〇 韓国サムスン電子は2023年8月22日、折り畳みスマートフォンの新機種やスマートウオッチ「Galaxy Watch6」シリーズなどを日本で販売することを発表した。
Galaxy Watch6シリーズは、国内で要望が多かったFeliCaに対応したことで注目された。そこから見えてくるサムスン電子の戦略をひもとこう。
折り畳みスマホだけではない。
2023年8月22日の発表会では、折り畳みスマホの新機種「Galaxy Z Flip5」及び「Galaxy Z Fold5」の日本投入が大きな話題となった。だが同社は、これら以外にもいくつかの新製品を国内で発売することを明らかにした。
その1つが、タブレットデバイスの「Galaxy Tab S9」シリーズだ。サムスン電子は前機種の「Galaxy Tab S8」シリーズも国内で販売しているが、上位モデルの「Galaxy Tab S8+」と「Galaxy Tab S8 Ultra」だけだった。
一方Galaxy Tab S9シリーズでは、上位モデルの「Galaxy Tab S9+」と「Galaxy Tab S9 Ultra」に加え、スタンダードモデルの「Galaxy Tab S9」も投入。従来よりも日本での販売に力を入れようとしているのがうかがえる。
そしてもう1つが、スマートウオッチの「Galaxy Watch6」シリーズである。こちらはスタンダードモデルの「Galaxy Watch6」と、ベゼル部分を回転させることで操作できる上位モデル「Galaxy Watch6 Classic」の2モデルを投入する。
Galaxy Watch6シリーズの特徴の1つは、睡眠のトラッキング機能が充実していること。Galaxy Watch6を装着して寝れば、その日の睡眠状況をスコア化してくれる。例えば睡眠の深度や睡眠中の血中酸素、皮膚温度などを測定できる。また別売りながら、睡眠時の装着感を快適にするバンドも用意している。
もう1つの特徴は身体の測定機能の充実である。心拍数などに加え、筋肉や脂肪、水分などの体組成も、Galaxy Watch6の特定の位置に中指と薬指を付けるだけで測定できる。
ただこういった特徴よりも注目を集めたのがFeliCa対応だ。FeliCaベースの電子マネーサービスを利用できるようになった。発表時点ではFeliCaへの対応が明らかにされただけで、具体的にどの電子マネーサービスを利用できるかは分からない。だがGalaxy Watch6の販売を大きく後押しする可能性は高い。
スマートウオッチのFeliCa対応が進む。
最近では「Apple Watch」シリーズを提供する米Apple(アップル)だけでなく、米Garmin(ガーミン)や米Google(グーグル)、その傘下となる米Fitbit(フィットビット)などもFeliCaに対応したスマートウオッチを国内に投入している。
今回Galaxy Watch6をFeliCaに対応させたことで、サムスン電子は日本において競合ベンダーと台頭に戦える環境を整えたといえるだろう。では一体なぜこのタイミングで対応させたのか。要因の1つとして考えられるのはグーグルの存在である。
従来サムスン電子は、Galaxy Watchシリーズに独自OSの「Tizen」を用いていた。だがグーグルとの提携によって、グーグルのスマートウオッチ向けOS「Wear OS」とTizenを統合して「Wear OS by Google」にリニューアルした。その結果、サムスン電子も2021年9月発売の前機種「Galaxy Watch4」シリーズからはWear OS by Googleを採用している。
グーグルも2022年10月、Wear OS by Googleを搭載した独自のスマートウオッチ「Pixel Watch」を発売した。こちらはWear OS by Google FeliCaを搭載しているため、当初からSuicaを利用できた。
2023年7月28日にはWear OS by Google自身が「QUICPay」及び「iD」に対応し、Pixel Watchでもそれらを利用できるようになった。それ故同じOSを採用しているサムスン電子もFeliCa対応で先行するグーグルの知見を生かす形で、FeliCaへの対応を進めたと考えられる。
そしてもう1つの要因は、もちろん国内市場でのシェア拡大だ。国内のスマートウオッチ市場はスマホ同様アップルが圧倒的な強さを見せ、そこに低価格に強みを持つ中国メーカーが続く状況となっている。このためサムスン電子は海外のスマートウオッチ市場では強みを持つものの、スマホと同様に国内では思うようにシェアを伸ばせていない。
それだけにサムスン電子は、国内でニーズの高いFeliCa対応をどうにかして進めたかった。それがOSの統合で技術的な課題がクリアし、念願のFeliCa対応を実現できたと考えられる。
アップルに対抗する体制を整備。
ただスマートデバイスの軸となるスマホで、アップルの「iPhone」シリーズに圧倒的な差を付けられている現状、スマートウオッチ単独でシェアを拡大するのは難しい。そこでサムスン電子はここ最近、スマホやスマートウオッチ単体ではなく、スマートデバイス全体をアピールしている。
例えばGalaxy Watch6シリーズについては、折り畳みスマホの「Galaxy Z」シリーズと連携する機能をアピールする。連携することで、Galaxy Watch6シリーズをスマホのコントローラーとして活用できるという。このようにスマートデバイス同士の連携に力を入れることで、セットでの購入を促そうとしている。
先に触れたタブレットデバイスの販売からも、スマートデバイス全体で販売拡大をするというサムスン電子の狙いを見て取れる。サムスン電子はこれまでタブレットデバイスの国内販売を休止しており、前機種のGalaxy Tab S8シリーズで再開した。その間にタブレットの国内シェアをアップルの「iPad」シリーズに奪われ、タブレット単体での販売拡大が難しくなっている。
そこでiPadに対抗できる性能を持つ高性能のGalaxy Tab S9シリーズを本格展開。Galaxyブランドのスマートデバイス全体で展開することで、スマートデバイス全体の販売拡大につなげようとしている。
無論、日本で圧倒的なブランド力を持つアップルに対抗するのは容易ではない。だがスマートウオッチのFeliCa対応やタブレットデバイスのラインアップ拡充などによって、サムスン電子が日本でもスマートデバイス全体でアップルに対抗する体制を整えつつあることは確かだ。その成果が結実してアップルのシェアを切り崩せるか。今後大きな関心を呼ぶところだろう。