2007年8月10日 日本テレビ「太田光の私が総理大臣になったら」より
<原爆はしょうがなかったのか?>
マニフェスト「アメリカに原爆被害の賠償金を請求します」、それによって
Aアメリカが賠償金を支払う事で原爆投下は犯罪であると認識させる
B戦争への意識が高くなり平和に役立つ
C日本は原爆の愚かさを訴え核兵器を無くすリーダー国としての役目をはたせる
に賛成か反対か?
[背景情報]
1戦後原爆についてアメリカ政府からの謝罪の言葉は一切ない
22007年7月3日 ロバート・ジョセフ核不拡散担当特使の言葉
「原爆投下が戦争に終わりをもたらし結果的に何百万人もの日本人の命を救った」
31951年のサンフランシスコ平和条約で
米英は「日本への賠償請求権を放棄」日本は「連合国への賠償請求権を放棄」している
41932年国際連盟平和軍縮会議で「一般市民に対するあらゆる空襲の禁止」が決議されている
[賛成派]
大村秀章(自民党)、小野寺五典(自民党)、原口一博(民主党)、吉井英勝(共産党)、東ちずる(広島出身)、島倉千代子(戦争体験者)、鈴木敏明(歴史家)、山本モナ(被爆三世)、鈴木沙理奈、海川ひとみ(アイドル)、金美齢(台湾人)、三宅信雄(被爆者)
[反対派]
石破茂(自民党)、東順治(公明党)、笹木竜三(民主党)、保坂展人(社民党)、王曙光(中国人)、池田清彦(早稲田大)、中川八洋(筑波大)、ケント・ギルバート(弁護士)、サム・ジェームソン(元LosAngelsTimes記者)、パーリット・セービン(記者)、ケビン・クローン、ふかわりょう、川島明、田村裕
(討論)
太田:賠償請求することで原爆の風化を防げる
ふかわ:1951年に請求しないと決断した
太田:1951年にその時の被爆者の感情をきちんと受け止めていたか不明だ
中川:逆だ、久間氏の考え方は1960年頃までは多数派だった、例えば昭和天皇もそう言っている →【脚注①】
東:原爆は実験だったという真実を明らかにできる
小野寺:なぜ実験かというとアメリカは1ヶ月前から広島空襲をやめて準備をしている
鈴木:ポツダム宣言を受け入れなかったから原爆投下されたと言うが、トルーマン大統領に皆が天皇の地位を補償すれば日本は降伏するだろうと進言している。トルーマンはわざとそれに従わなかった →【脚注②】
(石破の反論)
石破:サンフランシスコ条約で請求を放棄したのを原爆だけやめると言うことか?
太田:原爆に限らない
石破:すると東京大空襲、そして日本に対する他国からの請求などを可能にして、パンドラの箱をあけたようになる
太田:あけましょう
石破:賠償金は国民の税金だ、収拾がつかなくなる
太田:それは「しょうがない」と言っているのと同じだ →【脚注③】
石破:次を確認すべきだ、①1945年日本がもし原爆を持っていたら使っていただろう②当時アメリカからみて日本が勝算がないのに抵抗を続けるのは理解できない
太田:アメリカからみて日本は狂っていたと言いたいのですね
石破:②(続き)そのまま行ったら本土決戦になると思っていた=戦争を終わらす為に投下した
東:ならばなぜ警告をしないのか?
石破:無人島でデモをしても日本は言論統制があったからダメ③日本政府は冷静に判断すればアメリカに勝てる訳ないと開戦前からわかっていた、なのに予算をとって戦争にすすんだ。当時の日本とは何だったか検証すべきだ。④ソ連は北海道を欲しがった、ソ連をおとなしくさせる為だった →【脚注④】
原口:原爆は実験だったというのはアメリカは兵器の能力として直接放射線データのみ取った、だから今も間接被爆(入市被爆者など)を無視した意図的なデータになっている。賠償請求することで実相にせまりたい。 →【脚注⑤】
クローン:戦争はひどい事するのが当たり前
池田:原爆はひどいがそれが賠償請求とは飛躍ありすぎ、理由は実効性がない、日本が自分で始めた戦争で賠償を請求するなんてありえない
太田:俺は実効性があると思っているから提案している
笹木:賠償請求はいろんな国がやっていてそんな低レベルな国と一緒と思われちゃう。金で解決すべきじゃない
山本:ではそのままにするのか?なぜ日本の政治家は国会でこれを明らかにしないのか?
