多字騒論

Sonicの読書日記兼投資日記。不定期更新です。

山地悠一郎 『後南朝再発掘』

2005年07月03日 03時05分13秒 | 歴史
叢文社 2003年 ★☆☆☆☆

「古書」で有名な八木書店の関連会社に「読書通信社」がある。ここはいわゆる「バーゲン本」を取り扱っている会社で、年に一、二度、目録を送ってくる。あまり人気の高くない本ばかりだが、とにかく安いので目録のタイトルを見て面白そうな本を片っ端から購入している。それで今回の注文で選んだ本の中の一冊が本書。定価は1890円だが、購入価格は672円。でも大失敗。

 本書は「後南朝」というタイトルに魅かれて購入したのだが、取り上げられているのは主に「熊沢天皇」について。「熊沢天皇」を知らない人に向けて簡単に説明すると、第二次世界大戦後の1946年に、南朝の後亀山天皇の子孫と称する熊沢寛道がマッカーサーに正当な皇位継承者として認めるように迫ったという怪事件。その後熊沢は、1951年に裁判所に昭和天皇の「天皇不適格訴訟」を訴えたが、あえなく却下される。本書はこの一連の「熊沢天皇」に関してのエッセイである。

 これがとにかくまとまりのない文章。全体の構成は整えられておらず、途中同じような文章が繰り返し書かれ、結局著者が何を主張したいのかもわからない。熊沢寛道の素性を確かめるようなこともなく、また後南朝の末裔で熊沢氏の祖とされる「信雅王」(応仁の乱の際に山名宗全によって擁立された「南帝」とされる)の存在を考証することもない。途中、唐突に「フリーメーソン」(笑)は登場するし、どこにも「参考文献」がないので何に依拠した論なのかもわからず、学術的な価値はほぼ皆無といえる著作。巻末に江戸期の儒者熊沢蕃山の系図が掲げられて、蕃山も後南朝の末裔とされているが、これに関する言及も一切ない。

 あとで出版社の「叢文社」を調べてみたら、どうやら自費出版系の出版社のようだ。自費出版なら致し方ないという考え方もあろうが、一冊の本として流通に乗せて販売されるのだから、出版社の側でもう少し体裁を整えてもらいたいと思う。

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