「やっと、ついた……」
数分後、沓馬たちは水野家がある頂上へとたどり着いた。
だが。彼らの目の前には、異様な空気を漂わせている少年少女たちの姿があった。
「……なんだ、これ?」
「恵? 優斗くんも」
「あ、皆きた~~」
声のする方へ目を向けると、長椅子に座ってカキ氷を食べているジュンたちがいた。その中には、余の姿もあった。
「ゴール~」
と、鈴を鳴らしながら、お淑やかそうな少女が近づいてきた。
「おめでとうございます。よくここまで上りきったものですね」
お祝いの言葉を告げるが、口調が荒々しい。
「やあ、汐子ちゃん」
「沓馬先輩とスミレ先輩も、ご一緒だったのですか」
「知ってる奴?」
少女と親しげに話す沓馬に、終が尋ねた。
「彼女は、水野汐子ちゃん。この神社の巫女をやってるんだ」
「初めまして。水野汐子と申します」
「汐子ちゃんは、翼乃ちゃんの親友で、逝和中等部の魔女なんだよ」
巫女が魔女やっていいのかと、微笑む汐子を見て思った。
「だからさー。翼乃ちゃんにあんまり近づかないでって、言ってるんだけど」
「それは私のほう!」
「二人とも、うざいです」
優斗・恵・笑みを浮かべている少年が言い合っているのを耳にし、沓馬は汐子に尋ねた。
「汐子ちゃん。あの三人、何やってるの? バカ??」
「いや、バカじゃないだろっ」
「実は……」
「何度目の回想シーンだ」
(回想シーン)
『あら。この子って、翼乃がいっていた子?』
と大人びた少女が、近づきながら尋ねてきた。少女のほかにも、敦司や青年たちが寄ってくる。
『そうだ』
『あっ。このカキ氷、おいしい』
『でしょ!』
余はアスカにすすめられたカキ氷を食べていた。
『こんばんわ』
のんびりとした少年が挨拶してきて、恵も「こんばんわ!」と元気よく返す。
『元気がいいね』
と、優しそうな青年が言う。
『たしか、こいつだろ? 神に懐いているのっては』
『そうだけど。てか仕事場に行かなくていいのか、連?』
『やる気がなくなった』
『あっそ』
『うっ!……』
『頭にきくぅ~』
アスカと余は冷たさが頭に響きながら、カキ氷を食べていた。
『瞳と通も、やる気がないのか』
『行くのが面倒だわ』
『ぼくは、どっちでもいいよ』
『じゃあ、手塚とタカさんは』
『疲れてきたから、休んでいたよ』
『行っても良いが。あいつが……』
メガネをかけた青年が鳥居にいる少年に目を向けると、翼乃たちは「ああ…」と同じように視線を向けた。
『……不二か』
『まあ、あいつはここにいてもいいんじゃねえのか。なんか似合ってるし』
『何が似合ってるの?』
と、突然鳥居の方で海斗に叱られていた少年が、翼乃の後ろに現れてきたのだ。
『うわっ!?』
『キャ!』
恵は驚いて、翼乃に抱きついた。
『不二! 突然現れるなと、言っているだろ!!』
『そうじゃなくて!』
『……ねえ、翼乃ちゃん。この子、誰?』
不二は翼乃に抱きついている恵を、なぜか睨みつけながら聞いてきた。
『前に話しただろ。最近知り合った』
『天風恵です。中2です』
と、恵は不二を睨み返しながら言った。
『ふーん……。僕は不二周助っていうんだ。翼乃ちゃんと同じ、中3』
と言って、不二は翼乃の後ろから抱きつく。
『翼乃お姉様と同年なのですか? 私、てっきり2年だと思ったー』
と言い、恵は翼乃に強く抱きつく。
『へぇ。翼乃ちゃんの事を、「お姉様」て言ってるんだ』
と言って、不二は恵を翼乃から離す。
『そうだよ』
と言い、恵は翼乃の腕に絡みつく。
『君、翼乃ちゃんから金魚貰ったんだってね?』
『うん、そうだよ。アスカ君と余くんと、一緒にね』
「何。取り合い??」
「中断させないで下さい」
年下が微笑みながら注意すると、零は怖くなって謝った。
『先輩から離れてくれませんか』
とそこに、優斗が近づいてくると、翼乃の周辺にドス黒いものが流れ始めてきた。
『え。やだ』
『ヤダ、じゃありません』
優斗は、翼乃の空いている手を掴み引っ張る。
『ちょっと、優斗くん! お姉様を取らないでよ!!』
と言って、恵は反対の腕を引っ張る。
