宋斤の俳句「早春」昭和八年六月 第十五巻六号 近詠 俳句
近詠
桟庭我庵(五句)
端居すれば舟の話が聞えけり
端居して居れば次第に川の闇
桟庭に草鉢増えし端居かな
机よりにじり出てたる端居なれ
二階涼し吊葱また露たるゝ
末吉端畔にメーデーを見る(四句)
メーデーや汗に組む腕一萬人
メーデーや前隊何か事のさま
にぎやかと云ふことも否労働祭
メーデーの大軍去って端柳
机邊伏見焼きの鴛鴦の浮人形を置き楽む
おしどりの番さびたり浮人形
蝙幅や散歩に乗りし汽車の窓
待宵草や一驛乗って汽車を捨つ
夏の夜や草ひろうして海の闇
巨勢金岡が由緒の地
金岡が別業の址や茶山晴れ
摘み終えし茶の山浅く覆くづれ
徑は茶摘落葉に薊咲く
樹村居
茶どころに一閑庭や頬白鳥啼く
つばくろや茶事せはしの村の空
日の道を茶の家の土間の香に入る
あをあをと茶になる葉なり蒸しぬれて
茶選女の選る葉さらさら塗り机
残鶯のかすか焙爐師ひた汗に
山水に茶の葉ころびて木幡哉
夜になりて村は茶の香に月三日
睡蓮のまだし鯉澄み蓮るゝ哉
山朝に要花咲きほとゝぎす
藤の花
藤に来て海も近しや宿の朝
藤の下出でて旅なる雲のそら
早春社本句會
もの苗の握りしめたる根土かな
花さくといふのみの苗賈ひにけり
牡丹を有り合う壺に夜色かな
徑に踏む牡丹の筒も畠の晴れ
早春社四月例會
一時は山もなかりし花の雨
(宇治)琴坂の夕ぐれ跳べり初蛙
近郊の春を見に出て初蛙
早春社十五例會
蕗の臺暮色躅んでゐたりけり
蕗の臺毎朝に見てたたのしみぬ
六橋観句座
巻わらの尚も蘇鐵に彼岸すぎ
蝶とんで町の空地の彼岸すぎ
一水會 (於六卿觀)
蔀戸に風の通ふて春の闇
近詠
桟庭我庵(五句)
端居すれば舟の話が聞えけり
端居して居れば次第に川の闇
桟庭に草鉢増えし端居かな
机よりにじり出てたる端居なれ
二階涼し吊葱また露たるゝ
末吉端畔にメーデーを見る(四句)
メーデーや汗に組む腕一萬人
メーデーや前隊何か事のさま
にぎやかと云ふことも否労働祭
メーデーの大軍去って端柳
机邊伏見焼きの鴛鴦の浮人形を置き楽む
おしどりの番さびたり浮人形
蝙幅や散歩に乗りし汽車の窓
待宵草や一驛乗って汽車を捨つ
夏の夜や草ひろうして海の闇
巨勢金岡が由緒の地
金岡が別業の址や茶山晴れ
摘み終えし茶の山浅く覆くづれ
徑は茶摘落葉に薊咲く
樹村居
茶どころに一閑庭や頬白鳥啼く
つばくろや茶事せはしの村の空
日の道を茶の家の土間の香に入る
あをあをと茶になる葉なり蒸しぬれて
茶選女の選る葉さらさら塗り机
残鶯のかすか焙爐師ひた汗に
山水に茶の葉ころびて木幡哉
夜になりて村は茶の香に月三日
睡蓮のまだし鯉澄み蓮るゝ哉
山朝に要花咲きほとゝぎす
藤の花
藤に来て海も近しや宿の朝
藤の下出でて旅なる雲のそら
早春社本句會
もの苗の握りしめたる根土かな
花さくといふのみの苗賈ひにけり
牡丹を有り合う壺に夜色かな
徑に踏む牡丹の筒も畠の晴れ
早春社四月例會
一時は山もなかりし花の雨
(宇治)琴坂の夕ぐれ跳べり初蛙
近郊の春を見に出て初蛙
早春社十五例會
蕗の臺暮色躅んでゐたりけり
蕗の臺毎朝に見てたたのしみぬ
六橋観句座
巻わらの尚も蘇鐵に彼岸すぎ
蝶とんで町の空地の彼岸すぎ
一水會 (於六卿觀)
蔀戸に風の通ふて春の闇