◯ なぜ「ポータブルゲーミングPC」が盛り上がり、ゲーミングスマホが不振なのか!
過去最大規模で実施された「東京ゲームショウ2024」では、ゲームに必要とされる性能を備えたパソコンである「ゲーミングPC」が盛り上がりを見せていた。最近では超小型のポータブルゲーミングPCが急増し、市場も盛り上がっている。
だが一方で、「ゲーミングスマートフォン」は厳しい状況に陥っている。同じゲーム向けポータブル機器なのに、勢いに大きな差があるのはなぜだろうか。
急増するポータブルゲーミングPC。
ゲームの見本市イベント「東京ゲームショウ2024」が2024年9月26日から4日間にわたって開催された。2024年はオンラインも含めると過去最多となる985社が出展。会場となる千葉県の幕張メッセを全ホール使用するなど、過去最大の規模だった。
会場内は連日大きな盛り上がりを見せていた。とりわけソニー・インタラクティブエンタテインメントが発表したばかりの「PlayStation 5 Pro」や、カプコンの人気ゲームシリーズ最新作「モンスターハンターワイルズ」など、コンシューマーゲームに関する展示が注目を集めていた。
だが会場でもう1つ、盛り上がっていると感じたのがゲーミングPCに関する展示である。会場内には、米Intel(インテル)や台湾ASUSTek Computer(エイスーステック・コンピューター)といった大手企業や、「GALLERIA」ブランドを展開するサードウェーブなどが大規模なブースを構えて、ゲーミングPCをアピールしていた。
今回の東京ゲームショウでは、2023年に続いて「ゲーミングハードウェアコーナー」などが設けられていた。そこでもやはり、ゲーミングPCやそれに関連する様々な周辺機器が展示されており、多くの人を集めていた。
これらの展示から見えてきたのは、最高峰の性能を誇る大型のデスクトップやノートタイプのゲーミングPCだけでなく、よりコンパクトで手に持ってプレーできるポータブルゲーミングPCも着実に増えていることだ。
ポータブルゲーミングPCとは、おおむね10インチ以下のディスプレーを備えたゲーム向けの超小型パソコンを指す。かつて人気を博した超小型のUMPC(Ultra Mobile PC)に類する機器だ。ただ性能が非常に低かった以前のUMPCとは異なり、高い性能を備えていることが特徴の1つである。ハイエンドのゲーミングPCにはさすがに及ばないが、大抵のゲームなら十分プレーできる。
そしてもう1つの特徴が、ゲーム向けに機器が設計されていることである。ゲームをプレーしやすいコントローラーを内蔵しているか、外付けできるようになっている。スマホと比べれば大きい機器が多いものの、場所を選ばずにパソコンゲームをプレーできることがメリットになっているようだ。
盛り上がりに欠けるゲーミングスマホ。
ポータブルゲーミングPCが人気なら、同じくゲーム向けの小型機器であるゲーミングスマホも盛り上がっていてもよさそうだ。実際、ゲーミングスマホが注目された時期もあった。だがポータブルゲーミングPCとは異なり、ゲーミングスマホはここ最近厳しい状況が続いているように感じている。
例えばかつて海外で「LEGION」ブランドのゲーミングスマホを販売していた中国のレノボ・グループは、ここ最近ゲーミングスマホの新機種を発表していないようだ。
「Black Shark」シリーズのゲーミングスマホを販売していた中国の黒鯊科技(ブラックシャーク)に至っては経営危機が何度も報道されているほどで、やはりゲーミングスマホの新機種を提供している様子は見られない。
エイスーステック・コンピューターが提供する「ROG Phone」シリーズや、中国中興通訊(ZTE)傘下のNubia Technology(ヌビアテクノロジー)が提供する「REDMAGIC」ブランドのゲーミングスマホは、現在も日本などで継続して新機種が投入されている。
ただここ最近は両シリーズともに、ゲーミングに重要な性能はしっかり強化はしているものの、ゲーミングデバイスらしい派手なデザインは抑え、普段使いできるスマホであることをアピール。ゲーミング以外を目的とした人への販売拡大も図ろうとしている様子がうかがえる。
もっとも各種統計を見ると、ゲーム市場で最も規模が大きいのは、従来同様スマホ向けゲームのようだ。スマホゲームは、依然パソコンゲームより市場規模が大きい。それにもかかわらず、ポータブルゲーミングPCが盛り上がる一方で、ゲーミングスマホが苦境に立たされているのは不思議な感じがする。
一体なぜ、このような状況が生まれているのだろうか。そこにはスマホとパソコンとで、ゲームをプレーする人の層やゲームに対する向き合い方が大きく異なっていることが影響しているのではないかと筆者は見ている。
「スマホゲームは本物ではない」の真意。
筆者はこれまでに何度か、スマホでゲームはしないが、パソコンでは積極的にゲームをするという人と話したことがある。そうした人たちにスマホでゲームをしない理由について聞いたところ、「スマホのゲームは本物ではないから」といった回答が必ずといっていいほど返ってきた。
最近は「Unity」や「Unreal Engine」などのゲームエンジンを用いてゲームを開発することが一般的になっている。このため、スマホとパソコンに同じゲームを提供すること自体は容易になっている。だがそれぞれの特性を考慮すると、プラットフォームに応じて開発方法を変える必要がある。
生活必需品となっているスマホの場合、多くの人にとってゲームは数あるスマホの用途の1つに過ぎない。ゲームに重点を置いてスマホを選ぶ人はそれほど多くない。このため多くの人にプレーしてもらうには、性能があまり高くない機種でも快適にプレーできることが重要になる。その結果、グラフィックのクオリティーなどで制約が生じる。
一方、パソコンは生活必需品ではなく趣味性が高い。ゲームプレーを目的とする人であれば、必ず高い性能のパソコンを購入する。それ故高性能パソコンでのプレーを前提にゲームを開発できるため、利用者の裾野は狭くなるがクオリティーは高めやすい。
それだけに利用者は、高品質で提供されるパソコンゲームが「本物」であり、スマホのゲームは「劣化版」と捉える傾向にあるようだ。実際、過去にパソコンで人気を獲得したAAAタイトル(大ヒットしたゲーム)のスマホ版が配信された際、「これは本物ではない」との意見が多数出て、SNSなどで議論を呼んだことを筆者も記憶している。
そうしたことを考えると、場所を選ぶことなくパソコンゲームを遊びたい人が、ポータブルゲーミングPCの市場を開拓したと言えるだろう。そしてその結果、場所を選ばずにゲームをしたい人たちがスマホゲームに流れる可能性を引き下げた。
とりわけゲーミングスマホは、ゲームに高いクオリティーを求めるという点でパソコンと利用者層が重なりやすいだけに、その影響を大きく受けやすい。スマホ限定のAAAタイトルが大幅に増えるなど何らかのゲームチェンジが生じない限り、ゲーミングスマホには厳しい状況が続くだろう。