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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 16

2022年01月01日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 と、金属同士が激しくぶつかり合う音がした。冨美代が目を開け振り返ると、みつがミツルの刀を己が刀で受け止めていた。互いの顔の前で刃が交錯している。
「どけ!」ミツルが言う。「斯様な変質者は斬り捨てる!」
「どかぬ!」みつが言う。「斬らせはせぬ!」
 みつとミツルは睨み合う。鍔迫り合いとなった二人の顔はぐっと近づく。
「ふふふ……」ミツルが笑う。「こんな間近で見る君は美しいな。わたしが出会った中では一番だ」
「たわけた事を申すな!」みつが眉間に縦皺を立てる。「所詮はお前もあの影に操られている小者であろう!」
 みつは言うと、ぐいっと己が刀を押し出す。その力に押されて、ミツルは後方へ飛び退った。ミツルはじっとみつを見つめる。
「ああ、わたしは君に恋をしてしまったようだ」ミツルが言って笑んだ。「君こそが真の男装の麗人と言えるだろう。わたしの理想であり、わたしの到達点だ」
「笑止!」みつは切っ先をミツルに向ける。「修行に色恋はいらぬ! 斯様なつまらぬことを言っている限り、お前はただの変わり者でしかない!」
「わたしは修行はしていないし、する気もないよ」ミツルは優しく笑む。「わたしは理想を追う者だよ。そして理想を見つけた。……どうかわたしと一緒になってくれまいか?」
「たわけた事を!」みつは吐き捨てる。「お前のような奇異な考えを持つ者は初めてだ!」
「そうか? わたしが生きていた時には、わたしの周りには同じ考えを持つ者が多くいたぞ。君の様な古風な考えをする者の方が少なかった」
「何と、おぞましい事だ!」みつは言うと、刀を構え直す。「やはり、お前には天誅が必要だ」
「ならば、それをかわしたならば、君はわたしのものとなれ」
「ふざけるな!」
「ふふふ、所詮は口だけ、やはり男に後れを取るものと自覚しているんだね」
「そうでは無い! 修行に男女はない! 己に勝つためのものだ!」
「まあ、良いさ……」ミツルの顔から笑みが消える。「どうする? 負ければ潔くそうしてもらおうか」
「……ならば、わたしが勝てば皆を解き放ってもらおう」
「もとより、わたしが消えてしまえば、皆に掛けた呪は無くなるよ」
「何を言うか。お前では無く、黒幕の掛けたものであろう!」
「何とでも言うが良いさ……」ミツルも刀を構え直す。「さあ、来たまえ!」 
 互いに切っ先を向け合い、間合いを測る。互いが漫然とした眼差しのように見えて、相手の微細な動きにも神経を集中している。隙が無い…… 互いが相手に認める。
「ミツル様!」冨美代が強い口調で割って入る。「わたくしはこのままで良うございます! お二方をお解き放ち下さいませ!」
「それは出来ないな……」ミツルは視線をみつに向けたままで言う。「わたしとあの丁髷女子とは、もう後には引けないのさ」
「ならば、わたくしをお斬り下さいませ!」冨美代はミツルの前に飛び出した。「それで宜しゅうございましょう!」
「いいえ、もはやそう言う問題ではないのです」みつが静かに言う。驚き振りかえる冨美代に続ける。「どうかお引き取りを」
「ですが、みつ様……」
「この者と対峙するは、わたしの剣士としての血なのです。剣士の血がが騒いでいるのです」
「……」
 出る幕の無くなった冨美代は絶望的な表情で窓際まで下がった。
「ほう、君もそうなのか、わたしもだよ……」ミツルはみつに向かって笑む。「君は明らかに、力と下心しかもたぬ愚か者の男共とは一線を画している。純粋に戦いを楽しめそうだ」
「戦いは楽しむためのものでは無い!」みつが語気を荒げる。「相手の命を背負う、厳粛なものだ!」
「それは君の感想だよ」ミツルは冷たく言う。「古風過ぎるよ……」
「問答無用!」
 みつは刀を大上段に振り上げると、裂帛の気合いと共にミツル目がけて跳躍した。ミツルは刀をみつに向かって投げつけた。みつは跳んできた刀を、己が刀を右上から左下へと掃って叩き落した。そのままの姿勢でミツルに迫る。このままでは衝突すると、みつは思ったが避け様が無かった。ぶつかろうとした瞬間、ミツルが微笑んだ。それを見たみつは、咄嗟に刀を再び大上段に構え直そうとしたが、間に合わなかった。みつはミツルにからだごとぶつかった。重なったまま二人は倒れ込んだ。
「みつさん!」虎之助が駈け寄る。「大丈夫?」
 返事が無い。重なり合って倒れている二人を虎之助が覗き込む。 
「……あら!」
 虎之助が呆然とした顔で、倒れた二人の傍に棒立ちになる。冨美代も恐る恐る近寄る。
「まあ! ……」
 冨美代はそう一声発すると、目を閉じ、横を向いた。
 重なり合ったみつとミツルだったが、みつは気を失ったのか、目を閉じたままぐったりとしている。ミツルはそんなみつを抱きしめていた。
 そして、ミツルはみつの唇に自分のそれを重ねていたのだ。
 

つづく


作者註:本年もだらだらと続きそうですが、よろしくお願い致しまする~。

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