〇 米Apple(アップル)は2023年6月、15.3インチディスプレーを搭載したMacBook Air(以下、15インチモデル)を発売した。2022年7月から販売されている13.6インチディスプレー搭載モデル(以下、13インチモデル)と同様に「Appleシリコン」のMac向け第2世代「Apple M2」チップ(以下、M2)を搭載している。
15インチモデルと13インチモデルでは性能に違いはあるのだろうか。気になるところだ。そこで本記事では15インチモデルの性能を、筆者が約1年間使ってきた13インチモデルとの比較を交えながら紹介する。なお15インチモデルは、評価用にベンダーから借りた機器である。
15インチモデルではスピーカーが合計6基に。
15インチモデルはディスプレーが大きいのであらゆる作業が快適だ。次いで筆者がすぐに実感したのは、内蔵スピーカーの音の良さである。13インチモデルよりも明らかに低音域から中音域が豊かになり、音の広がりをより感じられた。
これには幾つかの要因がある。まず搭載されている内蔵スピーカーシステムが異なる。13インチモデルでは高音域用と低音域用のスピーカーが片側に1基ずつ、左右で合計4基搭載されている。15インチモデルでは低音域用が片側2基に増えて、合計6基になった。この低音域用スピーカーは「フォースキャンセリングウーファー」と呼ばれる。クリアな低音を再生でき、音量を上げても余計な振動が発生しにくい仕組みを備えている。
もう1つの要因は大型化したきょう体だ。これを内蔵スピーカーのエンクロージャーとして利用するため、13インチモデルよりも低音成分が増強できていると考えられる。加えて左右のスピーカーを物理的に離して配置できるため音が広がりやすい。アップルが提供する立体音響システム「空間オーディオ」がより効果的になる。
なお15インチモデルに限った話ではないが、MacBook Air本体を傾けて固定するスタンドを使うと、音の質や広がりが格段に落ちてしまうので注意しよう。音楽や映像作品を楽しむ場合はテーブルや机の上に直接置くのが最も望ましい。
スピーカーの開口部は、13インチモデルと同様にディスプレーのヒンジ側にある。そのためMacBook Proのようにキーボードの左右に細かい穴(スピーカーグリル)がない。これを「間延びしたデザイン」と感じるユーザーもいるが、個人的にはこれまでにないシンプルなデザインが気に入った。
音はディスプレーの下部に反射して耳に届くため、正面に開口部がなくても支障はない。また、スピーカーグリルの小さな穴に詰まるほこりに悩まされずに済む点も、個人的にはメリットに思えた。
13インチモデルとベンチマークで比較。
今回試用した15インチモデルのスペックは、M2チップ(8コアCPU、10コアGPU)でメモリーは16GB、ストレージは512GB SSD。比較対象となる13インチモデルのスペックは、M2チップ(8コアCPU、10コアGPU)でメモリーは24GB、ストレージは2TB SSDである。
搭載するチップはいずれもM2だが、メモリーとストレージは13インチモデルのほうが多く搭載している。
まずはベンチマークアプリ「Geekbench 6」を使って測定したCPUの性能値を紹介しよう。「シングルコア/マルチコア」の順で、13インチモデルが「2603/9869」、15インチモデルが「2591/9885」だった。測定値にはややばらつきがあったが、これらの値を見る限りCPU性能に大きな違いはないと考えてよいだろう。
GPUの値は13インチが「27932」、15インチが「27924」とこちらもほとんど違いはなかった。同じM2チップを搭載しているので想定通りの結果だった。
負荷の高いトランスコードで比較。
Geekbenchで計測するのは、3分程度で終了する処理に対する性能だ。もう少し長い時間負荷をかけた場合の性能も確認したい。そこで約60分の動画ファイル(約7GB)を使って、TS形式からmp4形式(H.265)へのトランスコードを実施した。アプリには「Handbrake」を利用した。
開始直後は200fps近い速度をマークしたものの、13インチモデルではすぐに100fpsを切り、70fps前後で落ち着いた。そのまま処理が進み18分9秒で終了。平均速度は94.25fpsだった。
次に15インチモデルを使って同じ条件でトランスコードを実施した。開始直後に200fps近い速度に達してその後150fps前後まで落ちたものの、そこからほとんど速度を落とすことなく処理を終えた。処理時間は10分46秒。平均速度は158.98fpsだった。15インチモデルのほうが13インチモデルよりも40%程度短い時間で処理できたことになる。
高い負荷が継続してかかる「重たい処理」では、同じチップを搭載していても冷却システムが異なると性能に差が生じる。MacBook Airは13インチモデルと15インチモデルのいずれにも冷却ファンがない。いわゆる「ファンレス」だ。温度が高くなり過ぎた場合にはCPUの処理能力を落として発熱を抑えるしかない。
今回比較した15インチモデルと13インチモデルでは、15インチモデルのほうがきょう体が大きく熱を逃がしやすい。そのため15インチモデルは処理能力をある程度高い状態で維持できたと考えられる。
ちなみにトランスコード中の発熱もアプリを使って測定した。このときの室内の温度は約27℃。13インチモデルでは最後まで100℃以下にならなかったのに対し、15インチモデルでは90℃前後の状態が維持されていた。このことからも15インチモデルのほうが排熱性能は高いことが分かる。
MacBook Airにおいては、処理性能を期待して15インチモデルを選択するユーザーは少ないかもしれない。しかし大きなディスプレーを備えた上に重たい処理に対する性能が高いと考えると、動画編集に使いたいユーザーにはうれしいだろう。
15インチモデルは「8コアCPU/10コアGPU」のみ。
最後に13インチモデルと15インチモデルの販売価格を比較しよう。直販サイトではM2チップ搭載MacBook Airは13インチモデル、15インチモデルともに上位と下位の標準モデルが用意されている。
15インチモデルの下位と上位は、搭載されるストレージのみが異なる。下位が256GBで上位が512GB。どちらもM2チップは8コアCPU/10コアGPUで、メモリーは8GB。下位モデルのストレージをCTOで512GBにアップグレードすると、上位モデルと同じ価格になる。
13インチモデルもストレージが256GBと512GBで下位と上位に分かれる。メモリーはどちらも8GBだ。ただし下位には8コアCPU/8コアGPUのM2チップが搭載され、その分安価に設定されている。
13インチモデルと15インチモデルの上位、下位それぞれの直販価格は次の通り。いずれも税込み価格である。
13インチモデルと15インチモデルの価格差を比較すると、下位同士のほうが差が大きい。これは13インチモデルだけがGPUコア数の少ないM2チップを採用しているからだ。もし15インチモデルの下位も8コアCPU/8コアGPUのM2チップを採用していれば、価格はもう少し下がって18万円を少し上回る程度だったかもしれない。
13インチモデルの下位には、M2チップを8コアCPU/10コアGPUにアップグレードするCTOメニューが用意されている。これによって「ストレージは256GBで十分だけど、GPUは10コア欲しい」「価格の安い8コアGPUを選択して、予算をメモリーの増強に回す」といったカスタマイズが可能になる。15インチモデルは8コアCPU/10コアGPUだけなのでこういった選択はできない。
とはいえ、費用を少し追加すれば快適な15インチディスプレーとより迫力のあるサウンドシステムが手に入る。加えて重たい処理についてはより高い性能を期待できる。これらを考慮すれば、15インチMacBook Airは誰にでもお薦めできるマシンだと感じた。