私にとっての言葉力とは、「人生を豊かにする力」です。
私は3年間のゼミの中でいろいろなことを学んできました。一例を挙げれば、多摩地区限定のキットカットを企画することや、ポテトチップス・スポーツ系炭酸飲料などの商品のネーミングやキャッチコピーを作るなどがあります。企画力や発想・デザインなども重要視されますが、どれも最終的には「言葉」がメインとなり、どんなに案が良くても、どんなにデザインが良くても発表者によってほとんど評価が決まってしまうと思います。企画案の味をよりいっそうひきたて、印象付けることで案を受け入れてもらう姿勢となるからです。実体験として、ゼミが始まって間もない頃に私がトリビアの発表を行ったことがあります。その時私が発表した内容は「碁石の白と黒は大きさが違う」というものでした。高校の時に私が自己紹介で同じ内容のトリビアをパワーポイントで紹介したときは大歓声となり、とても盛り上がった雰囲気に包まれましたが、大学のゼミでは盛り上がるどころか静かな雰囲気のままであったことを今でも覚えています。パワーポイントの力を借りて心を動かすのではなく、自分の選んだ言葉で響きを与えることが「言葉力」であると私は考えます。
ゼミで講義を受けるにつれ、「言葉の力」(言葉力)を意識するようになりました。テレビでは普段はあまり見ることの少ないCMや電車内の広告など、ジャンルを問わず気になったものは常にメモし、まるでライターにでもなったかのような気分でいました。よくみて見ると、大々的なCMや宣伝は行っていないのに印象に残る言葉があったり、考えてみると表では見えないおもしろいカラクリを発見することも多々ありました。例えば、「THE有頂天ホテル」(ざ・うちょうてんほてる)という映画がありますが、本来であればTHEの後ろが母音の「う」であるため、読みとしてはザではなく「ジ」であるべきです。しかし、英語の表記では"THE WOW-CHOUTENN HOTEL"となっているため、ザではなくジと読むことになったという話があります。この場合は、uchoutenと表記するよりwow-choutenと表記した方がにぎやかな映画であるという想像が難しくなく、全体的にも「ジ・ウチョウテン」より「ザ・ウチョウテン」の方が語感的にもなじみやすいといった要因が隠されています。言葉の力は映画のタイトルをも変えてしまう威力を持っているのです。
また、普段の生活で使われている言葉でも疑問に思う点はありました。「人一倍」という
言葉があります。この意味ですが、現在の解釈で考えると「人一倍頑張る」=「人×1倍頑張る」つまり「普通の人並みに頑張る」と捉えてしまってもおかしくない表記です。しかし、昔の「倍」の意味は今で言う「2倍」であったといわれています。つまり、「人一倍」は「人×1」ではなく、「人×2」で考えていたものが名残として今も使われているという
ことになります。
このような例からも、言葉には普段は気付くことのない面白いタネが多く隠れています。普段から何気ない言葉や知識を意識することによって、そのようなタネを見つけることも少なからずあります。よく先生に「アンテナを張りなさい」と言われることが多くありました。自分が言葉の魅力を理解し、多くの言葉に触れていくことによって、自分自身もよりよく面白い内容の言葉やキャッチコピーを作ることができる、ということだったのではないかと今は思います。仮にそれが言葉のキャッチコピー作りなどの参考にならなくとも、人との会話で活用することも可能です。以下に例を挙げます。
1.「日本人の1000人に3人がハマっている」 (パクロス)
実際に聞いてみると説得力があるのかないのかよく分からないコピーです。しかし、計算をしてみると日本人の約40万人がハマっているということになります。1ヶ月315円の料金を徴収するということになると、315円×40万人=126,000,000円の収入が1ヶ月に入ることになります。よく考えてみると実はすごい!という内容ですが、このコピーの目的は収入の大きさを知ってもらうためではなく、「注目」や「気にかけてもらうこと」が本当の目的であると私は思います。つまり、「1000人に3人って少なくない?」、「40万人って言えばいいのに」そう思ってもらえればこのパクロスのCMは成功ではないでしょうか。例えば、「日本人の1億2000万人に40万人がハマっている」という言い方では、想像がつきにくく、受け流されてしまうのではないかと思います。なぜなら「1億」、「40万」という数字は普段馴染みがなく身近ではありません。食事や電車の切符購入などで1,000円を払うことはあっても、電車の切符を40万円分買うことは滅多にあるものではないからです。
2.「尻尾がない悟空、エロくない亀仙人」 (実写版ドラゴンボール)
この映画は、公開時から上記のような批判を受けていました。それを逆手にとって宣伝に使用したというコピーです。あらかじめ「こうである」と断言し、印象付けておけば実際に映画を見て、「亀仙人がエロくない!」とがっかりするということがないため期待はずれという感覚が多少和らぎます。しかし、内容によっては第一印象で「つまらない」と思われてしまうのがこのコピーの特徴であるため、コピーの内容がファンにとって興味の持てる内容であるか、言葉によって印象が大きく変わってきます。
3.「形は△ 味は○」 (セブンイレブン)
セブンイレブンのおにぎりを分かりやすく例えたコピーです。ただ「おいしいおにぎり」と謳うのではなく、前文にあまり良い印象のない「△」を使うことで、「○」の効果が引き立てられてうまく強調されています。「○」の印象をうまく利用し、食べたことがない人は「本当に味は○なのか」と思い、実際に食べたことがある人も「やっぱり美味しいおにぎりなんだな」という購入後の満足を得ることができます。ただ、「○」の表現には「◎」もあるため、「なぜ◎ではないのか」と思われてしまう欠点もあります。コピーの都合上、△と○を使っていますが、◎ではないため、特段に美味しいというわけではなく、捉えようによっては「少なくともまずくはない味」と思われてしまうことも考えられます。
このように、言葉には1つに限定したものではなく、その人のその時の気持ちや考え方によっても少なからず意味は異なってきます。大切なのは、今の状況やその人の性格に応じた言葉を使うことではないかと思います。万人に受ける言葉の想像は非常に困難であり、全ての人に受け入れられる言葉は存在しません。しかし、その人・その場に応じて言葉を使い分ければ言葉はとても強い味方となる。周りの空気を読み言葉を使い分けることこそ、私の考える「言葉力」であり、「人生を豊かにする」ことができる能力ではないかと考えます。