シドニーの風

シドニー駐在サラリーマンの生活日記です。
心に映るよしなしごとをそこはかとなく書き綴ります…祖国への思いを風に載せて。

出生率のこと

2009-03-17 22:19:22 | シドニー生活
 先日、オーストラリアにおいて2004年から始まった出産手当(ベビー・ボーナス:5千豪ドル)が、2006年までの間に、出生率(合計特殊出生率のことだと思いますが)を1.763人から1.817人まで、3.2%押し上げたという分析結果が公表されました。所詮はこの程度の上昇率で、果たして文字通りに受取ってよいのか、経済的な支援だけで結果が出るほど甘くないと思いますし、他にもいろいろ要因がありそうで、これだけでは何とも判断のしようがありませんが、1.8人前後という高水準には些か驚かされました。
 周知の通り、日本の出生率は、2005年に過去最低の1.26人、2007年には若干持ち直したと言っても1.34人という低レベルです。シンガポールや台湾は1.2人前後、韓国は1.1人を切り、香港に至っては0.8人という低さです。オーストラリアが1.8人を越えるのは、イギリスや北欧諸国並みで、アフリカや一部のアジア諸国は別格としても、先進国の中では異例の高水準を維持していると言えます。
 日本において出生率が低いのは、男女とも晩婚化による未婚率増大が直接の原因とされます。その背景を見ていくと、そもそも無職や雇用の不安定な若者が増加するなど、若者が社会的に自立し家庭を築き子どもを生み育てることが難しい社会経済状況となっていること、30代男性を中心とした育児世代に多い長時間労働や、育児休暇制度などの活用が進まず、依然として子育ての負担が女性に集中していること、さらに女性の社会進出も進む中で、地域における子育て支援体制が十分ではないことなど、いろいろ論じられ、それはそれでその通りなのでしょう。諸外国、とりわけ出生率が比較的高い北欧諸国との比較で言うと、例えばスウェーデンなどでは婚外子(結婚していないカップルの間に誕生した子供)に嫡出子と同等の法的立場を与える法制度改革が進められているのに対して、日本ではそもそも婚外子を避ける保守的な家庭観が根強いこと、また依然厳しい住宅事情や高学歴化による教育費高騰など子育てに金がかかり過ぎること、そのため子育て支援の社会インフラが追いついていないことが際立っており、恐らく出生率が低い東アジア諸国(シンガポール、台湾、韓国、香港)とも共通するところがあるのではないかと思われます。
 そんな中、長野県下條村が、2003~06年の平均出生率2.04人という高水準を達成したというので、ここ数年、全国各地から250以上の視察団が訪れていることを、日経ビジネス・オンラインが取り上げていました。そこでのポイントは、介護や子育てなど住民生活に直結するサービスは市町村の方が住民のニーズを知っているので、何かと制約条件が多い国からの「補助金」「地方債」「交付税」の「地獄の3点セット」に頼らず、飽くまで村独自の子育て支援を充実させたことに尽きると述べられています。市町村にはそれぞれの地域事情がありますから、全国一律というのは余り意味がないのかも知れません。その村長さんが、子供の声を聞くと年寄りの背中もぴんと伸びる、子供を増やすことが最大の高齢化対策だと言われていたのが印象的でした。
 子供は単に個々人の問題だけではなく、地域社会が守り育てていくものでもあります。大人が子供を見守るだけでなく、大人は子供たちの目を意識する中で、しっかり“大人”らしくなり、そういう暖かい雰囲気の中で地域社会の治安や安全が維持されるとともに、若いエネルギーによって地域社会が活気付けられるのだと思います。出生率低下は、社会が抱える様々な問題の一つの現象に過ぎませんが、その社会にとって根源的な、極めて象徴的な結果(指標)だと思われます。どうやら、今の日本全体を覆う閉塞感を打開する切り札として、小泉さんが打ち出した三位一体改革、個々人あるいは地域により権限を委譲し活力を高める取り組みが、今まさに求められているように思います。


最新の画像もっと見る