『取らないでほしいのは、君のほうだよ』
と、不二は翼乃の後ろから引っ張りながら告げた。
『二人ともです!』
『てめぇらが放れろ――!!』
「そして、取っ組み合いが15分も続いた後のこと……」
『『(まだあるのか……)』』
『翼乃ちゃん!』
『だ、だぎか……』
3人に解放され倒れている翼乃の所に、一人の青年が近づいてきた。
『て、大丈夫?』
『見ればわがるだろうが………』
『なんだか、絞められた状態で話しているようだわ』
『すぐに治るだろ。それより、なんでここにいるんだ、滝?』
翼乃の代わりに、連が滝に尋ねた。
『実は、理菜ちゃんが!』
『! 理菜がどうしたんだ!?』
翼乃は立ち上がり、「な、言ったとおりだろ」と連は滝に言った。
『たしかに、言ったとおりだけど……』
『それで。理菜がどうしたのよ』
『理菜ちゃんが、変な人に連れて行かれちゃったんだ!』
『……滝。変な人って、一体何が変なのか言えよ』
『夏だというのに、黒いスーツを着ていた』
『夏用のスーツがあるよ?』
『健次くんが、その人たちは人間じゃないって言ってた』
それを先に言え!! と全員が滝に突っ込みを入れた。
『妖魔かな?』
『あいつら以外いるか?』
『『いません』』
『夏祭りぐらい、来るなよな』
『それは無理な話だろっ』
とジュンが近づいてきて、言った。
『泳地たちから伝言。自分でやれ、だと』
『ずるいだろ、自分達だけっ』
『落ち着けって』
『落ち着けと言いながら触ろうとするな――ッ!!』
翼乃は胸を触ろうとするジュンを、力強く殴りつけた。
『また力を上げたようだな』
『それでどうする? 理菜をほっておくと大変なことになりかねないわよ』
『確かに。あいつをそのままにしておくと、周りに被害がまねかねないからな』
『どういう事?』
一人だけ、滝は翼乃たちの会話についていっていなかった。
『そうか。滝は理菜の秘密を知らなかったんだよな』
『あの子、一人で長くいると大変なことになるのよ』
『見てみたいなら俺と来い、滝。他は理歌の所に行ってくれ』
『理歌の所にですか? なぜですか??』
『俺が理菜の所に行くと、かならず理歌の方にも送るだろ。あいつ今、柳と赤也と一緒にあの場所にいるから』
『そうか。あの場所なら、翼乃ちゃんはむやみに手を出せないから』
『ああ。俺と沓馬兄ちゃんとバ海斗は、あそこじゃ無理だ。むやみに技を使うと点火してしまうから』
『略すな!』
と海斗が言ってきた。
『海斗も一緒に来い。ジュンは理歌の所に行ってくれないか』
『ああ、いいぜ』
いつの間にか、翼乃に殴られたジュンが回復していた。
『回復、早っ!』
『慣れているからな』
『汐子。お前は一応残っていてくれないか。あの三人が気になるからっ』
『ええ。私も気になりますので、あの三人に』
『頼んだぞ。全員、行くぞ!』
『『了解ッ!!』』
(回想終了)
「……ということですので」
「ずいぶん、長い回想だったな」
「てか。あいつら、いつまで睨みあっているんだ?」
翼乃(たち)がいないというのに言い争っている優斗・恵・不二の三人を指しながら、零は言った。
「気がつくまででしょうね」
「わぁ。俺も一緒に行きたかったなぁ~」
なぜか嬉しそうに笑っている沓馬。
「(黒怖っ!)」
と終が思っていると、沓馬が黒い笑みをしながら振り向き。
「今、思ったことを言えよ」
「すみません!!」
「水野」
と目を細めた青年が汐子の方に近づいてきた。
「柳くんですか? どうしてここに??」
「飲み物を取りに来た。他の奴らはどうした」
「不二くんはあそこで後輩たちと争っていて。翼乃と海斗くんと滝くんは理菜ちゃんの所へ、他は理歌ちゃんの所に行っていますよ」
「……何かある確率、97.6%」
データ分析!?と柳を知っている者以外は驚いていた。
「そうだとしたら、飲み物を取って戻らないとな。面白いデータが取り損なってしまう」
「なんだか面白そうだから、一緒に行くよ」
「「「「面白そうって!!?」」」」
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