ITARISM TSUKUSERISM

つまらん!お前の話はつまらん!
どおりで心のインポテンツが治らないわけだぜ・・・

よわぺだ福金小説「さようなら、オレンジ」

2014-06-26 21:02:27 | そのほかイラストとか
お恥ずかしい話だが福ちゃんが金城を殺してしまい、このままでは警察に捕まって大学卒業資格が取り消されるので、証拠隠滅とアリバイ工作のために俺と新開は駆り出されたのだった。二月、雪深い群馬の高崎温泉に、俺たちは四人で早めの卒業旅行に来ていた。
酔っ払った俺たちは旅館の駐車場の隣の空き地でかまくらを作って遊んでいて、腹が減ったと新開はちょっと遠いコンビニに出かけ、俺も雪に埋もれて体が冷えたのでトイレに立った。ついでに親と部活の後輩からのメールを返した。その間二十分くらいだったと思う。俺が戻ると、かまくらの入口のところに膝立ちになった福ちゃんがいて、膝の下に敷かれた金城の上半身が見えた。
暗い視界の中、その頭の周りの柔らかな雪に、みるみる金城の血が真っ黒く沁み渡っていくのがわかり、俺は「これは本当にヤバい」と完全に心をつかまれた。
ひとまず死体を隠すため、新開が帰ってきてから三人で協力して、旅館の裏山の雪の中に埋めた。金城は頭ではなく、胸から腹にかけてをすごくでかいナイフで福ちゃんにまっすぐに切り裂かれていて、それが死因となったらしい。埋めるときは交代制でライト係、穴掘り係をローテーションした。
死体を抱えたとき、俺は致命傷から内臓的なものが覗いているのに気づいたが、それが妙に白っぽいのが意外だった。


全員溶けた雪と汗でビチャビチャだったし、福ちゃんはおまけに返り血のせいで、全身を醤油で煮しめたみたいな、大変な有様になっていたけど、とにかく対策を練ろうと旅館に戻った。
新開も俺も、コナンと金田一は一通り読んでるのに、この事件のトリックを応用しようとかそういうアイデアがさっぱり浮かばない。所詮漫画の知識なんてあてにならないのかと心もとない。そのうち飽きて、「コナンの黒の組織メンバーで誰が一番強いか」について新開と盛り上がってふざけていたら、福ちゃんがキレかけていたのでやめた。
俺は時間稼ぎに、
「あのサ福ちゃん、そもそもの、根本的な話に戻るけどォ、な、なんで金城殺しちゃったの?」と尋ねた。
腕組みした福ちゃんは、辛そうな表情だ。人殺しをしたのだから当たり前である。
「・・・・・二年の」ようやく重い口が開かれる。
「落車があったろう」
新開は言葉をつないだ。
「あのインハイの事故だろ。あれを金城君が許してくれたから寿一は」
「俺が故意に掴んで落車させた。事故じゃなかった」
「えっ」

どこまでも永遠に広がり続ける空白。何秒、何分が経過したのだろうか。口をあんぐり開けて福ちゃんの顔を凝視する、隣の新開と見つめ合う、「ええ~・・・・」と力なくハモる、黙り込む。この一連の動作を何回繰り返しても、耳が拾った言葉の意味が全く辿れない。
「・・・・ワザとは盛りすぎでしょ・・・・ワザとなら、運営に話行くんじゃナァイ・・・?」喉がカラカラで自分の声がばいきんまんに聞こえる。
「他に目撃者はいなかった。俺は言えず、金城は言わなかった」
「寿一が言えないのは分かるよ?金城君が申告しなかったってのは本当に明らかにおかしい。おめさん責任感強いから。そんな事実無かったんだろう」
新開の声は囁くようにか細く、フラフラ震えている。
「俺にも今もわからない。ずっとわからないままなのかもしれない。金城は言わなかった。だから俺も誰にも言えなかった。許されないことをして、それなのに許されて、一生二人だけの秘密を抱えて生きていくなんて、俺には理解出来ない・・・・!」
独白は約二時間続いた。途切れ途切れに、でも滔々と喋り続ける福ちゃんに、俺は恐怖した。ぞっとした。失礼かもしれないが、福ちゃんがこれほど多くの語彙や感情を披露するなんて思いもよらなかった。

