旧・境界線型録

この世の「型」を矯めつ眇めつ眺めて、頭の型稽古をする極私的道場。

お隣さんと仲良くするには。

2012年10月23日 | 現世記


 たまにこちらにこってり書くか。
 一昨日、岡田副総理が和歌山でこう言ったと、今日の昼に知った。私は情報を追わないのでいつも疎い。
 「都が尖閣問題に乗り出したのは間違いだった。都は外交問題の責任を取れない。結果的に中国から非常に厳しい反応が返ってきた」
 そして、「都よりは政府が持った方が安定的だと中国側に伝えている。領土問題ではないが議論があるのは事実。対話を通じて状況を鎮めないといけない」というような主旨のことを言ったらしい。

 こんな認識はどう考えてもおかしくて、『国が所有』するとなれば、中国という国も黙ってはいられない。棚上げ先送り約束をしていたじゃないか、約束違反だと言いだすことなど想定内だろう。それに対して、日本政府は言い訳する方途を持てない。国が所有する以上は、国のもの=領土と明示するわけだから。
 たぶん野田政権を慌てて国が購入という判断に動かしたのは、アメリカの意向だろう。その裏には、きっと、中国資本による尖閣関係の動きがあったはず。報道ではそういう面はまったく見えないので推測でしかないが、野田政権の姑息すぎる購入劇を思えば、のっぴきならない事情の存在があったのは間違いないだろう。今回の玄葉外相の外遊も米政府との接触後から始まり、昨日はアーミテージなどとも会談した。結果報告と次の指示でも受けたのだろうか。

 『都が所有』する場合、国とはまったくレベルが違う。あくまでも一地方自治体が独自に所有するだけであり、中国政府が文句をつける筋合いはない。当然、すぐさま抗議したり批難するに決まっているが、日本政府は都の独断専行だとシラを切ればすむ話。中国には水面下で、石原都知事の横暴な動きはぜったい阻止するからと宥め、経済協力の話でもしておけば、こんな騒ぎにはせずにすんだだろう。ほとんどの人はこの騒ぎを目にして、石原が火を点けたと批判しているが、石原さんは一石を投じはしたが火を点けてはいない。点火したのは野田政権であり、たぶんアメリカだろう。
 一部に石原さんがアメリカをバックに動いたという説もあるが、逆だろうと私は感じる。主な動機はやはり中国資本の不穏な兆候だと思うが、アメリカの対中戦術とアジア安保のオプションとして尖閣に目をつけていたことを確信したせいもあるのかと。アメリカにしてみれば軍需面でも経済交渉面でも日中が対立して需要が高まり続けてくれた方がありがたい。大統領選も影響しているのだろうし、中国共産党の指導部世代交代の時期でもあるし、ちょうど良いタイミングだったのだろう。
 と推察すれば、この尖閣騒動は起こるべくして起こったと言える。もちろん、一推察に過ぎないが。

 もしもアメリカの思惑が働いているとするなら、やはり最善策は『都が所有』だろう。一個人所有ならいつの間にか外国資本が隠れた所有者になっていたとしてもおかしくないし、阻止しにくい。とすれば、なにかしら公的機関が所有しておくのがベストの選択。別に都じゃなくても独立行政法人でも財団でもなんでも良いが、営利事業体ではない公共事業体が所有するのが正しい選択。本来は領土なのだから国でもかまわないが、それでは中国を刺激してしまうのだから、もっとも避けるべきオプションだったと言える。それを野田政権は選んでしまった。
 先の岡田さんの発言は、その点をごまかし、石原都知事に責任を転嫁するための布石として発されたものだろう。
 中国のメディアでは、野田と石原はつるんで尖閣所有のための演技をしているという説も見られるが、どうも状況を見てくると、アメリカに対する日本政治の対応を巡る駆け引きが為されているように感じるが。米配下の野田に反目して、その弱腰政治を破壊しようとした石原という構図に見える。もっともそのさらに奥に、もっとドロドロのグローバル資本の化けものがいてもおかしくはないが、それはまた別の世界として。現実的な駆け引きレベルで分析するなら、この構図がいちばん正解に近い気がする。
 石原都知事に買われてしまうと、国家間の争議にならないとまずい、と野田政権にアメリカからも尖閣は国家所有とした方が良い、米軍も日本の領海死守に全面的に協力するからやれ、とか唆されたのではないか。オスプレイもその一貫に位置づけられていると思うが、ここまで反対運動が高まるのはアメリカにとっては予想外だったかも知れない。オマケに米兵は破廉恥事件を起こして、沖縄県民の反米感情の炎に油を注いだ。この件にヘンな深読みするやつを先日腐したが、アメリカにとっては困った事件で一日も早く鎮火したいはず。