笹木:日本を降伏させるためというのは嘘だ、スティムソン陸軍長官が「20億ドルの原爆開発費の成果を得たい」と言っている。これは国会決議に書けるが金じゃないだろう
吉井:サンフランシスコ条約で賠償請求権は消滅したというが、被害者個人が請求する権利は消滅していない →【脚注⑥】
小野寺:原爆被害は今も続いている。1951年の条約締結時には原爆被害の継続は予期していなかったから今請求できる根拠がある。また被害を理解してもらう為に請求する事の意味がある[拍手] →【脚注⑦】
(アメリカ人の反論)
ジェームソン:日本は<核の傘>の下。アメリカの核兵器による反撃を期待している[東ちずるの激しい否定の身振り] →【脚注⑧】
大村:原爆を国際的にアピールすべきだ、ジョセフ氏のような考え方はおかしいと世界に言うべきだ
ギルバート:戦勝国が敗戦国に賠償金を支払った歴史はない
太田:今までの歴史は関係ない、これから何ができるかだ
ギルバート:アメリカの日本への戦後の経済支援にそうした意味があった →【脚注⑨】
賛成派:そこには反省の意図はない
ギルバート:それで平和になった、それを言わずにお金を請求するなら誤解されるだろう(どんな意味に?)アメリカ人にとっては、原爆のおかげで戦争が早く終わって多くのアメリカ人も日本人の命が救われたという認識だ
セービン:アメリカの教科書にはそう書いてありそれ以外の考え方はないだろう、だからアメリカ人は賠償金を払おうとは思わない。日米には意識のギャップがある。教育のせいでもある。 →【脚注⑩】
大村:教科書にそう書いてあるのは問題だ
島倉:私が思うのは原爆が再び落ちる事がないようにしたいだけです →【脚注⑪】
ギルバート:原爆が投下されるのは運命だった、人間は科学の怖さを知らない、だから1回目はある意味ではやむを得ない、だが2回目は許せない →【脚注⑫】
沙理奈:アメリカ人は「原爆は怖いものだ」と感じていないのね! →【脚注⑬】
ギルバート:若い頃初めて原爆資料館に行った時には「自分が何も感じていない」のに気がついた、自分とは関係ない事と思った。その後たくさん勉強した。
(戦争論)
王:原爆は歴史の1ページだ他を忘れてる。重慶の爆撃の被害者は広島より多い。日本は重慶の被害者の賠償請求を退けながら米国に請求するのか?それは国家の品格が問われる。 →【脚注⑭】
太田:その通りだ。日本人は(60年前の)戦争は「しかたがなかった」という感覚がある。それも全部検証し直そう。
石破:賛成だ。自衛戦争だ、太平洋戦争に突入したのはしかたがないという意見がある。それを総括すべきだ。コアな議論を回避し認識のギャップがあるまま同盟国と言ってもそれは脆いものだ。 →【脚注⑮】
太田:戦争に必然などないということだ
石破:自衛戦争(急迫不正の武力攻撃を受けた場合)は認めるべきだ。 →【脚注⑯】
太田:違う。戦争は自衛からはじまる。日本は中国に侵攻し、アジア全体が欧米の経済的・政治的侵略を受けており、それへの自衛意識から戦争が始まったと思う。自衛の戦争も否定しないと、どっかに隙間があって戦争が始まる。 →【脚注⑰】
石破:日中戦争は自衛戦争ではない。しかし自衛戦争はしてもいいものだ。
金:賠償請求の意味を論じずに枝葉末節が多すぎる。アメリカは人道問題として慰安婦非難決議をした、原爆は最大の人道問題だ。賠償請求は非現実的だが、原爆は最大の非人道的行為という意味を論じるべきだ。 →【脚注⑱】
(被爆者(三宅信雄)の被爆体験陳述)約3分
海川:アメリカ人の事をどう思いますか?
