翌日。昨夜の事が気にはなったが、あれきり何の音沙汰もない。ならば、あれこれと気に病んでも仕方がない。さとみはそう割り切る事にした。……冨美代さんも、イヤだ嫌いだって言うんなら、もう放っておけば良いのに。でもあの様子じゃ、まだ気にしているようだったし。振り回されるみつさんや豆蔵が気の毒だわ。それにしても、あれだけ好きだった相手をそんなに簡単に嫌いになれるものなのかしら? 恋愛経験の乏しいさとみには、あまり良く分からないと言うのが実際だ。
昼休みになった。いつものようにアイがやって来て麗子とこそこそと話を始める。
「会長、麗子と話があるので、屋上へ行っても良いですか?」
アイが訊いてきた。
「ええ、どうぞ」さとみは返事をする。「それにしても、二人って仲良しなのねぇ…… なんだか恋人同士みたい」
さとみがしみじみとした口調で言う。「おい、やっぱり、ばれてんじゃねぇのか?」「前も言ったけど、さとみにそんな知識はないわよう! たまたま言っただけだわ!」アイと麗子の会話が聞こえた。訝しそうな表情をさとみに向けつつアイと麗子は行ってしまった。
入れ替わるように、しのぶがやって来た。見るからに心霊モードだった。ただ、心霊モードの時のきらきらした輝きの瞳では無く、暗かった。表情も何だか沈んでいるようだ。
「会長……」
しのぶはつぶやく。手には布袋を持っている。持っていると言うよりも握りしめている。ボイスレコーダーの形がくっきりと浮かんでいるからだ。
「あら、回収できたのね?」
「……はい、朝早く登校して、回収しました」しのぶは言って、ごくりと喉を鳴らせる。「そして、再生してみたんです……」
「なるほど、それもあって早くに登校したんだ」さとみは感心したように言う。「で、何か録れていたの?」
「……」しのぶは無言で大きくうなずいた。「録れていました……」
「そう……」
さとみは軽くうなずいてみせた。しのぶの表情から、それなりの大変な事だと想像できる。だが、テスト前でもある。しのぶなら直前まで心霊モードであっても平気なのだろうが、さとみはそうは行かない。人並みか、課目によっては人並み以上に勉強しなければならない。さらに問題なのは、人並み以上に勉強しなければならない科目がちょっと多い事だった。だから、出来ればテスト明けまで持ち越したいと思っていた。
「あのさ……」
「会長!」さとみの言葉を遮り、しのぶはずいっとさとみに迫る。「これは大事件です!」
「大事件……?」
「そうです!」しのぶは深くうなずく。「こんな事があるなんて……」
「何があったの?」ついつい関心を持ってしまうしまうさとみだった。「……声、録れてたの?」
「……はい……」しのぶの表情が青白くなる。「思っている以上に良く録れていました……」
「どんな感じなの?」
「それは……」
しのぶは言いかけて口を強く結んだ。
「言えないの?」
「あの……」しのぶは言い淀む。「……あの、ちょっと、言えないんです……」
「と言う事は、何やら恐ろしげな呻き声とか、呪いの言葉とか、そんな感じなのかしら?」さとみも自分で言いながら青い顔になって行く。「昨日、個室を見た時には、そんな感じはなかったんだけど……」
「いえ、そう言う声じゃないんですけど……」しのぶはごくりと喉を鳴らす。「朝、一人で聞いて怖くなっちゃって……」
「そうなんだ……」さとみもつられて喉を鳴らす。「……それで?」
「会長、放課後良いですか?」
「良いですかって?」
「一緒に聞いてください!」しのぶが必死の表情になる。「わたし一人じゃ、これを支えきれません! お願いします!」
しのぶはぎゅっとさとみに手を握って来た。その手は冷たかった。……このままじゃ、しのぶちゃんに何かが憑きそうだわ。さとみは思った。
「……分かった。じゃ、放課後、北校舎の教室に集合ね。……でも、テスト前だから、みんな集まるかしらねぇ?」
「いえ、会長にだけでも聞いてもらいたくって……」
「分かったわ。じゃあ、二人だけで集合ね」
