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紙と電子の「混在期」どう乗り切る、インボイス対応をITで効率化する工夫。

〇 2023年10月に始まる適格請求書等保存方式(インボイス制度)では、請求書や領収書を処理する業務負担が確実に増えると多くの関係者が指摘する。

請求内容をデータでやり取りできる「デジタルインボイス(電子インボイス)」が新たに導入されるものの、しばらくは紙などの請求書と混在が続くからだ。

しかも受け取った適格請求書(インボイス)は内容の確認が欠かせなくなりそうだ。様式や記載内容に誤りがある場合、現在は可能な受け手側による内容修正が認められなくなり、必ず送り手側が修正して送り直す必要があるからだ。内容が正しく様式を満たさなければ、消費税の仕入れ税額控除を原則認めないのがインボイス制度のルールである。

紙とPDF、デジタルインボイスの請求書が混在し、内容確認などの負担が増すことから「効率化という観点では、経理業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)はいったん後退する」と指摘するITベンダーもいる。扱う請求書の数が多い企業は、デジタルを活用して経理や請求・支払業務をどう再設計するかが対策のポイントになる。

紙とデジタルの請求書が混在する環境で業務をデジタル化する例。紙の請求書をOCRなどで自動化するか、人手で対応できるかがポイントの1つになる。
画1、紙とデジタルの請求書が混在する環境で業務をデジタル化する例。紙の請求書をOCRなどで自動化するか、人手で対応できるかがポイントの1つになる。

請求書の数が多いと、受け取る側に大きな業務負荷。

インボイス制度の準備では、個々の取引先との間で「どの書類を適格請求書にするか」を最初に取り決めて合意する。請求書のほか納品書や検品書など様々な取引書類のうち、民間取引でやり取りする書類が様式を満たしていれば、どれを「適格請求書」に定めてもよいからだ。

請求書と納品書に必要な記載事項を分けてセットで適格請求書にする、もしくは月ごとの納品物をまとめた月次の請求報告書などを適格請求書にすることも可能だという。ただし消費税計算の根拠にする適格請求書は取引ごとに1種類のみとし、2種類以上が併存しないようにする。また消費税の端数処理は、その書類に記載された税率ごとの合計金額を使って丸めるようにする。

制度が始まると、自社が売り手となり請求書を発行する取引と、自社が買い手となり請求書を受け取る取引の両面で制度対応が必要になる。相対的に業務負荷が大きくなるのは、受け取った様々な請求書を確認してデータ化する必要のある買い手側だ。

ただし買い手としての業務負荷を軽減する「奥の手」もあるという。税理士法人報徳事務所の赤岩茂代表社員兼理事長は「買い手から売り手に対し、支払い内容を確認する支払明細書などを発行する方法がある」と提案する。支払明細書が様式を満たし、売り手が支払金額の正しさなど書類内容に同意確認を取れば、適格請求書と見なせるという。

明細書に「異議は期日までに申し出る」との趣旨を記載し、取引先に内容を確認してもらうことで同意とみなす方法もあるという。事前に取引先との合意が必要だが、大手企業で多数の取引先から物品を仕入れる場合などに導入メリットが見込めそうだ。適格請求書の様式を統一し、トータルで業務を効率化しやすくなる。

目指す姿は「全てデジタルで統一」。

インボイス制度に合わせて、適格請求書をデータ化したデジタルインボイスが日本で導入される。会計や請求管理のシステムに取り込みやすく、消費税計算や仕訳だけでなく支払いや請求管理の自動化にもつなげられる。定型的な内容確認も自動化しやすい。

デジタル庁が日本のデジタルインボイス標準仕様「JP PINT」を策定しており、2022年秋には第1版を公開する。欧州で普及するデジタルインボイスの標準仕様「Peppol」を基に、日本向け拡張を加えた。国内外の多くのITベンダーが対応の製品やサービスの提供を表明している。ベンダーの計画に基づくと、2023年春頃から対応製品が増えそうだ。

最終的に目指す姿は、請求関連の書類をほぼデジタルインボイスに移行させて、「煩わしい手作業から解放され、経理業務で楽ができる」(JP PINT策定に携わったデジタル庁の加藤博之企画調整官)ようになることだ。個人事業主や中小企業向け会計業務に強い弥生の社長で、デジタルインボイスの普及促進団体であるデジタルインボイス推進協議会の代表幹事も務める岡本浩一郎氏は「デジタルインボイスの普及が進めば、例えば中小企業が経営分析などに活用でき、融資の審査に使うなど、民間にも導入効果が生まれるだろう」と説明する。

