一 カーネーション
「ママ、パパからのカーネーションよ」
マミちゃんが言いました。
「本当ねぇ」ママは迷惑そうな声で言いました。「この三年、毎年毎年、本当に律儀なパパねぇ・・・」
マミちゃんとママは、赤いカーネーションがまとまって咲く、庭の隅のややこんもりと盛り上がったところを、リビングの大きな窓越しに見ていました。
「パパ、太ってて大きかったから、お花も大きいのかなぁ?」
「そうかも知れないわねぇ・・・」
ママは、冬でも汗臭くて暑苦しいパパの身体を思い出しながら言いました。
「パパ、からだを真っ赤にしていたから、お花も赤いのかなぁ?」
「そうかも知れないわねぇ・・・」
ママは、離婚を承知しないパパを包丁で刺して刺して刺し続けた事を思い出しながら言いました。
近いうちに掘り返して埋め直そう、そして、今度はマミの好きなきゅうりでも植えてみようかな、ママはそう思いながら、マミちゃんの頭をなでました。
二 マミちゃんのお料理
「マミちゃん、何をしているの?」
キッチンで煮立った鍋の前に立っているマミちゃんを見て、ママが優しく言いました。
「ママのために、お料理を作っているのよ」
振り向いたマミちゃんは得意げな顔をしています。そして、まな板の上の不揃いに刻まれた野菜を鍋に入れました。
「全部、マミちゃんがやったの?」
「うん、でも、ちょっとケガしちゃった」
マミちゃんは、猫をキャラクター化した絵がプリントされている子供用の絆創膏が張られた左の人差し指を見せました。
「痛くなぁい?」
「平気よ。それよりもママ、味見してみて!」
マミちゃんは、鍋からスプーンですくい取ったスープを小皿に移し、ママに差し出しました。ママが嬉しそうに口をつけました。
「ど~ぉ?」
心配そうな顔のマミちゃん。
「とっても美味しいわよ」ママが微笑みながら言い、包丁を持ちました。「でも、ちょっとだけ味が足りないわね・・・」
その晩、ママはとても美味しい野菜と肉の煮込みスープを食べました。
「あら! 何かしら!」
口の中に違和感を覚えました。口の中からそれをつまみ出しました。猫をキャラクター化した絵がプリントされている子供用の絆創膏でした。
「あら、ちゃんと処理しなかったんだわ!」でもすぐにママは幸せそうな顔で独り言を言いました。「それにしても、マミちゃんの料理、とっても美味しいわよ」
三 母の日同士
「お母様、きのこ料理を作ったので、お持ちしましたわ」
ママがまだ湯気の立っている小振りの片手鍋を持ってやって来ました。
「今日は母の日、日頃の感謝を込めて特別に作りましたの」
「そりゃあ、ありがたいねぇ」おばあちゃんはにこにこしながら言いました。「実は、あたしもあんたにきのこ料理を作ったんだよ、偶然だねぇ」
おばあちゃんは立ち上がって台所へ向かい、ママと同じように湯気の立った片手鍋を持って戻って来ました。
「あんたも母だからね、母の日のお祝いだよ」
「まあ、ありがとうございます」
湯気の立つ片手鍋が二つ、テーブルに置かれています。
「お母様、冷めないうちにどうぞ」
「あんたこそ、冷めないうちに」
二人は顔を見合わせながら笑いました。
「ところで、みんな元気なのかい? 最近顔を見せないけど」
「元気ですわ。お父様も見かけませんけど」
「ぶらりと一人旅なんだと」
「五年も、ですの?」
「そんな事はどうでもいいから、お食べなさいな」
「いいえ、お母様から召し上がれ」
二人は顔を見合わせながら、また笑いました。
二人の料理は同じものでした。このきのこ料理、冷めれば普通の美味しい料理なのですが、冷めないうちは猛毒の料理なのでした。しかも、なかなか冷めない料理なのです。冷めないうちに食べさせたい、でも冷めなければ食べたくない・・・
会話が止まれば食べなければならないでしょう。額に汗を浮かべながら、引きつった笑顔を浮かべながら、二人の会話は、湯気を見ながら延々と続けられました。
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「ママ、パパからのカーネーションよ」
