春烙

寒いなあ…

竜を喰らう竜 2話

2013年05月01日 19時28分37秒 | 竜を喰らう龍『四神伝×創竜伝』


 お昼頃。余は一人、家の近くにある公園に設置してあるベンチに座りながら、ぼんやりと空を見上げていた。


「(なんで言わなかったんだろう……)」


 余は今朝見た夢の事を、自分の兄弟に告げなかった。いや、告げようとしなかったのだ。

 言ってはいけない、そう思ったのは夢のせいだろうか。だが、それだけで決めつけるのは良くないと思ってしまう。


「(そういえば、夢にいたあの人)」


 夢の中で弓を引いていた、白い肌をした美しい女性。

 初めて会うというのに、どこか懐かしいと余は心のどこかで感じ取った。
 また会えた。それはいつなのか、分からない。もしかしたら、自分の前世で会っていたのかもしれない。


「……戻ろう」


 やっぱり兄さん達に話しておこう。そう決めた余はベンチから立ち上がった。

 その時。


「話されると困るのよね」


 振り返ると、さっきまで座っていたベンチの隣に自分より年上の、踊り子の服風を着た少女が座っていた。


「主が望んでいないのよ、貴方が他の竜王に話されるのが」

「誰?」
「私は澪(みお)」


 少女、澪は立ち上がると、余に手を差し伸べだした。


「主の命で貴方を迎えに来ました。四海竜王の一人、黒竜王様」

「なんで、僕を……?」
「主から貴方の事を、もちろん他の竜王様も聞いております」


 澪から漂ってくる何かに、余は悪い予感を感じ急いで離れようとした。

 だが、腕を澪に掴まれ阻止されてしまう。


「放してよ!」

「他の竜王様もいずれ迎えに行きます。逃げる事はありません、主は大切にしてくれますので」


 逃れようとしてみるが、強く掴まれていて出来なかった。

 と、後ろから体を抱きしめられたかと思えば、澪の手が自分の腕から離れていった。


「知らない奴に大切にされるだなんて、逃げるに決まってるだろうが」


 振り返ると、金髪の青年が余の体を支えるように抱きしめていていた。

 澪は金髪の青年を、ギッとまるで嫌うかのように睨みつけた。


「貴様は黄帝、紛いの竜か!」

「黄竜が正しい名前なんだが。お前の主は相変わらず俺を嫌っているようだな」
「黙れ、竜種ではない貴様が竜の名を使うな。黒竜王様を返してもらう」
「返すも何も、勝手に連れていこうとしてただろうが」


 たくっと吐き捨てると、青年は余を放すと彼の前に立ちなおして澪と向き合った。その時、青年の手には剣が握りしめられていた。


「黒竜王を連れていくってんなら、俺を倒してから連れていけ」

「……貴様と勝負しても構わないが。主がお呼びになっていますので、今回は黒竜王様の姿を見ただけにしておきましょう。黒竜王様、いずれまたお迎えに参りますーー」


 そう言い残し、澪の体は蜃気楼のように消えてしまった。

 青年は舌打ちをすると、余の方に向き直した。掴んでいた剣は、光の粒子となり手にはなかった。


「大丈夫か?」

「あ、はい。助けていただいて、ありがとうございます」
「いや、気にすんなって。しっかし……」

 余の顔をジッと眺めていたかと思えば、青年は頬を指で突つきだした。

「まさか、竜王も転生してたとはな。どうりで懐かしい気配が感じたはずだわ」
「懐かしい?」
「ああ。俺は黄竜、現世では火宮ジュンっていうんだ」
「あっ、僕は竜堂余と言います」
「礼儀がいいな」


 青年、火宮ジュンはそう告げると、余の髪を乱暴にかき乱した。


「たまたま散歩中に、すっげえ嫌な気配を感じてみたから来てみたんだが。あいつ、封印が解けたみたいだな……翼乃が呼ばれた理由が分かった」
「あの澪っていう女の子の、主の事ですか?」
「お前ら兄弟の前世とも関わっていてな。まあ、心配すんな。こっちで片付けるから、お前は平和に暮らしてくれよ。今日のこと、お前の兄貴たちには言うな」
「え、でも……」


 狙われているなら話しておきたいと俯いてしまう余に、ジュンは目を合わせるように体を屈ませた。


「大丈夫だ。お前より強い奴がいるからな」
「……本当?」
「ああ。竜の名の付く同士の約束だ」

 小指を突きつけられ、余は恐る恐る自分の指を絡めた。その時、前にもジュンとこうしたことがあると、錯覚を覚えてしまう。

 


 



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