苺の楽園

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フリー小説

2007-01-26 22:16:06 | 強奪モノ

DESTINY 2


 さすがにちと大人気がなさ過ぎたかと、誕生日の行動をルキアは反省していた。
 あれからおおよそ一週間、今日は土曜日だが、一護が報告に来るのは来週である。
 高校生の一護は、平日は学校があるので、よほどの緊急事態がない限り、護廷に来ることはない。
 一護は自分が、大変イレギュラーな立場にあることをよく理解しているので、専用の地獄蝶を与えられてからも、私用で尸魂界にやってくることは滅多になかった。
 それを、立場上当然としながらも、総隊長や隊長を筆頭とした面々が、ちょっと寂しいと思っているなど、到底知らないだろう。
 今日が非番だったルキアは朽木邸の自分の部屋で、一護が来ないのならば、こちらから謝りに行こうかと悩んでいた時。
「あ、いたいた。十三番隊に行ったら、今日は非番だって言われたから、どっか遊びに行ってんじゃねぇかって、心配しちまったぜ」
 当の本人が、かなりの大荷物を抱え、障子をスパンと開けて姿を現したものだから、ルキアは肝を潰した。
「な、なんだ!?貴様、どうやってここまで入ってきたのだ!」
 よほどぼうっとしていたのか、この垂れ流しの霊圧にまったく気がつかなかったとは、一生の不覚である。
「てめぇ……なんか今、すっげぇ失礼なこと考えやがっただろ」
 意表を突かれたので、考えていることが顔に出ていたのだろう、半眼になった一護が、ルキアの前に、遠慮なくどかりと胡坐をかく。
 今さら、そんなことをするような、間柄でもない。
 右手には、リボンの掛けられた箱。左脇に抱えているのは、同じくリボンはかかっているが、なにやら柔らかそうな包みである。
「ちゃんと、正面から入ってきたぞ。……ちょっと迷惑そうな顔はされたけどよ」
 ルキアと白哉の知人として認識されている一護であるが、一対一の真剣勝負で白哉を負かした元旅禍として、瀞霊廷中に知れ渡っているため、使用人からはかなり敬遠されていた。
 そのせいか、白哉が一緒の時にしか、来ようとはしなかったはずだが。
「遅れて悪ぃ。でもこういうことは、もうちょっと早く言えよな。こっちも準備とかあるし、学生は金がないんだからな」
 お年玉があったからよかったけどな、と屈託なく笑いながら、柔らかそうな包みを差し出す。
「誕生日、おめでとう。これ、プレゼントな」
 まさか本当にもらえるとは思ってもいなかったルキアは、少々呆然としながら、それを受け取った。
「お、おお、ありがとう……」
 その抱き心地と大きさから、ぬいぐるみらしいと見当はついたが、幸いコンではないようだ。もっと大きい。
「こっちはケーキだけど、ちっと準備するから、そっち開けてろよ」
 一護はそう言うと、自分で箱のリボンを解いていくのを横目にしながら、こちらもピンクのリボンを丁寧に解き、ウサギの模様のついたかわいらしい包装紙も、もったいないので破らないように開く。
 中から出てきた物に、驚愕と喜色が、ルキアの顔中に広がった。
「こ、これは……!」
 抱きしめるのにちょうどいい大きさの、口のバッテン印が特徴的なウサギのぬいぐるみは、現世で見かけて一目ぼれしたものの、キャラクター物は高いという一護の台詞どおりの値段に、涙をのんであきらめた物だった。
「お前、ほんとにウサギ好きだよな」