三宅:その時はアメリカを恨んだがその後いろいろ知ると、アメリカの指導者には深い憎しみを感じるが一般人としてのアメリカ人には恨みを抱いてはいない。 →【脚注⑲】
太田:海川がアメリカ人は悪い奴だと思ったのは無理はない。「感情的に相手を許せない!」となってしまうと突き詰めると戦争になってしまう。例えば日本も中国人に酷いことをしてる。もっと戦争について知るべきだ。 →【脚注⑳】
保坂:被爆者は26万人(被爆者手帳所有者)、原爆症認定者は2300人。日本政府は何してる?
三宅:我々の思いはアメリカへの恨みにはない。我々は核兵器は使われてはいけない、なくさなくてはいけないと運動してきた。
池田:核兵器はなくならない、科学技術はより高度のものが登場しないとなくならない。なくならないのを前提に考えるべきだ。
東:大事な事は、地球から核兵器をなぜ廃絶できないのか?
山本:今の私たちにできるのは知ること、戦争について勉強することだ
投票結果:賛成14/反対13
視聴者の投票結果:賛成72%/反対28%
視聴者:賠償金は謝罪の表現の一部であって、請求すること自体が主張なのではないか
視聴者:日本の平和は核の傘のおかげ、賠償を求めるのは自殺行為だ
視聴者:賠償を求めるよりアメリカの子供に核兵器は絶対使用すべきではないと教えるべきだ
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【脚注】
①原爆投下で戦争が終わったと言う感覚は、日米とも当時の兵士・市民にはあるようである。投下のすぐ後に日本の降伏が行われているためである。しかしアメリカでは1946年に原爆の被害の大きさがしれるとすぐに正当だったのかという世論が一部に起こり、これを抑えるため「上陸作戦時の100万アメリカ兵士の命を救うため」という論文が陸軍長官の名で発表されている。しかし日本では戦後10年近くはGHQの報道規制により原爆について一般的にはほとんど知られておらず、その被害の惨状は知られていない。これが初期のしかたがないという感覚の背景であろう。
②原爆投下の経緯。即ちトルーマン大統領の意志決定過程についてはアメリカ人による多くの研究があり詳しい事情まで明らかにされている。
③石破は賠償請求は金銭的に日本人の大きな負担になるからダメだと主張している。討論ではこの賠償請求の意味は実は金銭の問題ではないことが明確になっていく。即ち戦争といえども原爆使用は正当なのか、正当な戦争はあるのか、核兵器廃絶の可能性などが真の焦点である事が明らかになる。
④石破は4つの論点をあげているが彼はそれを正当化できていない、反論は以下だろう
1 1945年当時日本軍も原爆を持っていれば使っただろうから米を非難できない→日本の戦争犯罪(重慶爆撃など)も反省・賠償し、同時にアメリカの原爆も反省謝罪すべきだ
2アメリカから見て原爆以外では日本は降伏しそうになかった→当時の米の軍首脳はほぼ全員通常兵器で降伏に追い込めると考えている(アメリカの研究による)
3論点がずれている
4原爆は北海道を欲しがるソ連に対する牽制→戦争終結の為ではなく、既に戦後の米ソ対立を見越したアメリカの利益の為であり日本が納得できるものではない
⑤原口氏のこの意見は非常に注目に値する。科学的見地から見て被爆量を爆心からの距離だけ(直接放射線だけ)で算定する現在の方法は明らかにおかしい。そのおかしい理由が実験目的であったアメリカの被爆者からのデータ採取の事情によると見ているのであろう。
⑥日本政府に対する中国人の賠償請求裁判などで今も争われている。最高裁判決(2007年西松判決)は被害者に賠償請求権そのものはあることは認めている。
⑦小野寺氏のこの意見も注目に値する、原爆の放射能による長期の被害という人類が今まで予想し得なかった現実、という指摘には説得力がある。
⑧日本は核の傘の下にあるから原爆に関して批判すべきではないという非常によく見られる意見。この反論は実際には無意味なのだが一般的にはあまり知られていない。理由は
