世界の人権・紛争・平和

ヒューマン・ライツ・ウォッチ セネガル:チャドの元独裁者裁判のビデオ公開

セネガル:チャドの元独裁者裁判のビデオ公開

イッセン・ハブレへの判決が5月30日に言渡される

(Dakar, May17, 2016) – Human Rights Watch today released a new video, “Hissène Habré: Scenes from an historic trial,” about the trial in Senegal of the former Chadian dictator Hissène Habré. At the end of the trial on February 11, 2016, the court announced that the verdict would be scheduled for May 30. Habré faces charges of crimes against humanity, torture, and war crimes before the Extraordinary African Chambers, which is part of the Senegalese court system.

(ダカール、2016年5月17日)-ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下HRW)は本日、チャドの元独裁者イッセン・ハブレのセネガルで行われている裁判を取扱った、新たなビデオ「イッセン・ハブレ:歴史的裁判の光景」を公表した。裁判が結審した2016年2月16日、裁判所は判決言い渡し予定日を5月30日と公表した。ハブレは人道に対する犯罪、拷問、戦争犯罪の各容疑で、セネガルにおける裁判制度の一部である特別アフリカ法廷で、裁判に掛けられている。

Habré’s trial, which began on July 20, 2015, was the first in the world in which the courts of one country prosecuted the former ruler of another for alleged human rights crimes. Witness hearings ended in December, after 52 days of trial, and were followed by the parties’ summations in February. The new Human Rights Watch video highlights some of the key moments of the trial.

2015年7月20日に始まったハブレ裁判は、ある国の裁判所が人権犯罪容疑で他国の統治者を訴追する、世界で初めてのケースだ。証言者審理は、52日間にわたる裁判の後、昨年12月に終了、その後今年2月に被害者・検察・被告人による最終陳述が行われた。HRWによる新たなビデオは、裁判における重要局面に幾つかに光を当てた。

“It took 25 years of relentless campaigning by the Chadian victims to make this trial happen,” said Reed Brody, counsel at Human Rights Watch who has worked with the survivors since 1999. “We hope that other survivors, other activists will be inspired by what Hissène Habré’s victims have been able to do.”

「この裁判が行われるのに、チャド人被害者による絶え間ない運動で25年かかりました」、と1999年以降ハブレの被害者と伴に活動してきたリード・ブロディHRW法律顧問は語った。「イッセン・ハブレによる被害者がやれたことで、他の生存者や他の活動家が元気づけられることを、私たちは期待しています」

A Human Rights Watch team will be in Dakar beginning May 25, 2016, along with leaders of the victims’ campaign and the victims’ lawyers. Human Rights Watch will also have representatives in Paris available for interviews.

HRWチームは被害者キャンペーンの指導者や被害者弁護士と共に、2016年5月25日にダカール入りする予定だ。HRWは、インタビューできる代表団をパリにも送り込むつもりだ。

Habré is accused of thousands of political killings and systematic torture during his rule, from 1982 to 1990, when he was deposed by the current president, Idriss Déby Itno, and fled to Senegal. After a 22-year campaign by his victims, the chambers indicted Habré in July 2013 and placed him in pretrial custody. After a 19-month investigation, judges of the Extraordinary African Chambers found that there was sufficient evidence for Habré to face trial.

ハブレは1982年から、現チャド大統領イドリス・デビー・イトゥノに失脚させられ、セネガルに逃亡した1990年にかけての統治時代に行ったとされる、数千もの政治的殺人並びに拷問の容疑で起訴されている。被害者による22年にわたる運動の末、同法廷は2013年7月にハブレを起訴し、審理前拘禁した。19ヶ月を費やした捜査の後、特別アフリカ法廷の裁判官たちは、ハブレを人道に対する罪、拷問、戦争犯罪の各容疑で裁判に掛ける、十分な証拠があるという判決を下した。

A Human Rights Watch question-and-answer document includes information about the history of the case and details about the trial and the Extraordinary African Chambers.

