ルート:八ヶ岳 赤岳左ルンゼ
日時:2024年 3月24日
メンバー: まっきー、U山
毎年、春先の短い期間に氷が懸って登攀対象になる赤岳西壁左ルンゼ。 前々から行こう行こうと思い続けるも春先は何かと恒例行事が多くて先送りが続くばかりでしたが、今シーズンようやくトレースしました。
今回の左ルンゼはあらかじめ計画していたというわけではなく、前週ないしはこの週末にと計画していた北アのバリエーションルートが悪天で流れて4月に再計画することになり、時間がポット空いたところで 左ルンゼが時期的にちょうどよさそうなことを思い出して行くことになったという次第です。
前日の3/23は諏訪でも5センチほどの降雪があり、美濃戸までの林道はタイヤチェーンを装着して入山しました。その先、登山道もそこそこの新雪で覆われていたので西壁の積雪状況が気になりましたが行者小屋手前から見上げる西壁は意外にも黒々としていて、どうやら前日の雪は標高の高いところではあまり降らなかったようです。
行者小屋で大休止も兼ねて登攀準備をしていると、一足先に登攀装備の男女二人組パーティーが赤岳方面に向けて出発していきましたが、このパーティーは後に左ルンゼの先行パーティーになりました。この日はそれ以外に赤岳主稜に1パーティーを見かけました。
文三郎道を上がり,赤岳沢への下降点(主稜への下降点の一段下)から左ルンゼを観察するとF1は氷がつながっているもののF2から上の氷は貧弱で全体的に発達が悪そう。
<左ルンゼ(中央のルンゼ)>
こんな状態じゃ(代替ルートとして考えていた)隣のショルダー右に変更した方が無難じゃねえ?という話をして下降準備を始めたところ、主稜を登っていたパーティーがラインから外れて左に向けてトラバースを始め、どうやら左ルンゼに取り付く模様。これを見て、ショルダー右に変更などと言っていられなくなり、目標を再び左ルンゼに戻して赤岳沢に下降開始。赤岳沢を渡り、西壁側に上り返して取り付きに到着したのはちょうど先行パーティーのセカンドがF1から見えなくなった時でした。
左ルンゼは全体を通して残置支点は皆無で、取り付きに効きの悪いアングルとスクリューで心もとないビレイ点を作りました。 これ以降のピッチも、岩の突起、灌木、カム、スクリュー、ピトン 等いろいろなパターンを組み合わせてビレイ点を作る必要があり、この点で他の人気ルートとは一線を画すように思います。
<左ルンゼ 登攀ライン>
10時半にU山リードでF1取り付き。 取り付きからしばらく(10m弱)は立っていて氷薄く、ピックを振れば氷を割って下の岩を叩くこと度々でしたが氷の空洞や岩のエッジへのひっかけを中心にジワジワと上がり、途中から左にトラバースすると傾斜が緩み氷も厚くなって気休めのスクリューを1本。そこから高さを稼ぐにつれ氷も安定してきて計3本ほどスクリューを埋めてF1をクリア。このピッチ、過去の記録にも悪いと書いてあるピッチですが、たしかに前半は立っていて氷も悪くスリリングなピッチでした。
<F1下部>
2P目以降は短い氷瀑と長い雪壁をセットにしたピッチが4P目まで繰り返されます。
2P目は、凍っていれば面白そうな氷瀑がつながっていなかったのでその右隣の短い氷を登りました。
<2P目 左の氷は状態悪くパス>
3P目の氷も5m程度の小さなものでしたが状態良ければもう少し成長するような気がします。いずれにしても、全体を通してもう少し氷結状態が良ければもっと楽しめただろうなというのが本音です。
<3P目の小さな氷>
3P目からは氷瀑に続く雪壁でビレイ点が得られずロープを長く伸ばしてコールが届きにくくなることがしばしばありましたが、それを見越して持って行ったトランシーバーが大活躍してくれました。
5P目以降はルンゼを抜けて稜線直下の斜面をザイルスケールで2P分登ります。先行パーティーのトレースは右へ右へと取られていましたが、もしかしたら、なるべく頂上に近いところに抜けようという狙いがあったのかもしれません。
ただ、素直にまっすぐ上がっていってもそれほど大きく頂上から離れるわけではないのでそれでもよいと思います。
<上部の雪壁>
2時半に稜線に抜け頂上経由で文三郎尾根を下降。明るいうちに美濃戸に戻りました。
帰りの林道は朝積もっていた雪はまだ残っていたものの3月も末なのでシャーベット状になっていて、たまにハンドルを取られたりタイヤが滑ったりしたので少し慎重に運転して柳川の河原に降り立ったところまではよかったのですが・・・。 最後の美濃戸口への登り坂でタイヤが空転気味になったので少しアクセルを踏み込んだところタイヤが横滑りを始めて一瞬柳川に向けて車が崖をダイブする光景が頭をよぎる・・・あわててハンドルを切って体勢を元に戻し、再び登りを再開したらまたタイヤが空転し・・・という恐怖のサイクルを回すこと数回。 これまでにも何度となく上り下りした坂ですが、もしかしたら上り切れないのでは? とか 崖下に落ちるのではないか? とか思いながら運転したのはこれが初めて。左ルンゼのF1よりスリリングな林道でした。
なんとか角木場を超えて平坦部に上がり切ったときは心底ほっとしてこんな雪の状態が予想されるときは2度と車を乗り入れまいと心に誓いました。
赤岳左ルンゼは温暖化で20年(30年?)ぐらい前から春先の赤岳西壁に氷が発達するようになってから現在のようなポピュラールートとして定着したと記憶していますが、今回のような状態だと、そこからさらに温暖化が進んで ルートの”旬” の時期が過ぎてしまったんじゃないかという懸念すら覚えました。というのも、ここ10年ぐらいの記憶では3月の後半にもなると左ルンゼ以外にも西壁の各所に氷瀑が見られたものでしたが今回は右ルンゼ以外に目立つものはなかったので。
この冬のシーズンは悪天で本命ルートを断念すること5回。そのほとんどが春先のような低気圧がもたらす悪天のせいでした。あるガイドさんが ”日本の山から厳冬期が無くなった” とブログで嘆いていましたが至極同感。年々冬の遊び場が無くなっていくようでとても悲しいですが、せめて自分が山を登れるうちは無くならないことを心から祈るばかりです。
美濃戸 5:30 ~ 行者小屋 7:30 ~ 文三郎道下降点 9:00 ~ 左ルンゼ取付き 10:30 ~ 赤岳 14:40 ~ 美濃戸 17:30
使用プロテクション: アイススクリュー 3(短、中)、カム 小さいサイズ数個、ピトン 2回
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます