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書評  中川八洋『日本核武装の選択』(1)

2006年01月11日 | 書評

先の九日に駐日ロシア大使ロシュコフは、北方領土問題の問題解決の基盤はむしろ小さくなっていると言ったそうである。


これまでの日本の拙劣な外交の結果として、北方領土の回復はさらにいっそう遠のいたことになる。鈴木宗男の利権がらみの外務省介入の結果である。拙劣な一貫性のない政府と外務省の対ロシア外交はいっそう北方領土の回復を遠ざける。田中真紀子の騒動以来、せっかく俎上に乗り始めた、外務省改革も頓挫したままである。

また、小泉首相の靖国神社参拝問題をめぐって、中国や韓国との首脳外交も停滞したままである。北朝鮮とは、日本人拉致問題をめぐって北朝鮮が誠意のある態度を──拉致被害者全員の無事原状回復──を見せない限り、国交回復などありえないことは言うまでもない。


また、最近になって、アメリカが北朝鮮によるマネーロンダリング・資金洗浄にかかわったとしてマカオの銀行に発動した金融制裁について、北朝鮮は、九日に「われわれを窒息させようとねらったものだ」と非難し、解除しなければ核開発問題をめぐる六か国協議の再開に応じられないとしている。


北朝鮮は、この六ヶ国協議を、自国の核開発のための時間稼ぎとして利用していることは言うまでもない。そもそもこの六カ国協議は、北朝鮮問題を東アジアの当事者である、ロシア、中国、北朝鮮、韓国、日本の五カ国に任せて、アメリカは出来るだけ手を引こうとして、アメリカがはじめた試みであるが、この六カ国協議は、今では北朝鮮をだしにする、ロシアと中国による対日米攻略の場としても利用されている。


この六カ国協議は、ロシアと中国にとっては、その主たる戦略の対象が北朝鮮にではなく、日本にあることはいうまでもない。したがって、日本はこの会議の隠れた交渉相手は、ロシアと中国であることを国民としても再確認しておく必要がある。北朝鮮の核兵器保有は直ちに日本の核武装の問題に関わるし、日本の核兵器保有こそロシア、中国両国にとっても最大の懸案だからである。

このような最近の東アジアの状況が背景にあって、日本の核武装についての議論の現状を知るために、さしあたって中川氏の『日本核武装の選択』を手にした。一応の感想を記録しておくことにする。日本の核武装の問題についての議論は主に保守派と称される人々によって行われて来たのであって、共産党をはじめとする、いわゆる「進歩派」のグループでは、まともに取り上げられることはなかった。この派には狂信的な「平和主義者」が多いからである。中国とロシアの巨大な核武装には反対せず、ただ、日米の核武装にのみ反対する彼らの偽善的な「平和主義」は、ただ中国とロシアを利するだけである。

本書は直接的には、中川氏の北朝鮮の核武装による日本の安全保障上の危機意識を背景に書かれた。もちろん、北朝鮮と日本との関係においては、核の問題のほかに言うまでもなく拉致問題があるが、この両者はもちろん無関係ではない。


中川氏の結論ないし主張は、日本の核武装による北朝鮮の核軍事基地への攻撃を契機とする金正日体制の崩壊によって、北朝鮮人民を独裁と飢餓から解放すると同時に日本人拉致被害者を解放しようというのである。

日本は、世界初の原爆被害国になったこと、そして、その被害のあまりに悲惨であったために、国民の間に核武装については、きわめてアレルギー反応的な拒絶反応を示してきた。そのために戦後六十年間、核武装の問題についてほとんど国民の間にまともに──科学的に──議論されてこなかったといえる。

中川氏は直接的には北朝鮮の核武装を契機に論じているが、むしろ、実際の日本への核攻撃の脅威の程度からすれば、その対日核ミサイルの保有数からいって、対日核脅威の水準は、ロシア:中国:北朝鮮はそれぞれ、100:10:1になるという。中川氏は、むしろロシア主敵論の立場に立っている。

残念ながら今のところ私は、ロシアや中国や北朝鮮の核爆弾、およびその運搬手段であるミサイルの保有状況や、その規模についての専門的な技術的な知識を、持ち合わせていない。だから、それらの是非については、ここで具体的に検討することは出来ない。

したがって、ここではただ、核武装の思想的な前提と、核兵器を中核とする東アジアの軍事情勢の論理構造について検討することしか出来ない。そして、何よりも緊急に検討を要するのは、核武装の問題をめぐる日本国内の政治的経済的な、あるいは、思想的な状況についての論理的な解明である。中川氏の『日本核武装の選択』の内容を検討しながら、この問題について解明してゆきたいと思う。

 


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