 子供のように狂喜乱舞しているルキアに、ほれ、ともう一つのプレゼントを差し出した。
 これもまた、それなりの大きさの箱の中にあったのは、一本のろうそくを立てられた、色からして抹茶味らしいホールごとのシフォンケーキ。
「現世の定番は、生クリームのケーキなんだけど、あれだと日持ちしないしな」
 久しぶりに作ったけど、結構忘れないもんだと笑いながら、ろうそくに火をつける。
「い、一護が焼いたのか?これを?」
 思わず声を上ずらせるルキアに、一護はうなずいた。
 見た感じはふんわりしっとりと完璧で、てっきりどこかの店で買ったのだと思っていた。
「おう。妹がもっと小さい頃な、お袋の代わりに、誕生日に作ってやってた」
 いまだ、懐かしさと罪悪感の入り混じる一護の表情に、ルキアは胸が詰まった。
 どんな思いと苦労を重ねて、これだけのケーキを作れるようになったのか。
「そ、それでなぜ、ろうそくが一本なのだ?年の数だけのせるものなのだろう?」
 半分は冗談だが、それでも一本だけというのはないのではと尋ねれば、案の定、一護はあきれ返った。
「お前、ケーキの上をろうそくだらけにする気か?大体、何回目の誕生日か、覚えてんのかよ」
 それに、と急に一護は優しい目になって、ろうそくを見た。
「これは一本だけでいいんだ」
 つられて、ルキアも揺れる炎を目に映す。
「去年、俺はルキアと会った。そして、死神の力をもらった」
 穏やかなその声に、ルキアははっと、一護を見た。
「運命を変える、力をもらった」
 一護もまた、静かな笑みを浮かべて、ルキアを見ていた。
「仇は……取れなかったけど、グランドフィッシャーとも闘えた」
 その、極上のトパーズのような瞳にかつて燃えていた、悔恨と憎悪の影は溶けて消え。
「ルキアも助けられた」
 あるのはただ、天上の煌き。
「今年は、それから初めてのルキアの誕生日だ。だから、ろうそくは一本」
 なのに、そこに映る自分の顔は、どんどん情けないものになっていく。
「来年には二本」
 そんな、優しい声で、優しいことを言わないでほしい。
 ゆらゆらと、炎が揺れる。
「ルキア、生まれてきてくれてありがとう」
 そうじゃないと。
 あの運命を捻じ曲げた出会いを。
 血生臭い戦いへと誘ってしまった出会いを。
「俺と出会ってくれて、ありがとう」
 誇りたくなってしまうではないか。
「馬鹿者……。貴様は本当に馬鹿者だ、一護……」
 炎だけでなく、一護も揺れる。
「私などに会わなければ……こんな、辛くて苦しい道を歩まずに済んだのに……」
 霊力が高かろうと、ただの人として現世で生きていけただろうに。
 それでも、こう言うことは、許されるのだろうか。
「私こそ……出会ってくれて、ありがとう……!」
 こらえなかった涙が、一粒、二粒、抱えたぬいぐるみの上に落ちた。
 一護の微笑みは、優しいままだ。
「そう思うんだったら、ろうそく、吹き消してくれよ。そして、ルキアが大事だと思う人達みんなで、このケーキ食べてくれ。甘さは控えめにしといたから、恋次は不満かもしれねぇけど」
 そしてその喜びを、みんなで分けあって欲しい。
 出会えた奇跡を。
 ルキアは思い込めて、ろうそくを吹き消した。
 許されるならば、また来年、こうしてろうそくの二本立ったケーキが見たいと。
「それならば」
 ルキアは涙をぬぐって、一護に笑いかけた。
「私は一番最初に、一護と食べたい」
 神様なんて、いないと思った。
 でも、これが運命というならば、信じたい。