色を表す言葉、色に関する認識が極端に乏しい国や文化圏があると聞く。俺たちが一応七色と認識する虹も、そこの人々はせいぜい二色ほどしか見分けられないか、もしくはただの光としてしか感知しないのだそうだ。
それはつまり、俺には感じられない、何百色もの色を虹から抽出する、逆の立場の人間もいるということだ。俺は福ちゃんを、二色派の感性で地球に生きてる人間と思っていた。そして金城は確実に何百色派だと。そういう意味では二人は正反対だ。

福ちゃんの独白を要約しておく。長く喋っていても、福ちゃんの供述はちぐはぐで取り留めなく、言いたいことは結局シンプルだった。一応それっぽい文章に直した。

「福富は自らの主体性を確立するために金城を殺した。彼の存在があると永遠に自我が確立できないと懸念し、彼の中に埋没せんとする己の自我と、金城を救済するために犯行に及んだ。蛇足ではあるが、福富は金城に恋愛感情に近しいものを非常に強固に抱いていた」

・・・・蛇足があまりにもクライマックスすぎた。全く現実感が湧かない。体に力がまるで入らない。

「・・・一度ならず二度殺すことになってしまった」一回目は半殺しだから正確には1.5殺しだ。
疲れたと溜息をついた福ちゃんは、風呂で血を流すと部屋から出て行った。助かった。すぐさま窓を開ける。立ち込める血の匂いで、頭痛と吐き気が我慢できないくらいにこみ上げていたのだ。その直後、俺は新開と胸倉を掴み合い、混乱した胸中を絶叫し合った。お互いの話なんか聞いてはいなかった。
「ヨオ!!テメェ、今の、分かったァ?ねェ!分かった!?」
「わっかんねえ・・・!ぜんっぜんわかんねえ!どうしよう靖友俺、バカかもしれない!」
「俺さァ、福ちゃんが秘密を知ってる金城を殺すってとこまでは納得いくのネ!でもネ!その前に金城が分かんねェってことが立ち塞がって頭がパンクすんの!そのパンクのダメ押しで福ちゃんが金城好きってトコで完全に詰む!」
「金城君!いや、もういないんだけどさ!おかしくない!?なんで許す?絶対おかしい!」
「そう!なんで許したのォ!?」
そうこうしているうちに朝になってしまい、チェックアウトの時間も迫っていたので、とりあえず俺たちは解散した。
「お前たちを巻き込んでしまってすまなかった。あとは俺一人で平気だ」
死体は雪の中だ。

結論から言うと俺と新開はてんで役立たなかった。福ちゃんは一人で秘密裡に対策を講じたらしく、世間が今知っているのは、金城が行方不明ってことだけだ。事情聴取などは、口裏を合わせて、あとはアドリブで乗り切った。こういうのはまだいい。問題はそこからだ。拷問の二字だった。
福ちゃんと俺の危惧通り、新開は連続ドラマ『ウサ吉ショックセカンドシーズン』の精神状態を迎え、この上なく盛り下がっている。俺も毎晩のように悪夢を見るようになり、眠るのが嫌になった。何度戸締りをしても、戸締りをしたかが気になって、結局家から出られない日もあった。胸の中が重苦しく、引きずられるように痛む。その痛みを感じる度に訝しむ。

あの二人は、こんなものを抱えてずっと生きてきたというのだろうか。どうかしている。
新開と何度も話し合っても、俺たちには福ちゃんと金城のしたことが全く理解できないでいる。当事者の福ちゃんが理解に苦しんでいるのだから、当然かもしれない。
金城がもし福ちゃんを許さなかったら、俺たちは多分出場停止を食らい、あのインターハイも、大学生活も、何もかもが失われていた。でも金城は許したので今の生活がある。それが善いことだったのか悪いことだったのか分からないのだ。そもそも許すって何?

俺の見る悪夢は毎回同じだ。あの黒歴史時代、馬鹿をしていた頃の自分が、警察にとっ捕まり補導されたときの鮮明な思い出。自転車を始めてからは殆ど忘れてしまっていた、ほんとうに欠片も思い出せなかった記憶が、蘇生し再現されているのだ。
決まって俺はパイプ椅子に腰かけ、窓の外を見ている。視界の端に映る太った婦警のババアの語りが淡々と流れる。

