何十倍も長生きができ、第二次世界大戦も経験している。
その為、ライトノベルにしては気持ちが重くなる戦中エピソードも出てくる。


本来の若葉なら他人の世話にならない選択をするはずだ。
だが、若葉は天涯孤独ゆえ知ることがなかった人の温かさを、不思議な一家の中で知ってしまった。
母親に捨てられてから初めて、〇〇したいとか〇〇が欲しいと口に出せるようになったんじゃないかな?
若葉が遠慮しいしいでも人に甘えることを覚えていってほしいと思う。



『卯ノ花さんちのおいしい食卓 お弁当はみんなでいっしょに』

●あらすじ
ある日、気まぐれにオープンするカフェ[クリスタルローズ]に、赤ん坊連れの女性が若葉を訪ねて来る。
その女性は若葉と同じ施設で育った古賀愛美であった。
とても幸せだと言っていた愛美だが、電話をすると言って店の外へ出るとそのまま帰ってこなかった。
まだ赤ん坊の娘・晴香を残して……。

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●感想
1巻では、八重姫と凪の過去が描かれていたが、2巻では朱璃と薔薇屋敷の元の所有者である卯ノ花頼子の過去が描かれている。
そして、ラストのお話は若葉が偶然にも母親を見つけてしまうお話だった。


このお話は、縦軸で現代を描き、横軸で戦争エピソードが描かれる。
卯ノ花家の八重姫と朱璃が長生きしているので戦争の体験話が多い。
ライトノベルだからと侮れない。
家族を描きながら、実は戦争もテーマなのかもしれない。


さて、若葉の2歳上で同じ施設育ちの愛美は生まれたばかりの赤ん坊をかかえ若葉に会いに[クリスタルローズ]やって来る。
そして、
「私、きっとしあわせになるわ。きっとね」(17ページ)
と言ったその数分後には、我が子をクリスタルローズに置き去りにした。
相手の男と結婚話は進まず、相手側の親に手切れ金を渡され認知を拒否された状態では先々不安になるのも分からんでもない。
だが、養護施設で育った経験上、それがどれほど人生に翳を落とすことか分かっているだろうに。
それなのに我が子に同じ事をするとは。


朱璃は狼狽えもせず置き去りにされた赤ん坊の面倒をみる。
若葉は朱璃の慣れた様子から、彼に子育ての経験があるのかなと想像する。
実はあった。
朱璃が育てた百合子は70を過ぎている。
百合子は自分を育ててくれた朱璃のことが好きだったけれど、歳をとらない朱璃には受け入れてもらえない。
就職して出会った人と結婚しても、おそらく家族とは違う愛情として朱璃への気持ちを抱き続けている。


自分は全く歳を取らないけれど、赤ん坊から育てた百合子がすっかり老女になってしまった姿を見て、朱璃は一体どんな気持ちなんだろう。
我が子が良く育ったと喜んでいるのか、家族に恵まれたことを安堵しているのか、それとも大事な人に先立たれるのがそう遠くないことを実感し淋しさを感じているのか。
子の立場からすると、離れて暮らす親と数年ぶりに会うと小さく弱くなった姿に何とも言えない気持ちになるが、朱璃もそういう感じなのかな?


2巻では既に亡くなっている卯ノ花家の当主・卯ノ花頼子の若い頃のエピソードが描かれている。
美大に進学した頼子は、講師をしていた上倉千景に一目惚れしてしまう。
頼子は、親の決めた相手と結婚したくない、千景を諦めたくない、その一心で自らの生き死にをかけて千景に迫る。
仕方なく千景は月一族であることを明かすが、結局頼子は諦めず、15年間だけの結婚の契約を交わす。


好きで好きでしょうがなくて15年経っても別れを拒んだ頼子。
彼女の為に、千景は1年また1年と契約を延ばすけれど……。
ついに言ってはいけない一言を言う人と対面してしまう。
これがあって頼子は別れを決意する。
私には本当に頼子が幸せだったのかどうか分からない。
結婚の契約内容に子供を作らないという項目があったからだ。
女にとって15年間は相当貴重な時間だ。
後に協会の仕事を手伝う頼子は、八重姫を預かった際に我が子のように接するのだから本心では子供が欲しかったのではないか。


