吹く風ネット

イヤな客

2003年2月13日の日記です。

 最近、よくクレジット会社から電話がかかってくる。別に「金を払え」と言ってくるわけではない。「交通傷害保険に入ってくれ」と言うのだ。

 最初は女性からだった。
「こちら○○信販ですけど、MS(本名のイニシャル)さんのお宅ですか?」
「はい」
「MSさんでいらっしゃいますか?」
「はい」
「この間、ダイレクトメールでお知らせした交通傷害保険の件でお電話差し上げました」
「ダイレクトメール?見てないなあ」
「そうですか。よければご説明いたしますが、お時間を取らせてもらってよろしいでしょうか?」
「別にかまいませんよ」
 彼女は、マニュアルどおり保険の説明を始め、最後に「契約はお電話でもかまいませんが」と言う。
 その時ぼくは「考えさせて下さい」と言った。
「では、後日また電話させてもらいますので、ご検討下さいませ」
 と言って彼女は電話を切った。

 次もその女性からだった。
 前回と同じ内容だった。
「友人がやっている代理店で入っているので、今回は結構です」
 とぼくが言うと、
「そうですか。でも、こちらのほうもいい保険ですので、ぜひご検討下さいませ」
 と彼女は言う。
 ぼくは面倒になって、「はい」と言って電話を切った。

 次の休み、また電話が入った。
 例の女性からだった。
「あのう、この間電話させてもらったのですが、ご検討していただけたでしょうか」
 この間断ったので、もうかかってこないと思っていたのに、またか。
 ずいぶん熱心だ。というより、しつこい。
「いいえ。この間、お断りしたでしょう?」
「ダイレクトメールにもあるとおり、月々1350円と保険料も安く、保証も2千万円まで出る大変いい保険ですから、ぜひご検討下さい。電話で契約を受け付けますから」
「ぜひ検討してくれと言うなら、詳しい資料を送ってもらえませんか?」
「資料ですか?」
「そう。電話で簡単に契約出来る保険なんか信用できんでしょ?」
「わかりました。では、こちらのほうから資料を送らせていただきますから、よろしくお願いします」
 そう言って、彼女は電話を切った。

 さて、それから3日後。11日のことだった。
 午後9時頃に電話が入った。
「もしかしたら」という予感がして、ぼくは電話を取らなかった。
 家の者が出た。

(電話よ)
(誰?)
(何とか信販から。「MSさんいますか」って)
(女の人?)
(いや、男の人)

 今度は男か。もううんざりだ。こうなったら、イヤな客を装うしかない。

「はい、替わりました。MSです」
「あ、MSさんでいらっしゃいますか?」
「はいっ?」
「あのう、MSさんですか?」
「おかしな人ですねえ。あなたが『MSさんお願いします』と言ったから、ぼくが『MSです』と名乗って出たんでしょ。なのに『MSさんですか?』って確認する必要ないじゃないですか。ぼくが信用できないんですか」
 相手は面倒な客に捕まったと思ったのか、急に焦りだした。
「い、いえ、すみません。あ、あのう、前回DMをお送りした保険の件ですが、ご検討いただけましたでしょうか?」
「検討も何も、まだ資料が届いてないですよ」
「え?」
「前に電話で『資料送ってくれ』と言ったでしょうが。連絡行ってないんですか?」
「あ・・。し、しばらくお待ち下さい」

 しばらく待った。

「お待たせいたしました。すぐ資料のほうを送らせていただきますので」
「えーっ!? まだ送ってなかったんですか? 待ってたのに」
「す、すみません」
 男は泣きそうな声になった。
「早く送って下さい。待ってるんですから」
 そう言って、ぼくは電話を切った。

 資料が届いた頃、また電話がかかってくるだろうな。
 きっとまた「MSさんですか?」と言ってくるだろうから、今度は
「いいえ、しろげしんたです」
 と答えておこうか。

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