紙の領収書はAI OCRでデータ化、人手で精度を高めるベンダーも

ただしインボイス制度の開始から当面は、紙とPDFの請求書、デジタルインボイスが混在する。完全なデジタルへの移行には時間がかかりそうだ。

例えば三井住友ファイナンス&リースは、2020年に新型コロナウイルス禍が始まった時期の前後から請求書類の電子化を推し進めている。リース物件の提供元である納品業者との契約は、郵送からPDFへの置き換えが進み、納品業者がテレワークしやすい環境を整備した。一方でリース物件の貸出先となる顧客企業への請求書類の発送は紙とPDFの両方に対応し、引き続き紙の発送を選んでいる顧客もいるという。デジタルインボイスについては情報を収集しているものの、当初の電子化は請求書や帳票のPDF化を主な手段にする方向で検討している。

会計や請求関連のシステムを提供するITベンダーも、インボイス制度対応の主なポイントは紙からデジタルまで様々な形がある適格請求書の送信と受領とみている。特に受領がポイントとみて、AIを使ったOCR(光学式文字読み取り)で紙の請求書をデータ化する分野を強化しようとするベンダーが多い。具体的には文字や数字のデータ化に加え、取引先の名前と登録番号などの不一致や内容の誤りを検出する、科目を識別して仕訳を自動化する、などに取り組む。

会計や請求・支払い業務の製品を持つITベンダーのインボイス制度への対応計画の例
 
ベンダー 提供済みか計画するインボイス制度対応
主に請求書の電子化や請求・支払い・販売管理のシステムを提供するベンダー
インフォマート 受発注や請求書類管理のクラウドサービス「BtoBプラットフォーム」を、2023年春~夏をめどにインボイス制度へ対応する予定。他企業との協業でAI-OCR機能を導入し、紙・PDFの請求書の電子化や自動仕訳などにも対応する
ウイングアーク1st 帳票作成製品「SVF」や帳票の作成・配信・受領などを担う製品群「invoiceAgent」を2023年2月に制度へ対応させる。紙・PDFの請求書の電子化・自動仕訳にも対応する。またデジタルインボイスを交換するPeppolのアクセスポイントを提供するための認定を今後取得し、ユーザー企業のほか他ベンダーにも開放する予定
SBIビジネス・ソリューションズ 請求書発行システム「請求QUICK」が適格請求書の発行に対応済みで、デジタルインボイスの発行にも今後対応する。受領側は2023年夏をめどに経費精算システム「経費BANK」で、紙の請求書も含めて受け取りや電子化などに対応する
Sansan 請求書類の管理サービス「Bill One」で、2023年春をめどに受領と発行ともに制度対応を予定する。紙の請求書の電子化は現在と同じく、AI-OCRと人力の組み合わせで精度を高める
ファーストアカウンティング 「支払確認アクセル」など請求書・領収書を扱う製品群で制度への対応を予定する。請求書を電子化するAI−OCRも制度に対応した新機能を追加する。またPeppolのアクセスポイントを提供し、他ベンダーにも開放する予定(認定済み)
ラクス 請求書発行の「楽楽明細」や支払い・精算の「楽楽精算」などで2023年夏までに制度へ順次対応する予定。楽楽明細は請求書作成など一部機能で対応済み。楽楽精算のOCR機能は登録番号の読み取りと有効性確認など制度対応を予定する
経理・会計システムを提供するベンダー(請求・販売管理の提供も含む)
オービックビジネスコンサルタント 制度対応を含めて、請求書の受領と支払い管理の自動化を推し進める新製品を2023年4月に提供する(詳細を22年10月中に公表)。AI-OCRにより紙・PDF請求書の電子化や自動仕訳、支払い自動化などに対応する。請求書の発行側は既存製品で対応する予定
TKC 請求書の発行は、財務会計システム「FX」シリーズの販売管理機能や専用の販売管理システムなどで制度へ対応する予定。請求書の受け取りは、請求書の電子保存製品「インボイス・マネジャー」や他製品の証憑保存機能でも対応を予定する。紙の請求書などに利用できるAI-OCR機能をオプションで提供する。Pepplのアクセスポイントも提供する(認定済み)
ピー・シー・エー PDFの請求書とデジタルインボイスの発行に対応した新製品「PCA Hub 取引明細」を2023年春に提供する予定。他の制度対応は会計ソフトなど既存製品のアップデートで対応する。請求書の受領側は、電子保存サービス「PCA Hub eDOC」にオプションでAI-OCR機能を追加し、項目読み取りや内容確認などに対応
freee 主力の会計クラウドサービス「freee会計」のほか受発注や申告など複数のサービスで、2023年10月までに順次、制度対応する。請求書の受領ではAI-OCR機能による電子化や内容確認、仕訳などにも対応する。制度対応を支援する新サービスの提供も計画する
マネーフォワード 会計や請求書管理など複数の製品で制度対応を予定する。請求書の発行は「MoneyForwardクラウド請求書」などで2023年春から順次対応し、制度開始までにデジタルインボイスにも対応予定。請求書の受領は「マネーフォワード クラウドインボイス」でAI-OCRと人力による電子化を導入しており、今後制度へ対応させる
ミロク情報サービス 制度へ対応した新サービス「MJS e-Invoice」を2022年9月に提供を提始した。PDFの請求書の発行・受領に対応しており、2023年春までにデジタルインボイスにも対応する。自社会計ソフトと連携するほか、他社ソフトとの連携も計画する。紙の請求書は自社の会計・文書保管製品が備えるOCR機能などで対応を予定する
弥生 請求書などを電子化して保存できる「証憑(しょうひょう)管理サービス」(ベータ版)を制度へ対応させ、2022年内に正式版として提供予定。証憑管理サービスは会計など「弥生」シリーズのユーザーに無償提供している。デジタルインボイスには2023年春頃に対応予定

