海馬
小林稔子
今のいまなのに思いだせない
いったいどこに置いたのか
出かけようとしたら書類がない
あれ・あれ・どこだ 摩訶不思議
同じところをうろうろする
忘れたのではない 消えた
神隠しというのか
うちにみえない誰かがいるのか
うふふ ! 笑ったな おまえ
わたしにいたずらするおまえ
おまえの名は海馬
諦めて出かけようと鏡台へ
あった!
こんなところに
書類に頬ずりする
病院で車が消えた
軽四を止めたのは
二階の黄色い柱の横
診察終えて帰ってきたら
そこに別の車が
泣き出しそうなわたし
すがる思いで警備員さんに
車種とナンバーを伝える
ものの五分 ありました
黄色い柱は南北に二ヵ所ある
ふかぶかと頭をさげる わたし
ひとさまに迷惑かけた わたし
心苦しさにさいなまれるわたし
うふふ ! 笑ったな おまえ
またいたずらしたな おまえ
二〇一二・一二・二
中央自動車道笹子トンネルで
天井板崩壊事故があった
走行中の車数台 若者五人死す
天井式つり金具の老朽化が原因
偉い先生はいう
加齢により脳の中心海馬の衰え
それは老朽化の順調な成長と
海馬は衰えるだけでなく
さまざまな現象により
増幅するという
頼むからいたずらしないで
わたしの海馬