 もう外は完全に日が落ちて、真っ暗になっていた。
 隊員達の姿すらまばらになった六番隊詰所を、一護は緊張の面持ちで、足音を忍ばせて歩いていた。
 ただ単に、辺りが妙に静まり返っているせいだが、自分の霊力がだだ漏れでは、これもあまり意味がない。
 さっきまで一緒にいたルキアの話では、ここのところちょっとしたミスが重なってトラブルに発展し、毎日、白哉の帰りはかなり遅いらしい。
 しかも、月末の誕生日の前後はすでに強制的に休みにするよう、朽木家のほうから申し入れがされていて変更はきかず、なお切羽詰っているようだ。
 思わせぶりに告げられた白哉の誕生日を知っている言うと、意外な顔をされたが、恋次から聞いたとソース元をばらせば、納得したようだった。
 休みを取るのは私用だからと、恋次は適当な時間に強制的に帰らされてしまうということで、執務室に残っているのは白哉だけらしい。
 昼間、ルキアを探して十三番隊を訪れた時、またしても恋次に遭遇し(それで非番だと教えてもらったのだが)、それでもなんとか今日中に一段落つきそうだと、疲れた顔をしながらほっとしていた。
 つい耳をダンボにしながら、できる限り素っ気なさを装ってうなずく自分に対して、何だが思わせぶりな笑いを恋次が浮かべていたのは、この際思いっきり気のせいだと思うことにした。
 だからこうして、のこのこやってきたわけだが、邪魔になるようなら、すぐに帰るつもりだった。
 案の定、執務室からはまだ、煌々と明かりが漏れていたので、一瞬ためらってから、どうせ霊圧でわかっているはずだと、開き直ってノックした。
 ちょっと間があって、入れと、いつもと変わらぬ、抑揚の少ない声が聞こえた。
「失礼しまーす……」
 学校の校長室だって、こんなにガチガチにはならないだろうというくらい硬くなって、一護はそろそろと引き戸を開けて中をうかがった。
「何用だ。珍しいな、兄がこのような時間までこちらにいるとは」
 どうやら恋次の言うとおりに片付いたらしく、まだ机に着いてはいたが、帰り支度をしていたようだ。
 やや疲労が滲んだ表情で、そう問われた。
 一護はたいてい就業時間内に護廷を訪れ、報告が終わると誘いの声がかからない限りは、真っ直ぐ現世に帰ってしまう。
 誘われるといっても、たいてい昼食やお茶くらいで、それ以外では瀞霊廷すら出かけないし、日があるうちに帰ってしまう。
 例外は、志波空鶴の家に行く時くらいだ。
 そうやって一護は、ひどく生真面目に必要以上の接触を断っているので、新しく発った中央四十六室からの覚えもいい。
 なので、こんなに暗くなってもまだ、こちらに留まっていること自体、非常に稀だ。
 一護は、ばつが悪そうに頭をかいた。
「先週、ルキアの誕生日、祝い損ねちまったから、その埋め合わせしてた」
 それに、合点がいったようで、溜息を吐く。
 ルキアが一護をのした一件は、かなりの噂になっていたからだ。
「まったく、そのようなわがままをいう年でもなかろうに」
 なにやら怪しくなってきた雲行きに、一護は慌てて否定した。
「いや、いいんだ別に。俺が勝手に、こっちの年齢は数え年だって思い込んでただけだしさ。……それに、ルキアの誕生日をちゃんと祝えて、うれしい」
 ふわりと、一護の口元に浮かんだ微笑に、白哉はわずかに目を見張った。
 いつもどこか張りつめていたこの子供は、いつからこんな、包み込むようにやわらかな、大人の笑みを浮かべるようになったのだろうか。
「そうか……私からも礼を言おう」
 まだ時々、一護に対する後ろめたさを口にする義妹は、どれほど喜んだろうか。
「俺の方こそ……ありがとう」
 それに、照れくさそうに笑いながら礼を返されて、白哉は今度こそ本当に驚いた。
 普段は結構な意地っ張りで、こんな風に素直に感情を吐露しようとはしてくれないからだ。
「あの時、白哉が俺の勝ちだって言ってくれたから、ルキアを藍染から守ってくれたから、俺はまだ、こうしてみんなを護って闘える」
 そして、護廷の死神達みんなが、白哉が、一護を受け入れ、信じてくれるから、例え虚をこの身に宿していても、死神のままでいられるし、死神でいたい。
 最後の瞬間まで。
「その……三十一日が、あんたの誕生日だって聞いたから……」
 少し口ごもりながら、懐から小さな袋を取り出す。
 迷って探して、やっと見つけたそれ。
「俺、働いてるわけじゃねぇから、たいしたもんじゃねぇし……ちょっと早いけど……あんた、すげぇ貴族だから、祝いの席なんか設けるんだろ?そんなとこに行けるわけもねぇしさ」
 自分は元旅禍で、所詮は死神代行。
 四大貴族の一、朽木家の晴れがましい席になど、それこそとんでもない話だ。
「誕生日おめでとう、受け取ってください」
 大きな机越しに差し出されたそれは、今の一護にとっては精一杯の証。
 本当に受け取ってもらえるのか。
 不安から、手が小さく震えている。
 迷惑だと、突き返されてしまったら、どうしよう。
 見ているのが怖くて、うつむいて目を閉じていると、指から紙袋の感触が消え、ちりりと微かな鈴の音がした。
「……開けて見てもよいか?」
 いつもよりも優しく感じるその声に、一護は一生懸命うなずいた。
 受け取ってもらっただけでも、胸が張り裂けそうなほどうれしい。
 大きさのわりに重みのある袋を開け、手の中へと転がすとそれは、きれいな乳白色をおびたオレンジ色の石のついた根付。