老けない千景にしても15年も近所の目を欺くのは難しくリスクが高い。
もしかしたら千景は、自分の老化に焦燥感を抱いた頼子が子供が欲しくなったりすることで、15年を待たず契約解消を申し出るだろう、と考えてあえて長い期間設定をしたのだろうか。
ところが、頼子はいつまでも千景を諦めてくれず、見た目が老いない千景は結婚生活が長引くほど外出もままならなくなる。


薔薇屋敷と言われるほどの大きなお屋敷でなるべく世間と関わらず夫婦2人だけで暮らすのは、まるで牢獄のような生活に思える。
だが、そうは簡単に寿命がつきない千景にしてみれば、頼子の気が済むまで付き合うことすら時間のロスでもないのだろう。
完全な籠の鳥の苦痛はあっただろうが。


朱璃は、好きだった琴乃から想いを告げられても拒絶した。
その代わり琴乃の娘を育て上げた。
千景は、ひたすら頼子が諦めるのを待った。
そして、頼子は人生の全てをかけて千景を束縛した。
幸せかどうか、正解か不正解か分からないが、愛の形は様々だ。



『卯ノ花さんちのおいしい食卓 しあわせプリンとお別れディナー』

●あらすじ
月一族のサポートをする協会の人間である戎が、中学生になったばかりの高梨彩芽を卯ノ花家に連れてくる。
月一族である父親は消息不明、普通の人間の母親が一月前に病死した為、協会が彩芽の里親探しをしている。
だが、彩芽が絶対に東京から離れたくないと希望している為、なかなか里親が見つからず卯ノ花家で一時預かりしてほしいとのことだった。
天涯孤独になった上、自分が不老長寿の一族の人間だと知ったショックもあり、思春期真っ只中の彩芽は大人に対し容易に心を開かなくて……。

☆.。₀:*⭐︎゜✲゜*:☆.。₀:*⭐︎゜✲゜*:

●感想
3巻はお別れの話である。
父親の元から逃げ出した凪は、偶然[クリスタルローズ]に来店した父の秘書に見つかってしまう。
ある日会社が倒産し、住んでいたアパートが火事になり卯ノ花家の居候となった藤宮若葉は、そろそろ自立すべきではないかと考えている。
そして、朱璃の育ての親・辰巳の妻・巴の寿命が尽きようとしており……。


凪の本名は、羽佐間慶一。
環境大臣・羽佐間國之の息子だが、とにかく父の圧力に耐えかね家出した。
10年間身を隠していたのに、父親の第二秘書・平野に見つかってしまう。
凪は羽佐間家でプレッシャーに耐えられずよく吐いていたが、平野に見つかったことで10年前の恐怖が蘇り、体調に影響が出るようになる。


1巻では、凪側を中心に描かれていたが、3巻は父親の國之目線で描かれており、読んでてとても腹立たしい。
國之の考え方には嫌悪しか感じない。
こんな考え方の人間に圧をかけ続けられたら苦しくて吐きたくもなるわ。
10代の凪は耐えられず朱璃に連れ出してもらったけれど、大人になった凪は父親と対峙することを決意する。


おそらく月一族の人は、一度好きになったら愛情が深いのだろうと思う。
朱璃が好きだった女性の子供というだけで、自分の子でもない百合子を育て上げたのも凄いと思うけれど、辰巳が協会の保護下に巴を入れてもらう為に協会の中でもキツイ仕事を引き受け世界を駆け回っているのも凄いと思う。
一旦好きになると見返りゼロでもの凄く尽くすんだなぁ。
それだけに、その愛情を向ける相手がいなくなる喪失感も大きいのだと思う。


朱璃の父親は月一族だった為、消息不明になったが、彼らが愛情深い一族ならば実はこっそり様子を見ているのではないかと思う。
頼子は夫だった千景の消息を知らなかったけれど、千景は頼子のことを見守っていたと思う。
亡くなった後、毎年こっそり墓参りに訪れていることからもそれがうかがえる。
朱璃の父親も彩芽の父親も協会の保護を受けていれば元の家族のことは容易に調べられるだろうし。


そして、居候の藤宮若葉。
私としては、若葉もずっと卯ノ花さんちに住んでていいのではないかなと思う。
一緒にいて居心地がいいのだから立派に家族だと思うのだがなぁ。
それじゃ、成長できないのかもしれないが、忘れてしまうのも嫌だなぁ。

☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…

ご訪問ありがとうございました(人´∀`*)

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