「はい! ありがとうございます!」
しのぶはほっとしたのか笑みを浮かべながら涙を浮かべる。本当に怖かったのだろう。さとみはぽんぽんと、しのぶの肩を優しく叩いた。
つづく
昼休みになった。いつものようにアイがやって来て麗子とこそこそと話を始める。
「会長、麗子と話があるので、屋上へ行っても良いですか?」
アイが訊いてきた。
「ええ、どうぞ」さとみは返事をする。「それにしても、二人って仲良しなのねぇ…… なんだか恋人同士みたい」
さとみがしみじみとした口調で言う。「おい、やっぱり、ばれてんじゃねぇのか?」「前も言ったけど、さとみにそんな知識はないわよう! たまたま言っただけだわ!」アイと麗子の会話が聞こえた。訝しそうな表情をさとみに向けつつアイと麗子は行ってしまった。
入れ替わるように、しのぶがやって来た。見るからに心霊モードだった。ただ、心霊モードの時のきらきらした輝きの瞳では無く、暗かった。表情も何だか沈んでいるようだ。
「会長……」
しのぶはつぶやく。手には布袋を持っている。持っていると言うよりも握りしめている。ボイスレコーダーの形がくっきりと浮かんでいるからだ。
「あら、回収できたのね?」
「……はい、朝早く登校して、回収しました」しのぶは言って、ごくりと喉を鳴らせる。「そして、再生してみたんです……」
「なるほど、それもあって早くに登校したんだ」さとみは感心したように言う。「で、何か録れていたの?」
「……」しのぶは無言で大きくうなずいた。「録れていました……」
「そう……」
さとみは軽くうなずいてみせた。しのぶの表情から、それなりの大変な事だと想像できる。だが、テスト前でもある。しのぶなら直前まで心霊モードであっても平気なのだろうが、さとみはそうは行かない。人並みか、課目によっては人並み以上に勉強しなければならない。さらに問題なのは、人並み以上に勉強しなければならない科目がちょっと多い事だった。だから、出来ればテスト明けまで持ち越したいと思っていた。
「あのさ……」
「会長!」さとみの言葉を遮り、しのぶはずいっとさとみに迫る。「これは大事件です!」
「大事件……?」
「そうです!」しのぶは深くうなずく。「こんな事があるなんて……」
「何があったの?」ついつい関心を持ってしまうしまうさとみだった。「……声、録れてたの?」
「……はい……」しのぶの表情が青白くなる。「思っている以上に良く録れていました……」
「どんな感じなの?」
「それは……」
しのぶは言いかけて口を強く結んだ。
「言えないの?」
「あの……」しのぶは言い淀む。「……あの、ちょっと、言えないんです……」
「と言う事は、何やら恐ろしげな呻き声とか、呪いの言葉とか、そんな感じなのかしら?」さとみも自分で言いながら青い顔になって行く。「昨日、個室を見た時には、そんな感じはなかったんだけど……」
「いえ、そう言う声じゃないんですけど……」しのぶはごくりと喉を鳴らす。「朝、一人で聞いて怖くなっちゃって……」
「そうなんだ……」さとみもつられて喉を鳴らす。「……それで?」
「会長、放課後良いですか?」
「良いですかって?」
「一緒に聞いてください!」しのぶが必死の表情になる。「わたし一人じゃ、これを支えきれません! お願いします!」
しのぶはぎゅっとさとみに手を握って来た。その手は冷たかった。……このままじゃ、しのぶちゃんに何かが憑きそうだわ。さとみは思った。
「……分かった。じゃ、放課後、北校舎の教室に集合ね。……でも、テスト前だから、みんな集まるかしらねぇ?」
「いえ、会長にだけでも聞いてもらいたくって……」
「分かったわ。じゃあ、二人だけで集合ね」
「はい! ありがとうございます!」
しのぶはほっとしたのか笑みを浮かべながら涙を浮かべる。本当に怖かったのだろう。さとみはぽんぽんと、しのぶの肩を優しく叩いた。
つづく
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