数年前から、右手の親指に妙なできものができていた。
素人判断でずっとイボだと思い込んでいて、市販のスピール膏を貼ったりヨクイニン粉末を服用したりしていたのだけれども、一向に小さくなる気配もなかった。逆に大きくなる気配もなかったので、そのままにしておいた。
とはいえ気になる事もあって、久里浜駅前の久里浜駅前皮フ科に行って診てもらったこともあったのだけれども、やっぱりイボだといわれて通り一遍の処置をしてもらい、地道に通院するしかないといわれて気が萎えていた。
そんな共生関係にあったヤツだけれども、この二月ごろから急に活発に成長を始め、今まで皮膚が盛り上がっていたようなモノだったのが、皮膚から突き出たモノへと変貌を遂げ始めた。これは様子がおかしいと思い、三月末に横須賀中央にある峯村皮膚科クリニックという別の皮膚科に行ってみた。
看護婦さんが見て十秒後に首をかしげ、医者の先生を呼んだところ、お医者さんは一目でイボじゃないと断定し、切るのが一番速いと言われた。うーん、医者によってこんなにも判断が違うものか。医者と一口に言ってもいろいろいるんだなぁ。
利き手の親指って事もあって、大きな病院で切ってもらいなさいといわれ、横須賀共済病院に紹介状を書いてもらう。四月上旬、えらく混雑している病院で二時間待って診察を受け、良性腫瘍といわれる。先生の施術のスケジュールの関係で手術は一ヶ月後。まぁ、四月中は週末もいろいろあったし、親指が使えなくなるのは不便だから僕としてもちょうどよかった。
しかしGW中にヤツは自らの運命を悟ったのか、成長の速度を速め、ぐんぐんと長くなってきた。GW前後で比べると三ミリくらいは延びたんじゃないだろうか。
しかしヤツの運命が変ることも無く、GWが明けた先日の11日に、大げさに入院。昼前に病院に入り、数時間待ってから30分ほどで切り取る。執刀してくれた先生はずいぶんなベテランらしく、手際もよく手術中の会話も安心させてくれるもので、とてもよかった。看護婦さんや他の先生にも人望がある人のようだった。
六時間ほど経って、消灯時間になると麻酔が切れ始める。ガマンできなくなるほど痛かったら飲みなさいと渡されていた痛み止めがあったけれども、ガマンできる範囲内だが寝付けない程度の痛みの場合はどうすればいいのだろうか。まぁどうせ明日も休みだし少々寝不足でもかまわないと思ってガマンし続けていたら、二時ごろに寝付いていた。
翌日も強烈にヒマ。朝ごはんを食べ、ついに読了してしまった「ものづくり経営学」を適宜ひっくり返しながら時間を持て余していると、やっと簡単な診察があり、消毒の仕方などを教えてもらって退院。
振り返ってみると、最初に久里浜駅前皮フ科で診てもらったときにイボ扱いされたのが残念。このお医者さんはアトピーの治療などでは有名なところらしく、良いお医者さんだと思っていたのだけれども、いかんせん混雑が激しすぎるのできちんと診る余裕も無かったのだろうか。二番目の峯村皮膚科クリニックは一回診てもらっただけだけれども、わかりやすく説明してくれたのでいい印象を受けた。横須賀共済病院で担当してくれた先生は説明もしっかりしてくれて、とてもいい先生だったと思う。まぁ、この程度なら入院する必要も無かったのではなかろうかと思ったけれども、しかしそれも素人考えかもしれないし、まぁそれは仕方ないことなのかな。
それよりも、入院は初めてだったので、その経験のほうが心に残った。同室の様子を伺ってみると、やはり年配の人が多い。点滴をうち、頻繁に医師が検査に訪れる人を目の当たりにすると、自らの体が思うままにならないというのがどんなに辛いことなのか、いままで頭でわかっていたつもりのことがより強く感じられる。別のおじいさんは、看護婦さんが車椅子で移動しましょうと何度言っても、いや、自分で歩くといって聞かない。可能な限り自分の体で歩くんだという思いが声の調子から伝わってきて、心を打たれた。
たった一日だったけれども、いろいろと考えさせられる時間だった。