HRWが今年5月にアップデイトしたQ&A文書は、事件の経過についての情報、及び裁判とアフリカ特別法廷に関する詳細を盛り込んでいる。

 

ビデオ字幕(https://www.youtube.com/watch?v=yFuKOy3qXTY

ナレーション

イッセン・ハブレは1982年から1990年にかけてチャドの独裁者でした。彼は数千もの政治的殺人並びに組織的な拷問の容疑で起訴されています。彼の裁判は2015年7月20日、セネガルの特別アフリカ法廷で、3人の裁判官の指揮で始まりました。

 

証人 カルツーマ・デファラー

私が経験した苦しみを詳しくお話しするために、今日、この場に立てたことを光栄に思っています。

ナレーション

この裁判が始まるまでに20年にも及ぶ被害者による絶え間ない運動がありました。被害者は、代理人である弁護士たちを通じて、この裁判の当事者でもあります。裁判の初日にハブレは、騒ぎ立てながら法廷に連行されてきました。何が起きたのは明らかでありませんが、法廷は極めて物静かにハブレ氏に、こう言いました。

 

アフリカ特別法廷裁判長  グベルダオ・グスタフ・カム

貴方が同意するか否かに関わりなく、当法廷は貴方に、強制力を持ってここに連行されるよう命じます。何があろうと、法の支配が優先するのです。

ナレーション

この瞬間に、裁判が開始されることが明らかになりました。この裁判の立役者は、被害者自身です。スレイマン・グェングェンのような人々が、訴追を求めて闘ったために、ハブレは裁判に掛けられることになりました。

 

証人&被害者協会設立者 スレイマン・グェングェン

2年半の刑務所暮らしの間、私は友人や囚人仲間が餓死したり、絶望のあまり亡くなったり、拷問死したり、病気で死んで行くのを見ました。入れられていた監房の奥で、生きて出られたら、法の正義実現のために戦うと神に誓ったのです。

裁判官の前に立ち、証言するのだと誓ったのです。実際私はもう満足しています。

 

ヒューマン・ライツ・ウォッチ  リード・ブロディ

93人の証人が証言しました。その殆どが直接の被害者ですが、ハブレ時代の刑務所内における死亡率について証言したデータ分析専門家、多数の遺体が埋められた場所を発掘した検死チーム、約600人の拷問被害者を治療したフランス人医師、ハブレが書いた警察文書を特定した筆跡鑑定専門家なども証言しました。最も重要な証人は、イッセン・ハブレの政治警察、通称DDS元工作員のバンジュン・バンジンでした。彼は、警察長官が書類を持って毎日ハブレの所に行っていた、と証言しました。

 

被害者側弁護士 アサン・ディオマ・ンディアエ(Assane Dioma Ndiaye

ハブレ大統領だけが釈放を命令できました。あなたはそれを裏付けられますか?

 

証人&元政治警察官 バンジュン・バンジン

ハイできます。ハブレ大統領閣下宛ての公式文書があり、警察長官がそれらの書類を大統領に持って行きました。それに注釈がつけられて戻され、それに基づいて囚人は、釈放されたか、処刑されたか、拷問されました。私は、それを裏付けることができます。

 

被害者側弁護士 ウィリアム・ブールドン(William Bourdon

貴方がおっしゃった文書は、時に「見た」、「釈放」、処刑を意味する「E」というような注釈がつけられて戻されたそうですが、あなたはそれを裏付けられますか?

 

証人&元政治警察官 バンジュン・バンジン

ハイできます。私はそれらを、文書庫でみましたから。

 

ナレーション

オリヴィエ・バルコーは元HRWの調査員で、その警察文書について「それらを発見した」と証言しました。

 

元HRW調査員 オリヴィエ・バルコー

DDSの建物内で、私たちは、床に散乱していた数千の文書を発見しました。多数の政治犯や捕虜のリストがあり、多くの死亡診断書もありました。

 

ナレーション

モハメド・ノア・ダージーは、「ある日、以前何度も来ていた大統領の車が、ハブレの近しい顧問だった父親の屋敷の前に来て、DDS長官が、大統領があなたに会いたがっていると伝え、父親は連行されたが、それ以降消息不明になった」、と証言しました。

