鈴木頌の「なんでも年表」

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出村文理 「マンロー書誌」 要綱 その3

2021-03-17 17:09:49 | マンロー

この記事は文献解題と参考文献一覧を含む。学会発表論文の紹介は省略した。
なおマンロー関係の文章は近日中に「年表ブログ」に移行予定である。

著作一覧

 

人類学/考古学関係

1.先史時代の日本 Prehisutoric Japan


日本の先史時代について最初の本格的な規範があった。国内では山内清男の研究が標準とされているが、これにに20年以上先立って発表されている。 

 

1.縄文時代に先立って旧石器時代があったことを地質学的、古生物学的観点から論理的に予測している。

2.古墳時代と縄文時代の間に中間的な時代があったことを世に先駆けて提唱している。

3.縄文土器の文様解析などから、この時代に農耕文化が存在いていなかったと主張

 

 

2.「アイヌの生活…過去と現在」(Ainu Life, past and present)

英字新聞連載(Japan Advertiser) 全6部 1934年

3.「九州の先史時代遺跡」(Prehstorc sites in Kyushu)

1934年  国際先史・原史学会投稿論文(英文)

 

2.映画

1933 映画2「Ainu Exorcism UEPOTALA」

同年 映画3「Ainu House Warming Ceremony CHISENOMI」

 

 

哲学/科学論

1.「Soul in Being」(生けるものとその魂) ジャパン・ガゼット社 1918年

執筆には三番目の夫人アデールが全面協力しており、彼女に献呈されている。みずからの肩書きを「王立人類学研究所会員」と記しており、彼がまず以て自らを人類学者とみなしていたことを示す。

全426ページの大著。目次は下記の通り

Preface 

Introduction 

1.存在の根源

2.生命の意味

3.有機体における意識の発生

4.進化する意識

5.意識と感情

6.自己意識と主体意識

7.分析的な意識

8.計画的な意識

9.自我の析出

 

2.「知性の謎とアインシュタイン: 二つのエッセイ」 神戸・ジャパンクロニクル社 1922

関東大震災の直前の発行である。

前著「生けるものとその魂」は4年前の著作だが、その間にアインシュタインの著書に接したものと考えられる。

一編めが「知性の謎」で、科学的倫理思想が展開される。基本的には前著を踏襲したもので、目次は下のごとし。

1.序説 

2.唯物論  (ここでいう「唯物論」は機械的唯物論のことである)

3.物質の性質 

4.エネルギー論 

5.様々な波長と電子の速度 

6.原子と感覚 

7.物的世界の展開 

8.原子の構造 

9.精神の進化 

10.地球外の生命 

11.物質の成因としての光 

12.感覚と思考の成因としての光 

13.知覚から知識へ 

14.相対系世界と精神 

15.意識と宇宙観 

16.結語

全体として、生命及び生物を物理化学的に分析する機械的唯物論を批判。諸過程の有機的連関を重視する。

また心の問題を扱うのに、自己意識を基準にする心理学主義ではなく、ヒトという類として出発すること、無意識の世界を基礎に置くべきと主張。これはフロイドの精神分析の影響を受けた考え。

2篇目は「アインシュタイン」と題され、目次で判断する限り、内容は相対性理論の概説のようだ。

自説の方向にアインシュタインを読み解き、存在とエネルギーの相互転化こそが相対性理論の本質だと見ている。

見出しの日本語訳を鷹部屋がつけているが、必ずしも正確ではなさそう。

 

3.「生命と真実: 存在の謎についてのエッセエ」 吉川弘文館

1918のSoul in Being 1922のThe Riddle of Mentality and Einstein に続く第三番目の哲学書であり、生前最後の単行本である。

もともとの原稿は1930⃣年頃の執筆と思われるが、32年12月の火災で消失し、記憶をもとに再執筆したもの(序文)である。

この著書はアイヌの人類学的研究の合間に構想されたものとされる。

 

4.「精神の物質的基本性質とさらなる進化」

“Further Evolution And the Nature of the Physical Basis of Mind” 1890 (明治23)

自費出版の私家版で、1890年横浜で出版されたもの。おそらくインドでの体験が基礎になった思索と思われるが、現存は確認できない。

 

その他のジャンル

マンローは多彩な知識・才能を有し考古学及び後述のアイヌ文化研究関係の著作の他にさまざまなジャンルの著作を発表している。

1. 『宗五郎』(sogoro)

 1911(明治44)年に発表された戯曲。佐倉惣五郎を題材にしたもの。

2.日本の貨幣(Coins of Japan)

Yokohama、JapanGazetteより出版。

 

3.日本の癌統計(学位論文)

 

く参考文献>

*マンローの足跡に触れたもの

マンローの生涯と人物は、石森延男作『梨の花』(創作・文芸春秋社1972)によって最初に紹介された。

存在が広く知らしめられたのは桑原千代子著『わがマンロー伝ーある英人医師・アイヌ研究家の生涯ー』(新宿書房 1983)が刊行されていらいである。

以降、いくつかの断片的紹介が相次いでいる。

青木とき「マンロー先生」(旅人たち)『あるくみるきく』(日本観光文化研究所) 1973年

青木祐介・伊藤泉美「N.G.マンロー、横浜での足跡をめぐって…資料よもやま話…」 『開港のひろば』第91号2のの6

「開化横浜の考古学…モース、マンローと近代遺跡」 『神奈川考古』2004年

ベルツ、エルヴィン著・池上弘子訳『ベルツ日本再訪ー草津・ビーテイヒハイム遺稿/日記 東海大学出版会

上田誠吉著『ある北大生の受難ー国家秘密法の爪痕』朝日新聞社1987 

これは宮沢くん事件についての著書で、その一部に最晩年のマンローが触れられている。

桑原千代子著『わがマンロー伝ーある英人医師・アイヌ研究家の生涯』新宿書房1983

小林達雄「ニール・ゴードン・マンロー論」『縄文文化の研究』1の雄山閣1984

小山政弘「二風谷マンロー館覚え書」『北海道の文化』第61号199の

鷹部屋福平「マンロー先生」『橋のいろいろ』(鷹部屋福平著)石崎書店1958

鷹部屋福平は九大工卒。23年に欧州留学に向かう船上で、アインシュタインと知り合う。後に北大工教授となり、36年に二風谷のアイヌ集落研究。この際にマンローの知己を得る。

武田清子「ジョン・バチェラーとアイヌの自立ー労働のモラルを軸に」

谷万吉「二風谷コタンの故マンロー先生」1~5『赤れんが』第48~51号・第53号 1977-78

「谷万吉・小山政弘・出村文理編「ニール・ゴードン・マンロー博士年譜」I・Ⅱ 『北海道史研究』第8・1の号1975-76

 

*マンローの研究成果に触れたもの

出村文理編「NeilGordonMunro書誌」『北海道考古学』第9輯1973

(財)アイヌ文化振興・研究推進機構編『海を渡ったアイヌの工芸…英国人医師マンローのコレクションから…』

ウイルキンソン、J.・小林功芳訳「ゴードン・マンロー…日本の考古学と人類学における冒険…」『英国と日本一日英交流人物伝ー』(イアン・ニッシュ編)博文館新社,1994

『アジア文化研究』(国際基督教大学アジア文化研究所)第11号1979

 

* 以下は二風谷アイヌ住民の目から書かれたもの

貝澤正「近世アイヌ史の断面」『アイヌわが人生』(貝澤正著)岩波書店1993

萱野茂「マンロー先生」『おれの二風谷』(萱野茂著)すずさわ書店1975

 


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