「警察っていうのはね、犯罪者は絶対に絶対に更生などしないという信条で動いている組織なの。だから一度罪を犯した人間は、必ず同じ過ちを繰り返すと盲目的に信じているの。信じるっていうのはおかしな言い方だけど、何か事件が起きたらまず同じ種類の犯罪者のリストを洗って、再犯を疑うの。ニュースや新聞で、非道な誤認逮捕や冤罪が報道されるでしょう?あれは、疑わしい人間がいたら徹底的に追い詰めて、自分たちの判断は正しいことが証明できるまでは、相手を殺してでもやり遂げるという集団意識の現れだわ。皮肉に聞こえるかもしれないけど、人間を信じないことを信じているのが警察。それは内部、身内に対してもそうなのよ。ほかの官庁や企業では、内部の人間が不祥事をしたら、諭旨解雇、辞めたらいいんじゃないですか、って促すことがある。でも警察には諭旨はない、規則に言葉はあってもそれは飾り。懲戒しかない。『お前は絶対に悔い改めなどしない、必ず同じ過ちを繰り返す、だからいなくなれ』って。・・・・・あなたが二度とここへ来ないことを願っているけれど、また同じような騒ぎが起きたら、私は真っ先にあなたを疑うわ」

福ちゃんの世界はシンプルだ。ゴチャゴチャ考えあぐねていたことなどどうでも良く、ただ努力して強くなって勝てばいい。それだけだ。では金城の世界は、とまで想いを馳せて、イヤな感じがしたのでそこで考えるのをやめた。

俺は福ちゃんに四月になるまでにこの件について一回話をしてほしいと懇願した。新開は疲弊しているし、俺もなんだかんだで参っているのだし、何より俺たちは四月から社会人になるのだから、こんな状態ではとても新生活を迎えられないと。福ちゃんはそれぞれに話すと約束した。

サラリーマンが出勤した後の時間帯のジョナサンは滅茶苦茶空いていて静かだ。福ちゃんは口を開く。
「・・・テストがあって」
ようやく気が付いた。俺たちは福ちゃんの考えや気持ちだけじゃなく、言葉も分からなくなっていたのだ。魔女の宅急便のキキが、黒猫のジジの言葉を理解できなくなってしまったように。
昔は俺たちそれぞれの頭の中に、自由自在な福ちゃん言語翻訳ツールがあった。無料版だった。東堂も泉田も真波もみんな持っていた。珍しくもなんともなかった。今はもうポンコツと化していた。福ちゃん本体のほうがいつの間にかアップグレードされてしまっていたのだ。
「テストって・・・後期試験?」屈辱的なものを感じながら俺は尋ねた。
「オレの入団テストだ」
「え、だって、面接だけでパスだったんじゃないのォ?」
「その一週間後に、走りを見たいと先方のコーチ陣に言われた。テストというよりは親睦のための実走視察のようなもので・・・公道を走るだけの」
福ちゃんの実業団入団の面接は去年の10月中旬ごろのはずだ。
「そこに金城が見に来ていた」
「ハァ!?なんでそこに出てくる」
「俺にも分からん。親にも言うのを忘れていたくらい、些末な用事だったんだ」
「・・・福ちゃん自分で呼んどいて忘れてたんじゃネ」
「ない。その一カ月前から金城と連絡を取っていなかった。俺は怒っていた。金城を恨んでいた。強いのに、可能性はあるのに、どうしてプロへ、俺と同じ所に来ないのかと」
「・・・・・・・・・」
「俺は金城を見つけて意味が分からなかった。金城も気づかれてひどく驚いていたようだった。本当は聞きたいことと言いたいことが死ぬほどあったけれど、もう遅かった。
スタートが迫っていた。俺は走り出さなければならなかったし、それが間違いなく俺自身の意志だったので、金城に背を向けた。そのとき分かった。恨んでいたのは悪かったと。
自分が金城に捨てられるのではなく、俺が金城を捨てるのだと。だって振り返るとやはり金城は俺を見ていた。その目が言っていた、『福富、行くな』と。俺は心の底から金城にすまないと思った。あのときから片時も忘れず金城にすまないと思い続けながら生きていたのに、まるで初めてそう感じたみたいだった。
金城は耐えるように笑って何度も頷き返してくれた。それでもういいと思った。こんな充溢がこの世にあるなんて信じられなかった。もう一生恋愛しなくてもいい気がした。金城が好きだった。いや、いつまでも好きだ。だからああするしかなかった。金城に会いたい」
やっぱり福ちゃんは強い。福ちゃんは金城からの絶対の愛というものを生涯疑うことなく持ち続けることが、信じることができるのだ。だからもし、落車のことも今回のことも、全てがいつか明るみに暴かれ、世界中から糾弾、迫害、断罪されたとしても、福ちゃんはもう不幸にはなれないのだ、今更。