マミちゃんが言いました。
「本当ねぇ」ママは迷惑そうな声で言いました。「この三年、毎年毎年、本当に律儀なパパねぇ・・・」
マミちゃんとママは、赤いカーネーションがまとまって咲く、庭の隅のややこんもりと盛り上がったところを、リビングの大きな窓越しに見ていました。
「パパ、太ってて大きかったから、お花も大きいのかなぁ?」
「そうかも知れないわねぇ・・・」
ママは、冬でも汗臭くて暑苦しいパパの身体を思い出しながら言いました。
「パパ、からだを真っ赤にしていたから、お花も赤いのかなぁ?」
「そうかも知れないわねぇ・・・」
ママは、離婚を承知しないパパを包丁で刺して刺して刺し続けた事を思い出しながら言いました。
近いうちに掘り返して埋め直そう、そして、今度はマミの好きなきゅうりでも植えてみようかな、ママはそう思いながら、マミちゃんの頭をなでました。
二 マミちゃんのお料理
「マミちゃん、何をしているの?」
キッチンで煮立った鍋の前に立っているマミちゃんを見て、ママが優しく言いました。
「ママのために、お料理を作っているのよ」
振り向いたマミちゃんは得意げな顔をしています。そして、まな板の上の不揃いに刻まれた野菜を鍋に入れました。
「全部、マミちゃんがやったの?」
「うん、でも、ちょっとケガしちゃった」
マミちゃんは、猫をキャラクター化した絵がプリントされている子供用の絆創膏が張られた左の人差し指を見せました。
「痛くなぁい?」
「平気よ。それよりもママ、味見してみて!」
マミちゃんは、鍋からスプーンですくい取ったスープを小皿に移し、ママに差し出しました。ママが嬉しそうに口をつけました。
「ど~ぉ?」
心配そうな顔のマミちゃん。
「とっても美味しいわよ」ママが微笑みながら言い、包丁を持ちました。「でも、ちょっとだけ味が足りないわね・・・」
その晩、ママはとても美味しい野菜と肉の煮込みスープを食べました。
「あら! 何かしら!」
口の中に違和感を覚えました。口の中からそれをつまみ出しました。猫をキャラクター化した絵がプリントされている子供用の絆創膏でした。
「あら、ちゃんと処理しなかったんだわ!」でもすぐにママは幸せそうな顔で独り言を言いました。「それにしても、マミちゃんの料理、とっても美味しいわよ」
三 母の日同士
「お母様、きのこ料理を作ったので、お持ちしましたわ」
ママがまだ湯気の立っている小振りの片手鍋を持ってやって来ました。
「今日は母の日、日頃の感謝を込めて特別に作りましたの」
「そりゃあ、ありがたいねぇ」おばあちゃんはにこにこしながら言いました。「実は、あたしもあんたにきのこ料理を作ったんだよ、偶然だねぇ」
おばあちゃんは立ち上がって台所へ向かい、ママと同じように湯気の立った片手鍋を持って戻って来ました。
「あんたも母だからね、母の日のお祝いだよ」
「まあ、ありがとうございます」
湯気の立つ片手鍋が二つ、テーブルに置かれています。
「お母様、冷めないうちにどうぞ」
「あんたこそ、冷めないうちに」
二人は顔を見合わせながら笑いました。
「ところで、みんな元気なのかい? 最近顔を見せないけど」
「元気ですわ。お父様も見かけませんけど」
「ぶらりと一人旅なんだと」
「五年も、ですの?」
「そんな事はどうでもいいから、お食べなさいな」
「いいえ、お母様から召し上がれ」
二人は顔を見合わせながら、また笑いました。
二人の料理は同じものでした。このきのこ料理、冷めれば普通の美味しい料理なのですが、冷めないうちは猛毒の料理なのでした。しかも、なかなか冷めない料理なのです。冷めないうちに食べさせたい、でも冷めなければ食べたくない・・・
会話が止まれば食べなければならないでしょう。額に汗を浮かべながら、引きつった笑顔を浮かべながら、二人の会話は、湯気を見ながら延々と続けられました。
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