Aこの反論が日本政府への場合。日本政府はNPT(核不拡散条約)を推進している。この条約の考え方はもともと米ソなどには核兵器の所有を認め他の国には認めない<矛盾>した考え方にたっている。日本が核の傘の下にあるまま他国の核兵器廃止を求めるのはNPTの考え方そのままであり、その点ではなんら矛盾したものではない。
Bこの反論が核兵器廃止運動をしている日本人への場合。そうした日本人は他国へも、また日本政府へも核兵器の禁止を訴えているのであり、なんら矛盾していない。スタジオの東ちずるの悲しげな表情はこれを表現していた。
⑨戦後のアメリカの日本への経済援助には原爆への反省と補償の意味があるとは考える人は少ないだろう。しかし戦後の日米関係が結果として平和で経済発展した日本を支えたのは事実であり、結果としてよかったではないか?というアメリカからの主張はあるだろう。しかしそれは論点を広げすぎである。
⑩原爆に限らず戦争に関してのアメリカの教科書や一般的な認識の違いは大きい。戦後62年たってもこうした歴史認識の差は日本-中国だけでなく、日本-アメリカでも大きい。
⑪TVでは島倉のこの発言はただ泣き言を言っているだけで無意味に見える。しかし、これは日本人の総意であり完全に合意の得られる、日本人の最大の熱意の源である。逆に言えばアメリカなどの国は今現在も必要なら戦争をするべきだという考え方であり、この「戦争は嫌だ」という感情は世界的には大変貴重なものである。
⑫アメリカは朝鮮戦争でも、ベトナム介入初期でも原爆使用を検討している。原爆は大変悲惨な事態を招くという経験・データとそれに基づく使用時の他国からの批判がなければ、再び使用したと指摘する人は多い。原爆を1回も使用しないままそれが抑止力になるかはたしかに疑問である。
⑬沙理奈の言葉は簡潔だが深い。実際これを受けてケント・ギルバートは深く知らないと原爆の恐ろしさはわからないと答えている。日本人以外は被爆者の残酷な写真を見ても深くは感情移入しない、あるいは罪を回避しようと敢えて感情移入を避けているのかも知れない。そもそも多くのアメリカ人は原爆はこうした悲惨な状況をつくることを知らない可能性が大きい。アメリカ人や他国の人間が核兵器廃絶に冷淡なのは、「原爆が恐ろしい事を知らないから」である可能性が大きい。
⑭アメリカが日本に原爆を使用し非人道的行為をしたように、日本も中国などに非人道的行為をした。それを認めるべきだという指摘。実際中国人の原爆への反応は、原爆は悲惨だがそれは日本のした行為(中国での残虐な行為)のお返し、自業自得だろうと言うものである。従って中国での日本での残虐行為を認めないと、他国からは広島・長崎の原爆への非難には同意は得られないと思われる。事実太田は認めている。
しかし空爆自体を批判するには更に大きな合意段階が必要だろうし、また死者数だけで惨劇の意味を考えるべきではないだろう。
⑮この部分の石破の意見はもはや原爆から離れており、日米同盟を堅固なものにするため歴史認識を改めようと言っている。
⑯この自衛戦争に関する石派の定義は、自衛戦争に関する日本政府の説明の引用からきている。
⑰「自衛戦争は危ない」というこの太田の意見は注目に値する。憲法改正に伴う議論では自衛のためなら軍隊が必要だという意見がよくみられるが、自衛と侵略は実は紙一重だと太田は指摘している。
⑱原爆の議論で最も大事なのはそれが「どれほど非人道的な兵器であるか」にあると金は言っている。一般的に議論はすぐに条約、裁判の話になるが、突き詰めると「原爆は絶対的に非人道的である」とアメリカ人と世界の多くの人間が同意すれば、廃止条約が成立できると思われる。
⑲日本の被爆者がアメリカ人一般に恨みは抱いていないのは、この証言者に限らず一般的だろう。同時にそれはアメリカ人には理解されていないと思われる。しかし被爆者である三宅氏が原爆投下を決定したアメリカ指導者にはっきり怒りを表明したのは珍しい。
⑳注目すべき太田の発言。平和のためには怒りなどの感情ではなく理解が必要だとしている。