口の中が甘じょっぱくなる。言葉や態度にこそ出さなかっただろうけれど、金城も福ちゃんのことがとても可愛かったんだなと思ったら、猛烈に心がいっぱいになったのだ。
俺も金城に会いたい。会って福ちゃんの話をしたかった。俺はこんな性格だから、皆がビビって訊けないことも平気で訊く。なぜ許したと逆ギレしてタコ殴りにしてお礼を言って謝りたい。
金城が福ちゃんに殺されてしまって死ぬほど悲しい。きっと誰もがそうだ。いなくなってしまったことが悔やまれてならない。 ニュースの言うように、ほんとうに行方不明なのなら何を引換えにしても探しに行きたい。

よわぺだ福金小説「藤江君の予感」

2014-06-26 21:00:32 | そのほかイラストとか
羊羹色の髪をした巫女さんの真っ白な手が差し出した包みを恭しく受け取ってくれる。「お預かりします」頭のてっぺんからスピーカーで流されているのではというくらい金属質なアニメ声だった。そういえば小野田が以前「巫女萌え」なる境地について語っていたような・・・・お正月の巫女のバイトはオタク女子に人気とかなんとか言っていた気がする。
「もしかしなくてもオレは物凄く酷いことをしてるのでは」
「おう、自覚があるたあ成長したな金城!」
賽銭箱に小銭を放り、金城はできるだけ丁寧な所作で色あせた麻縄を振る。すると腑抜けたような鈴の音しか転がらない。見かねた田所が横から腕を出しグルングルン縄を回すと、吹奏楽のシンバルがやけくそを起こしたような音が響いた。
「まあ、いいんじゃねえか?古い人形とかぬいぐるみとか供養するやつもいるらしいし」
目を閉じ手を合わせた田所が呟いた。宗教心がフラットな典型的日本人の若者である金城は、これが正しいやり方なのか訝しみながらも、姿かたちもわからない神様に祈る。
「神様、妙なものをお納めしてしまいすみません。でもずっと持っているのもゴミに出すのも悪い気がしたんです。オレは高校時代、自分の都合で多くの人の好意を無下にしてしまいました。その分どうか、卒業したらもう多分会うこともなくなってしまう彼女たちの人生の幸福をお祈りさせて下さい」
金城がお札納めに出したのは、高校時代に校内外の女子たちから貰ったラブレター(ほか貢物など)だったのである。


高校時代、金城に好意を抱く女子層はおおよそ三つのグループに区分することができた。

A:級友、男友達として好意を持つ「ライト層」、
B:好意を周囲に公言し、金城の一挙手一投足に狂喜する「ファン層」、
C:好意を周囲にひた隠しにし、隠れキリシタンのように密やかに彼を信仰するスタンスを取る「ヘヴィー層」である。

A:B:C=5:4:1の比率で存在し、告白ならばどの層からも受けたことがある。しかし金城本人としては、A、もしくはA寄りのB層の女子が話が合い、親しくなる機会も多かった。悲しいかな、想いが強ければ強いほど、金城と少女たちは話す機会も、親しさの度合いも少なくなっていくのだった。C寄りのB及びC層の言動に金城は混乱し、彼女たちにどのように接すればいいのか戸惑った。
なぜなら、結託していないはずの彼女たちは、まるで申し合わせたように金城に対し、「懺悔」をするからである。

「ごめん、中身読ましてもらったよ」
昼休み、隣のクラスの叶さんから手紙を預かったというクラスメイトの藤江は、「お前を心配してのことだからな」と付け加えた。銀箔で優雅なアールデコ調の装飾がされた薄緑の封筒から便箋の束を取り出し、金城は資料に目を通すサラリーマンの態で手紙を読み、読み終わると、眼鏡を外して嘆息した。
「・・・・あの叶さんがいじめられっ子だったとは」
「小中学生時代のトラウマを克服して、過去の自分を無かったことにするために、地元の人間のいない総北に入り、恋愛もせず、がむしゃらに自己プロデュースの努力を惜しまず、学校や社会のヒエラルキーの頂点に上り詰め、誰もが羨む新しい自分を得た結果、『本当の自分』を見失ってしまったんだな。Aの皮を被ったガチのC層。新しいタイプだ」
叶さんは押切もえ風の目鼻立ちの華やかな美人で、英語スピーチ大会で全国大会に出場し、テニス部で副部長を務め、ヤンキーにもオタクにも分け隔てなく付き合えて、周囲にハッピーな気分を与えてくれる学校のマドンナであった。確か推薦で既に千葉の国立大学の英文科に進学が決まっているはずだ。将来の夢は女子アナらしい。彼女ならきっとなれるだろう。

