吹く風ネット

K商店社長 後編 (2005年5月14日付)

 翌日のこと。
「ねえ、しんた君、K商店と取り引きあったよねえ」と店長が聞いてきた。
「ええ、ありますよ」とぼくは答えた。

「社長、どこか体の具合が悪かったんかねえ?」
「え?知りませんよ」
「そうか、知らんのか。いや、実はねえ、他の店の人からから電話があって、『昨日、K商店の社長の葬儀をやっていた』と聞いたんで、しんた君が知っとるかと思ってね」
「葬儀?ああ、それは会長の葬儀ですよ。今月の頭、社長の奥さんが来た時に、会長が亡くなったと言ってましたから」
「ああ、会長ね。そうやろうね。社長の具合が悪いとか聞いてなかったけ、おかしいなとは思ったんやけど…。ああ、そうか、社長は会長の名前に『郎』を足した名前やけ、知らん人は間違えるよねえ」

 それからしばらくして、ぼくに外線が入った。本社の人からだった。
「しんちゃん聞いた?K商店の社長が亡くなったって」
 また勘違いである。
「あれは会長ですよ」
 ぼくはその日「社長が亡くなった」という話を三度聞かされた。

 翌日も、何人かの人が言ってきた。が、亡くなったのが会長だとわかったのか、それ以来言ってくる人はいなくなった。

 ところがである。それから一週間くらいして、ある取引先の人が、「K商店の社長が亡くなったらしいですね」と言ってきた。
「いや、亡くなったのは会長」
「ああ会長だったんですか。そうですよね、社長まだ若かったし」
 もう時間も経っていることだし、そういうことを言ってくる前に、ちゃんと電話で確認をとるなりして、事実を調べろよ。知らない仲じゃないんだから。

 とはいうものの、ぼくも奥さんから聞いてなかったとしたら、社長の名前をろくに覚えてなかったし、ここ最近会ってなかったこともあったので、亡くなったのは社長だと思ったことだろう。

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