 近頃は一部の有識者団体らしいのが「尖閣国有化反対」を訴えて集会したりしたが、この手も危険な思惑を孕んでいるはずで、構成員には数タイプあるだろう。いちばん厄介なのは親中派の共産思想の者たち。こいつらは必ず、棚上げ先送りという共通認識を破ったのは日本、さらに過去の植民地支配の事実を思いだし、戦争責任への反省が不十分だと訴える。それはとりもなおさず、中国政府の言い分と同じ。一部には、私と似た考えで、領土問題の存在を顕在化させて、ていねいに議論し、両国に益のある形で結論をだせよと言うものもいると思うが、戦争責任云々と言いだすと、これはいつまでも終わらない。どんなに謝罪しても手厚く補償金を払ったりしても、突けば外交カードとして利用できるので簡単に手放しはしない。そういう厄介なカードを自ら使わせようとする言説は、自国民としてはあり得ない。それはひと通りしっかり終えたという認識であたらないと、対等な交渉などできなくされてしまうのだから。すでに村山さんはその談話によって戦争責任を公式に謝罪したし、「女性のためのアジア平和国民基金」を創設し補償も進めた。右傾はこれを批判するが、その時まで水面下ではなにかやっていたはずだが、表に出した点で村山さんの仕事は立派と言いたい。しかも、歴代総理が慰安婦の方へお詫びの手紙を出したりもしたこともあまり知られていない。こんな活動はとても地味だが、村山さんならではの体温を感じる良策と評価したい。もっとも、宰相としては、ただの操り人形だったので不適と思うが。また、河野談話もあり、日本の誠意はきちんと示してきた。それをいつまでも利用しようという態度は、どうしたって国際的に煙たがられるのだから、中国には言わせておけばよいが、国内のものが口にだす神経は理解しがたい。

 中国としては、アメリカの腹話術人形と感じられる野田政権は扱いにくいだろう。そういう意味では、日本にとってまんざら無益な内閣でもないが、こんな対応を続けていれば、いつまでもアメリカの食卓にのった一枚の皿のような国家のまま。旨そうな食いものが乗っている内はご主人も手をだしてくれ、周りから欲張りな手が伸びるのを防いでくれるが、食えるものが減ればポイ捨てされることだろう。石原さんが懸念しているのは、そういう日本の現状ではないのか。あの人は文学者のくせに言葉づかいが下手だから橋下同様にけんか腰ばかりに見えるし、セレブを隠さないので庶民感覚からは異常に思える散財家で、所詮はお祭りで売り出すくらいのアイデアしかなく大した知恵はないと思うが、国家国民のために善と信じたならば反対を押し切って断行してきた。他の人間では、これすらできないだろう。根強い人気が背景にあるとは言っても、その点で彼は評価されて然るべき優れた政治家だと感じる。
 民主党でアメリカの操作を平気で無視して政治決断できるのは、小沢一郎と鳩山由紀夫くらいだろう。他はみんな金と権力で飼い慣らされたネズミみたいな顔になって見える。特に野田さんと枝野さんの顔つきの変貌は著しい。そもそも民自公三党が協力する政権など、ただの自民党の模様替えバージョンに過ぎず、アメリカの手の内に収まり続けますという意思表示だろう。中国をいよいよ苛だたせているのもそんな面かも知れない。

 21日に海上保安庁の巡視船が火災を起こした大型貨物船の中国人乗組員全員を救助したことについて、中国は特に謝意などは示さず、人道面から当然という姿勢を貫いているらしい。だから、さっさと野田首相なり外務相なりがメディアで公式に慶祝の辞をぶち上げれば良かったのに。ネットは眺めてないが、たぶん中国国民の方がこれに反応していることだろう。えっ、日本ってヤな国だけど、そんな時はやっぱ助かるよなぁ、とか。日本が中国人民の生命が救われて良かったと喜ぶことは、その国民感情にシンクロさせると言うことなのに、わからないのかな。自国民を平気で弾圧する国家のなかで、彼らは辛い胸の内を秘めて生きているのだということをもっと理解しないと。自国はわれわれを縛り叩くが、日本というヤな国はわれわれの同朋の生命を救えたと大喜びしている、なんだこの不可思議な現象は?と思ったなら、彼らはどういう心理になることか。
 こういうことをしても、日本には何のデメリットもない。事実をそのままに語り、最大限の悦びを表明するだけなのだから、誰もケチをつけられない。文句を言うとしたなら、国内の頭のいかれた愛国気取りくらいだろうから、そんなやつらの戯言は無視すれば良いだけ。
 たぶん、如何ともし難い不条理感に動かされ、隣国ではデモなどがさらに活発になるだろう。多くは反日を表現手段としたままかも知れないが、行動している者たちの怒りは、より強く政府に向けられる。政府はますます日本に牙を剥くかも知れないが、矛先は尖閣程度であり、対象は日本政府でしかない。軍事力を使えばどうなるか、よくわかっているだろうから、脅し程度しかやれないだろう。政府が日本を突けば突くほど、国内感情はおかしくなっていく。日本は、機会あるごとに中国人民への友情を表現し続ければ良い。中国の友たちも、真の敵は自国政府なのだとはっきり表現すべき時を自ら理解することだろう。その時、中国共産党は厳しい選択を迫られる。あの国の致命的なウィークポイントは、自国民の感情なのだから、それを味方にしないと。実際、もっとも仲良く付き合いたい相手に違いないのだから。
 そういう戦略的に重要なタイミングだと感じたが、岡田副総理は呑気に石原批判をして責任逃れに夢中らしい。