しかしそんな叶さんの秘められた過去(しかも相当に凄惨であった)を一方的に打ち明けられ、金城は途方に暮れる。自分の中で定型文となってしまっているが、返事を要求されている以上、このように返すしかない。
「こんな自分に好意と辛い話を打ち明けてくれてありがとう。でも、ろくに話したこともないオレなんかより、もっと君のことを想ってくれたり、心配したり気にかけてくれている人たちは身近にたくさんいるはずだ。オレには勿体ない話すぎて、正直付き合うという具体的なビジョンが浮かばない」

頭を抱え脳内の文面を便箋に起こそうと苦心している金城を見つめながら、藤江はぼやいた。
「まるで林先生のホームページだな」金城はそのネットスラングを知らない。
「『貴女には軽度ながら解離性同一性障害および鬱病の疑いがあります』って正直に書いちゃえばいいのに」
「こういう悩みは、藤江に打ち明けたほうが得策なのにな」
藤江は大学で心理学を学びたいのだそうだ。そのために必要な数学の統計の知識や熱意は金城を上回る。
このような女子からの告白という名の懺悔を、金城はもう何度も聞かされてきた。決まって先述のC寄りのB及びC層からだった。少女たちは、近しい家族や親友、クラスメイト、今の恋人、公共機関ではなく、ほぼ他人に等しい金城に、誰にも打ち明けたことのない自分の重々しい真実を打ち明けるのだ。進路が不安、売春をした、家庭の不和、家族の死、四股をしている、経済的貧困、いじめを受けている、信じている宗教について、外見のコンプレックス、今彼にDVを受けている、心身の不調、などなど。

金城を混乱させるのは、こうした打ち明け話のショッキングさだけではなく、彼女たちが金城に愛の告白をしながらも、本心で彼と付き合いたい、恋仲になりたいという欲求が希薄らしいことだった。手紙や告白の言葉の結びは、大抵こんな感じである。
「いいの、私みたいな取るに足らない人間が、素敵なあなたに応えてもらえなくても。金城くんさえ私のこと知っていてくれれば、それだけで嬉しくて心が満たされるの。これからの人生、どんなに苦しくっても、くだらないことになっても、こうして金城くんに打ち明けられたって思い出だけで私は勇気を持って人生に立ち向かっていけるから。私に告白させてくれてありがとう金城くん」

「王様の耳はロバの耳じゃないけどさ、本人は心のデトックスできて満足かもしんないけどさ、お前がそれ聞かされて悩んだり傷ついたりすることへの配慮ってもんがないのかね」
正直憧れていた叶さんの正体を知ってしまい藤江はふさぎ込んでいた。カモシカのような彼女の美脚の、内股の部分には無数の根性焼きの跡があるだなんて。だからいつもプールの授業休んでたのか。でも女子アナやるなら大学のミスコン参加は必須だから、水着審査あるよな。何か塗って隠すのだろうか。
「痛ましいなと思う。オレなんかに話して少しでも救われるならいいさ」
「傾聴の姿勢。カウンセリングの基本だ。カウンセラー向いてるよ金城。一緒に心理学部行かない?」
「オレは心理学よりも自転車だな」
「ああ、そっか・・・・そうだよな」はにかんだ藤江は、心持ち遠い目をして言った。
「そうか、お前には自転車や部活の人間関係があるものな・・・・正直お前が将来こういった手合いに潰されるんじゃないかってヒヤヒヤしてたけど、田所とか巻島とか、自転車つながりで信頼できるやつがたくさんいるから心配いらないか。いつかお前に縋りつくんじゃなくて、一緒に寄り添ってくれる彼女ができるといいな」
残り少ない高校生活、一緒にいる時間への哀惜と思いやりのこもった言葉だった。金城はクラスメイトの友情に心から感謝した。超然とした言動に惑わされがちだが、藤江は本当は優しくて傷つきやすい、繊細な人間なのだ。そうでなければ、悩んでいる人間の力になりたいと、心療心理士になりたいなどとは言い出さないだろう。

