昨日午後7時を過ぎた頃だった。出入り口に置いてある万引き防止装置が発報した。ぼくが慌てて走っていくと、そこに一人の中年男性が立っていた。
男はぼくを見るなり、
「払えばいいんでしょ」
と言った。その言葉を聞いてぼくはムッとした。が、冷静に
「こちらに来て下さい」
と言って、事務所まで連れて行った。
事務所に行く途中
「払うつもりだったんですが」
と男は言った。
「払うつもりなら服の中なんかに入れないでしょ」
とぼくが言うと、今度は
「もうしませんから見逃して下さい」
と男は言う。
「そういうことは、事務所で言って下さい」
「お願いです。許して下さい」
ぼくはそれに答えず、無言で男を事務所まで連れて行った。
うちの店は悪質な万引きが多いため、捕まえるとすぐに警察に通報することにしているのだが、ぼくが男を事務所に連れて行くと、さっそく店長代理が警察に電話をかけた。
警察は「いくつぐらいの人ですか」と男の歳を聞いてきた。
「おいさん、いくつね?」
と代理が聞くと、男は一瞬躊躇して
「あ、ああ50歳です」
と言った。
明らかに嘘を言っている。どう見ても50歳には見えない。もっと上である。
代理が電話を切った後、男は
「歯医者に行かないけんから、急いで下さい」
などとほざいていた。
結局、警察が来て、男は署に連れて行かれた。
おそらくこの男も、万引きは犯罪ではないと思っている一人だろう。
万引き犯は、自分のことを「泥棒」と呼ばれることに抵抗を持っていると聞く。しかし、どう見ても万引きは泥棒である。手軽に盗めるところから盗もうとする卑怯な泥棒である。
先の川崎の万引き事件で、書店に非難や中傷をした人間がいたという。そういう人も万引きを犯罪と思ってないのだろう。
万引きは立派な犯罪である。人の物を盗むだけでも死刑になった時代だってあるのだ。軽く考えてはならない。
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