イッセン・ハブレは、裁判所の合法性を認めておらず、彼の弁護士は出廷を拒否、それで法廷はやむなく裁判所指定の弁護士を、ハブレの代理人に指名しました。

 

被告側 弁護人 ムーニール・バラール(Mounir Ballal

私は、不適切な接触によって汚職に塗れた事はございませんので、被告人にご安心くださいと申し上げます。保証いたします。

詳細に読み込みますと、様々な宣誓証言に大きな相違・矛盾があります。

 

ヒューマン・ライツ・ウォッチ  リード・ブロディ

弁護を拒み続けるのは、恥ずべきことで、法廷と歴史がハブレの側の話を審理する可能性を奪っていると思います。

 

この証人は死を逃れましたが、傷痕までからは逃れられませんでした。

1970年に撮影したこの人の写真を、弁護士が掲げた時、この人は涙をこらえきれず、「ヤツラが私の顔を醜くした」、と叫びました。

 

証人 ロベルト・イッセン・ガンビエル(Robert Hissen Gambier

私は新鮮な空気を吸い込みましたが、そこに居た他の人たちは倒れていました。周り中死体で、みんな・・・。私は460人の死んだ人々の一員だったので、「サバガルモウ」、と呼ばれました。私は生き残ったので、「サバガルムウ(Sabagalmout)」、「死より早く走る男」と呼ばれるようになりました。

 

ナレーション

裁判に最も影響を与えた証言の1つは、刑務所内の性的奴隷とレイプについての証言でした。

 

証人 カディジャ・ハッサン・ジダン(Khadidja Hassan Zidane

彼らは強制的にセックスしました。強制的です。

 

証人 カルツーマ・デファラー(Kaltouma Defallah

アウアディ・ドーム(軍事基地:Ouadi Doum)に私たちがいた時には、治療は全く受けられませんでした。十分な食事も与えられませんでした。彼らは、性的奴隷としてだけ私たちを連行したのです。薬は与えられました。後で気が付いたのですが、それは妊娠しないためのものだったのです。

 

被害者側 弁護士ジャクリーヌ・ムデイナ(Jacqueline Moudeina

この宣誓証言で最も重要なのは、他の女性が被害者にしないよう、こういう事実があったというのを知らせることと、その犯罪を訴追することです。なぜならば、私たちはチャドで行われたレイプについて、殆ど語らないからです。

 

ナレーション

ジャクリーヌ・ムデイナは、これまで16年間被害者の闘いを率いてきました。ハブレの共犯者の1人による、暗殺未遂事件も経験し、足に破片が残っていますが、戦いをあきらめませんでした。

 

被害者側 弁護士ジャクリーヌ・ムデイナ(Jacqueline Moudeina

裁判長閣下、これらすべて背景、それらすべての残虐行為の背景、人々が耐え忍んだ拷問、人々の失踪、このすべての背後に、責任を負うべき1人の人物が存在します。その人物こそが、イッセン・ハブレ氏なのです。

 

ナレーション

被害者側の最終弁論が終わった後、主任検察官は最終陳述を行いました。

 

主任検察官 ムバケ・フォール(Mbacke Fall)

イッセン・ハブレは有罪とされるべきです。複数の拷問罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪に対して、イッセン・ハブレは有罪となった犯罪について刑罰を下されるべきです。以上が、私が裁判所に、イッセン・ハブレに終身刑を言渡して下さるようお願いする、理由であります。

 

証人&被害者協会設立者 スレイマン・グェングェン

終身刑という言葉が、私の耳の中で鳴り響くのですよ。ハブレはやりたい放題をやったのですから、刑務所で生涯を終えるべきです。それが私の希望で、そうなると信じています。

 

ナレーション

この裁判は、不屈の忍耐力を備えた被害者は、独裁者を裁判に掛ける、政治的状況を作れることを、明らかにしています。そして今、ハブレの被害者が成したことを目撃したことで元気付けられた、他の被害者と他の生存者が、法の正義実現のために戦い、決して諦めなかった人々を見て、私たちも同じことができると言い出す、期待が高まっています。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「日記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事