そうして、今自分が受けた、「依存体質の人間に押し潰されないよう気をつけろ(要約)」という忠告の、まさに渦中に自身があると打ち明けなくて良かったと安堵した。しかも相手は同性で、自転車つながりというか、自転車しかつながりがない男なのである。それを打ち明ければ優しい藤江はきっと寝込む。傷つき悩み苦しむ。そのさまを見るのはつらい。だから金城は藤江に言わない。

大学に入ると、高校時代彼を悩ませた女子たちの懺悔は、嘘のように収まった。思うに、高校という共同体の中では飛び抜けて大人びて、老成すらしているように見えた金城だったが、大学という本物の成人や社会人ばかりが行き交う場所では、彼のような性格の人間は珍しくもなんともなかったのだ。

そして福富との問題だけが、万事快調な大学生活の中で、まるでゲームの裏ステージのように金城の人生に影を落とした。
藤江論に倣うなら、福富は「真性・キングオブC層」に分類できる。これは女子に対するグルーピングなので正確には当てはまらないかもしれないが。

大学時代、福富からの言葉や態度や行為に対し、金城は困惑し、返すべき言葉や態度に窮し、望まないだんまりを決め込むことが少なくなかった。
現在の金城がその時の福富の言葉や行為から彼の心情を察するに、妥当な解釈やすべきだった返事は恐らくこんなものだろう。

「お前を見るたびに湧き上がる、 あの怒りとも嫌悪ともつかない、不快さはなんなんだ」
(お前はオレへの引け目と罪悪感から、オレへの認知を歪めてしまっている)

「お前を見ていると胸が引きちぎれそうだ」
(上に同じ)

「なぜオレに逆らう?」
(お前の認識では、お前の想定の範疇を超える行為は全てお前に対する反逆と同義だ)

「オレはお前から逃げなかったのに、お前はオレから逃げるのか?」
(オレは大学を卒業するまでに幾度となくこう言われた。オレがプロにならない、福富とは異なる未来を選択することに対して)

「オレはお前の唯一のライバルなんじゃないのか」
(疑う余地もなくそうだ。オレにとってはお前だけだ。しかしお前の好敵手はこれからも無数に現れる)

「オレがお前に相応しくない男だと言いたいのか?」
(お前のライバルはお前に対してそこまで冷酷にはなれない。昔も今も)

「俺たちの罪と罰は永続的なものだと思っていたのに!」
(それは我々が墓場まで持っていくべき事柄だ)

「お前は一体オレをどうしたいんだ」
(さあ?)

「お前は一体オレにどうされたいんだ」
(さあ?)

「どうしてこんなことになってしまったんだ」
(……さあ?)

福富の罪が可視的なものであったのに対し、金城に罪があるならばそれは不可視的なものだった。福富の罪を、罰せず受け入れたという罪。そのせいで福富は許されなかった罪を自身の一部として生きていかなければならなくなった。しかしかつて少女たちの懺悔に感じたような痛ましさを金城は感じなかった。彼女たちの罪や傷や苦しみは、まったく自分とは関係のない次元からやって来たものだった。だが福富のそれは、金城自身が発端である。福富が自分たちを分かちがたく感じるということは、金城だって言わずとも同じことだったのだ。
金城の主観であるが、福富とは非常に無垢な男だ。自分や他人に、自身ですら感知できないような内実が潜むことに気付きも出来ないほどに。

・・・今彼にDVを受けていると手紙で告白してきたのは、一学年下のさおりちゃんだったか。

DVとやらは、暴力のあとに加害者の心からの謝罪があり、被害者はそれに絆され解決への具体的な行動をしないまま、同じことの繰り返しが様式美的に展開され悪化すると聞いた。さおりちゃんは、高校二年生の文体で、まったく同じような経緯を克明に告白していた。ソープオペラの見過ぎなのではと当時は手紙を読みながら頭痛がしたものだが、いざ我が身に降りかかってくるとなると、どうだ。さおりちゃんと同じく、何もできない無力な自分がいるではないか。

