カオスの世紀

カオスとは「混沌」、そしてこの21世紀に生きる自分の混沌とした日常を気ままに書き綴っていきます。

きみにしか聞こえない(ネタバレ注意)

2007-06-23 | 映画(邦画)
若者を中心に絶大な人気を誇る作家乙一(おついち)。彼の作品の中でも人気の高い作品の映画化だ。
実は最近、偶然にも私の好きな漫画家古屋兎丸氏とのコラボによる作品、少年少女漂流記を読み、さらにはこの乙一氏のファンの方からの紹介で、彼の作品を読んでいた。しかも、始めに読んだのがこの映画の原作だった(原題はCalling You)。
僕はこの作品を読んで本当に久しぶりに小説を読んで泣いた。特にラストはせつないながらも、前向きな気持ちになれる、そんな不思議な作品だった。それが映画化されると聞いて、期待と正直不安も持ちながらも見に行こうと思っていた。

原作のある物語を映画化するというと、その原作ファンに受け入れられるか?これはやはり大きなポイントだろうと思う。もちろん、映画であるのだから原作の事を意識しすぎても、いけないのだろうが、やはり原作ファンの支持があるかどうかはこういう場合大きいと思う。そして、僕はこの原作のファンだが、この映画を大いに支持したいと思う。

原作は短編である。普通に作品にすれば、せいぜい1時間枠のテレビドラマくらいの尺にしかならないだろう。2時間近い映画にするには、この原作の世界を膨らませないといけないという事になる。しかしそれは作品の正否を左右する。

内気な女子高生リョウ(成海璃子)は、学校でもいつも孤独だ。そんな彼女はケータイを持っていない。話す相手が居ないからだ。ある日、そんな彼女の頭の中でケータイの着信音がなる。彼女が出るとそれは見知らぬ青年シンヤ(小出恵介)からだった。戸惑いながらも、少しづつその不思議なケータイで繋がっている二人は距離を縮めて行く。お互い孤独だった二人だったが、お互いの存在が大きなものになっていくに従って”人の繋がり”に喜びを感じ始める。やがて、二人は会う約束をする。そして、その当日、二人には思いがけない出来事が起きて、せつない出会いと別れがそこには待っていた・・・

原作の話を膨らませるのに、主人公の一人シンヤのキャラクターを新に作り出した。原作では、物語はリョウの一人称で語られる為、ケータイで話す時以外は、ラストでの出会いしか、シンヤは具体的には出てこない。しかし、映画ではシンヤの方の物語も描かれる。そして、シンヤには”耳が聞こえず、話す事が出来ない”という新しい設定がなされている。
これは脚本家もかなりの冒険だったかもしれないが、結果としてこの事が映画からのメッセージを強くする事が出来るきっかけになっていると思う。つまり、シンヤは孤独なうえに、彼にはリョウの声しか聞こえない、そしてリョウにしか話す事が出来ないという事になり、よりこの物語のラストを切ないものにしている。

そして何よりこのシンヤのキャラクターを活かしきっているのは、小出恵介の素晴らしい演技だ。彼はいつも優しく包み込むような笑顔を浮かべている。彼は心の中でしか話せないので、セリフをしゃべるシーンはもちろん無い。それなのに彼のその微笑みが見る者の心まで温かく包んでくれる。リョウの孤独が癒されていくのが、シンヤの温かさであり、そして、シンヤ自身もリョウとの会話で孤独から開放されていく。そんなシンヤの難しい設定を小出君は素晴らしい演技で演じきっている。

映画自体もシンヤの優しさのように、静かに包み込まれるような雰囲気に満ちている。そして、リョウの住む横浜、シンヤの住む長野、そしてシンヤがかつて住んでいた街鎌倉、このそれぞれ違った景色ながらも美しい風景が映画の魅力を大きくしてくれた。映像化の最大の利点を大いに活かした作品だ。

物語のラスト、小説で涙したその切ないラストを知っているだけに、リョウ演じる成海璃子のシンヤに会いたい気持ちを叫ぶシーンで、もう涙が出てしまった。彼女の演技も素晴らしい。孤独な少女として暗い雰囲気の演技から、シンヤとの出会いで明るい表情を見せていくその変化を良く演じている。

そしてラストの二人のあまりに切なく、そして唐突な出会いと別れ・・・もう涙は止まらない。原作を知っていて、その原作にある程度忠実にその切ない話は展開していく。ただ、シンヤがリョウの事を気づくシーンは原作とは違ったが、原作よりもこっちの方が見事だと思った。いや映像化するにあたってはこれほど見事な設定の変更は無いだろう。原作の乙一氏も納得だと思うが・・・。

ラストシーンでリョウがもう声が聞こえないシンヤに向かってシンヤさん!聞こえますか!と彼の故郷の山に向かって叫ぶシーンは鳥肌が立つくらいに素晴らしかった。ラストシーンまで僕の涙はとうとう止まる事は無かった。
若い二人の俳優のおかげで素晴らしい映画になったと思う。感謝したい。

最後に主題歌はドリカムが映画の為に書き下ろした「きみにしか聞こえない」。正直、ドリカムはそんなに聞かない方だが、この曲のメロディーがモチーフとなって、映画の中のいろんなシーンで流れたがこれがとても美しい。時にストリングで、時にピアノのソロで、映画全体を優しく包み込むモチーフとなっている。改めて映画を見て聞いて好きになった。

原作ファンにもぜひ薦めたい映画だ。そして映画を見て感動した人にはぜひ原作を読んで欲しい。
きっとどちらも切なくも優しい涙に包まれる作品であると思う。

オリジナル・サウンドトラック「きみにしか聞こえない」
サントラ
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きみにしか聞こえない―CALLING YOU

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
優しい涙~☆ (blue☆)
2007-06-24 21:43:55
あ...マダ観てないのですが、
すっごく楽しみです!
原作がとってもイイだけに、不安だったのですが
takeoさんの言葉に安心しました!
璃子ちゃんも小出くんも大好きなだけに。
そういえば、小出くんはのだめの真澄ちゃんとは
これまた全然違うキャラ...ですよね...
さすが、演技派!!

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小出君に癒されて (takeo)
2007-06-24 22:10:55
本当に彼の笑顔がいいんです!
原作ファンでもきっと感動すると思います(自分がそうでした)。
もう本当に途中から涙が止まらなくてやばかったです。
映画で号泣したのも久しぶりかも
そう言えば、小出君は真澄ちゃんですよね!
初めはついつい真澄ちゃんのキャラが強烈だったんで、どうなのかなあと思ってましたが、彼の澄んだ瞳に癒された感じです。
成海璃子ちゃんも本当にかわいくて、何であのラスト・・・あ~書いててまた涙です。ぜひ見てみて下さい!
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追伸 (takeo)
2007-06-24 22:13:27
乙一氏との出会いはblue☆様のおかげです!
しかも初めて読んだ作品でした。なのでとても感謝しています!
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