 その石には、猫の目に似た縦の光の筋が入り、角度を変えると筋も動くことから、光を反射しているのだとわかる。
 石と一緒に、本当に小さな金色の鈴が一つ、付いていた。
「ちょっと長いけど、キャッツアイオレンジムーンストーンっていうんだ」
 その鮮やかな色合いに見入る白哉に、一護は少しばかり早口で説明した。
「宝石みたいな高価な石じゃねぇんだけど、一月三十一日の誕生石がムーンストーンなんだ。でも、店でそれ見つけて、どうしてもそれをあんたにあげたくて……」
 白哉の誕生石に、自分の髪の色のオレンジ、そして光の筋の入ったそのパワーストーンを見た瞬間、もしそれを受け取ってもらえたのなら、勇気が出せる気がした。
 この許されざる気持ちを伝える勇気を。
 詰まりそうな呼吸を整えて、顔を上げ、真っ直ぐに見据える。
 信じられない面持ちで、手の中の石を見つめる白哉を。
「俺は……黒崎一護は、朽木白哉を愛してます」
 白哉が息を呑むのがわかり、一護は反射的に両手で顔を覆った。
 終わった。
 終わってしまった。
 わかっていた。
 報われるはずもない恋だ。
 いつから好きだったのかなんてわからない。
 もしかすると、あの、雨の中で殺されかけた最初の出会いから、もう恋に落ちていたのかもしれない。
 見ているだけでよかったはずの気持ちは、尸魂界への自由な出入りを保障されると、身を焦がすような思いへと羽化した。
 だから、できる限り長居はしないようにした。
 でも、会えないのは辛かった。
 思いは募り、もうこれ以上、耐えられなかった。
 だったら、いっそのこと終わってしまえばいい。
 それで、全てがあきらめられると思ったのに。
 どうしよう。
 こんな悲しみがあるなんて知らなかった。
 涙が勝手にあふれ、嗚咽が喉を焼いた。
 この瞬間の絶望に、魂が押しつぶされそうだった。
 白哉の気配が、すぐ傍らへとやってきたのがわかる。
「このような石など要らぬ」
 どこか苦しげな声が伝えてきた言葉に、本当に魂がきしんだ。
 立っていられなくなった一護を、白哉の力強い腕が支える。
 ほんの微かに香る、白哉の体臭に目眩がした。
 息が苦しい。
「この石がなくとも、私の心は変わらぬ」
 否応なく耳に吹き込まれる言葉に、一護は弱々しく首を振った。
 それ以上、聞かせないでほしい。
 しかしその願いを、白哉は許さなかった。
「私は、朽木白哉は」
 最後通告に、一護の心臓は悲鳴を上げた。
 聞きたくない。
 いっそ、殺してほしい。
「黒崎一護を愛している」
 時が止まった。
 ただ、静寂だけが辺りを支配し。
 だらりと、一護の手が力を失って落ちた。
 呆然と見開かれた一護の瞳に、ひどく辛そうな白哉の顔だけが見えていた。
 彼は今なんと言った?
 それともこれは、自分が都合よく作り上げた幻覚だろうか。
「私には、これを受け取る権利がない」
 白哉は根付を握りしめたまま狂おしく、一護をかき抱いた。
「これは許されない思いだ。私は死神であり、兄はまだ、現世を生きる人間だ」
 流魂街の住人であった緋真の比ではない。
「私は兄を不幸にする」
 白哉が一護を愛し、一護が白哉を愛するということは、一護の人としての幸せに生きる未来を奪い、尸魂界においては、白哉の身分ゆえにいわれのない謗りを受け、死神としての未来すら閉ざすことになってしまう。
「それでも私は」
 だから目をそらそうとした。
 すでに二度も、過ちを犯した身であるから。
「どのような誉れも富もいらぬ。兄が、一護だけが欲しい。私は狂っておるのやも知れぬ。愛しいのだ、どうにもならぬほどに、一護!」
 熱に浮かされたような告白に、一護の目から、再び涙が流れ落ちた。
「白哉……!」
 だらりと両脇に落ちていた手が、とめどなく震えながら、白哉の背中に回り、白い羽織を握りしめた。
 その涙は、絶望ではなく、歓喜。
「白哉!……白哉……!」
 一護はしゃくりあげた。
「俺……俺も、白哉しか要らねぇ……白哉しか愛せねぇよ!」
 子供のように泣きながら、必死に一護は縋りついた。
 もう放さないでほしい。
 未来なんかいらない。
 今、この瞬間さえあればいい。
 この喜びの中で逝けるのなら、何も怖くなどなかった。
 隙間なく密着しあっていた身体を、惜しんでわずかに離し、二人は見つめあうと唇を求めた。
 深く深く侵食し合い、貪りあい、息が止まりそうなほど。
 とろりと、溶け合ってしまえないのが不思議なほど濃密な時は過ぎ、二人は再び互いだけを見つめる。
「三十一日の零時、さらいにゆく。その時こそ一護、兄の全ては私のものだ」
 漆黒の瞳は、どこまでも暗く、欲望を宿し。
「うん……うん、待ってる。だから、必ず来てくれ」
 極上の琥珀は、それを望んで。
 もう一度、誓いの口付けを交わした。



 一月三十日の深夜。
 三十一日へと、日付が変わった瞬間。
 空座町に住まう一部の住人は。
 雪のように舞い散って消えた、桜の花弁を目撃し。
 本当に微かな、鈴の音を聞いた。



 THE END

2007,1,20 Dragon.Load
VOICE OF MOON  http://voiceofmoon.oboroduki.com/





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