手の甲を眺めた。 目を閉じて、手の甲にできた傷を想像した。じんわりと血のにじんだ、浅い傷だ。 放っておいてもすぐ消えるような軽い傷のはずなのに、とても痛い。
暗い中でじっとしていたから、余計痛みがしみたのかもしれない。 ひりひりする手をもう一度眺めて、大学生の金城は考え始める。
自分と福富はどこで関係の築き方を間違ってしまったのだろう。ただ、福富を見捨てることは、自分を見捨てることと同じなのだろうとはおぼろげに理解している。
答えは見つからないまま傷だけが疼く。

乱暴に揺り起こされて目が覚めた。
「もう部屋に戻れ」
濡れタオルを持った福富だった。
「痛むか」
「いや、もう平気だ」
目が合った。そのまま黙っていた。
「…血を見るのは、いい気分じゃないな」
「たいした怪我じゃないだろう」
きれいに洗われた傷口は、もう塞がりかけている。
「それでもだ。すまなかった。お前が傷つくと、心臓が張り裂けそうになる」

金城は藤江を思い出す。彼は順調に心療心理士への道を進んでいると聞く。彼に打ち明ければ、何か変わるだろうか。「お前の予感は当たってしまった」と。
何も変わらない気もする。でもこの気持ちの重さは、多少は晴れるのかもしれない。かつての叶さんと同じく、金城もまた、理想の自分の像を壊し、藤江を傷つけるかもしれないが、藤江も自分も、もう子どもではないのだ。あの叶さんも、今では大学生キャスターとしてモニタ越しにしか会えない。彼女はこの世の善良なるものにしか生涯縁がないような優しい声で、死や貧困や老いや苦悩や苦痛とは無関係であるような眼差しで、美しく微笑んでいる。

手を伸ばした。そうすることが当たり前のような気がしたのだ。そのまま福富の首に腕を回して抱きしめた。 最初からそうすれば良かったのだ、彼がそうしなかったのなら。額に口付けた。頑固で単純で不器用で哀れで、しかし時折は愛しいと感じる福富の額に。

福富は大層幸せそうな顔をしていた。

にょあ~

2014-06-21 00:26:24 | Weblog
ブリュンヒルデ、奈波と黒服が可愛いわ、奈波ショックでめっぽう傷ついた矢先真子が出るわ、今週ついに最終決戦だわで恋はジェットコースター!!皆可愛いっすいとおしいっす
黒服奈波の素晴らしさが9話と10話で凝縮されてたね・・・;;真子は愛すべき少女、奈波は愛さなくてはならない少女として僕の中でカテゴライズされているんだ!!

もんすごく優秀な上司が、「毎月どんな小さなことでもいいから新しい目標を作って実践する」つってて僕もやってるんら・・・今月からは「毎週ネイルをして仕事に行く」です
貧乏ネイルでもサロンに行ったかのように擬態するのだ チップ入りのマニキュアがあ楽でそれっぽく見えていいです 来週はシルバーのネイルで、薬指だけピンクのラメラメにしやす
いつまで続くかわからんけど、せっかく買ったマニキュア使わないとだね 夏はネイル楽しいよね~~

サッカーチキンすぎてリアタイでは見られないよお・・・

暑くて夕飯あったかいもの食べる気力がなくて、ツイッターで教えてもらったキュウリの和え物を毎日食べて河童に転生しそう
刻んだキュウリを塩もみしてミョウガ刻んで入れて塩昆布で和えるだけ!!
オラはキャベツとごま油と白ごまもワッサリ入れてるよー^^オヌヌメ


カステラ一番電話は二番♪

2014-06-09 21:47:15 | Weblog
コミケ受かりました~~天スペースです よろすくおねがいしまーす!

土曜は雨がすごかったのですが、日本橋の文明堂カフェで女子会してきたよお まあ二人ともオタクです当然
友達待ってる間に三越で父の日のプレゼニトも買えました ブックカバー ずっとワシがイベントの服飾スペースで買ったやつ使ってるんだもんよ~~

文明堂カフェ素敵でした・・・・・・パンケーキも伊達じゃないうまさだった また行きたい

オフレコトークも死ぬほどした 小沢一郎的な、政治的な話をされてこわかった^^b子供でいたいずっとトイざらすキッズやめろ離せおれはここで暮らすんだ・・・!
金城さんのちびフィギュアもらった;;;;ありがたーーーい!!!金城さんかっこいいいいいーーーーーーー!キャーーーーーーーーーーーーーーーー!!福金について、とても納得できる考察を聞かせてもらって、ものすごくお礼を言いまくった!福金はホモじゃなくて宗教・・・・

喜んでもらえて良かったなしな~~