例えば弥生は、請求書や領収書をイメージで電子保存できる「証憑(しょうひょう)管理サービス」(ベータ版)を拡充して、インボイス制度に対応できるようOCR機能などを搭載する計画だ。ほかにもミロク情報サービスやTKC、オービックビジネスコンサルタント(OBC)など会計ソフトに強いベンダーが、新たに紙やPDFで受け取った請求書をインボイス制度対応で電子化するなど、新製品や新機能の提供を計画している。改正電子帳簿保存法に向けた請求書を保管する製品の機能を拡充して、新たにインボイス制度対応の機能を搭載する例も多い。

請求書や領収書を電子化する機能を売りにした請求管理・受発注管理の製品も、インボイス制度対応に力を入れている。Sansanやインフォマート、ウイングアーク1stなどだ。

Sansanは紙の書類の読み取り精度を高めるため、同社の事務センターでOCRと人手による入力を組み合わせる方法を採る。マネーフォワードもOCRと人手を組み合わせたデータ入力態勢を整え、2022年8月に「マネーフォワード クラウドインボイス」の提供を開始。読み取り精度の高さを訴求しようとしている。

どの企業とも送受信できるデジタルインボイスのネットワーク。

紙とPDFの請求書、デジタルインボイスの混在期間を経て、いずれデジタルインボイスが普及していけば、ユーザーは取引先と簡便に適格請求書をやり取りできる環境が整う。ベンダーがネットワークを相互接続することで、製品のユーザーはデジタルインボイスのデータを簡単に送受信できるようになるからだ。

JP PINTの基となるPeppolは、データ形式のほかインボイスを送受信するネットワークの仕組みを標準化している。ベンダーも相互接続を進める予定で、対応した財務会計システムや請求書発行システムなどを導入した企業は、他の取引先とデジタルインボイスをやり取りできる環境が整う。

Peppol方式のネットワークを作るうえで中核となるのが、「アクセスポイント」と呼ぶ中継事業者だ。日本ではTKCとファーストアカウンティング、オージス総研の3社が登録を受けており、ウイングアーク1stも「アクセスポイントを提供する計画だ」という。

Peppol方式で採用するデジタルインボイスのネットワーク構成。一般的なユーザー企業は、ITベンダーが提供する「アクセスポイント」を通じてデジタルインボイスの送受信を実現する
画1、Peppol方式で採用するデジタルインボイスのネットワーク構成。一般的なユーザー企業は、ITベンダーが提供する「アクセスポイント」を通じてデジタルインボイスの送受信を実現する。

日本ではアクセスポイントの事業者が他のITベンダーに自社の中継ポイントを開放し、相互接続することで自社サービスのユーザー企業がインボイスデータを送受信できるようにする。既に事業者間で交渉が進んでおり、ユーザー企業は対応サービスを利用していれば、ほぼ他の企業とデジタルインボイスを交換できる環境が整いそうだ。


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