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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 29

2022年01月14日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
「わたしは、綾部さとみ」さとみはぶっきらぼうに答える。「現役の高校生、この学校に通っているのよ」
「ほう……」ミツルは驚く。「じゃあ、君は、生きているのかい?」
「そうよ。わたし、昔っから霊体を抜け出させて霊と話が出来るのよ」
「それは貴重だね」ミツルは笑む。「コレクションに加えたいな……」
「馬鹿な事を言わないでよう!」さとみはぷっと頬を膨らませる。「さあ、みつさんを返しなさいよう!」
「どうしようかなぁ……」ミツルはにやにやする。「返す代わりに君がコレクションになってくれるのかな?」
「それじゃ、意味が無いじゃない!」
「ははは、君は面白いな」ミツルが楽しそうに笑う。「君の生きる今の時代は、女性でも物怖じせずに自分の意見が言えるんだね。羨ましい話だ。わたしもそんな時代に産まれたかったな。そうすれば、こんな事にはならなかっただろう……」
「……」
 さとみはミツルを見る。笑顔を浮かべてはいるが、どこか寂しそうだ。……悲しそうだわ。ひょっとして、悪い霊体じゃないのかも。あの影に脅されているんじゃないかしら。さとみは思う。
「あの……」
 さとみが言う。先程までの挑戦的な口調ではなく、穏やかなものになった。
「何かね?」
 ミツルも口調が柔らかだ。
「いえ、ちょっと、悲しそうだから……」
「わたしの居た大正時代は、モダンなものが勢いを増してきてはいたが、本質は古い日本の体質のままだった。わたしは『男装の麗人』と言われて注目されたが、単に好奇の目に曝されているだけの事だったのさ」
「そうなんだ……」
 さとみは同情する。ドラマなどで明治や大正の頃が舞台のものがあるが、確かに女性が貶められた感じがしていた。作り話だろうと思っていたが、本当の事のようだ。そんな中で男性に負けない女性を目指したミツルには、想像もつかない大変さがあったのだろう。ミツルは女性らしい服装をしても十分似合うだろうなと、さとみは思う。そして、その思いはみつにも持った事がある。……みつさんとミツル、似た感じがするわ。それに、名前も似ているし。似た者としてミツルはみつに惹かれたのかもしれない。……でも……
「……でも、あなたのした事は良くないわ。みつさんを返して」
「それだけで良いのかい?」
「豆蔵たち、外にいて中に入れなくなったみんなも直してほしい……」
「ははは、なかなか贅沢なお願いだね」ミツルは笑む。「だが、君を見ていると、わたし自身が詰まらぬ意地を張っているように思えて来たよ。わたしも、この時代に産まれていれば、こんな姿をしていなくても良かったんだろうね」
「ミツル……さん」
「ははは、さん付けは照れるな。じゃあ、わたしは君をさとみちゃんと呼ばせてもらう」ミツルは言うとさとみの姿をしげしげと見る。「それは制服と言うヤツかい?」
「ええ、そうだけど……」
「可愛らしいものだね。わたしも、生きている間にそんな恰好をしてみたかったな」ミツルはため息をつく。「本当は、こんな男男した姿は好きじゃなかった。わたしもドレスや振り袖を着てみたかったのさ」
「……ミツルさん」さとみは涙ぐみ、下を向く。「頑張っていたんですね…… 自分をずっと奥にしまい込んで……」
「ははは、わたしのために泣いてくれるのかい?」ミツルがそっとさとみに近付き、肩に手を置く。はっとして顔を上げたさとみの頬に涙の筋があった。「さとみちゃんは優しい娘だね……」
「そんな事、ないです……」さとみは手で涙を拭いながら、すんすんと鼻を鳴らしている。「わたし、ミツルさんがお気の毒で……」
「ありがとう」ミツルは頭を下げた。「わたしは昨日に続き、再び感動をしたよ。昨日は男に負けない理想の女性を知り、今日は女性の優しさを持った真の女性を知った」
 ミツルは言うとさとみに背を向け先を歩く。
「ついて来たまえ。みつの居る場所へ案内しよう」
 ミツルは言うと右手を上げ、指先をぱちんと鳴らした。すると、ミツルの目の前にぼうっと明るい光の点が生じた。それは徐々に広がり、そのまま通れるくらいのアーチ型の光のトンネルになった。
「この先にみつがいる……」ミツルは優しい笑みを浮かべながら、手をさとみに向けて差し出した。「さあ、一緒に行こう」
 さとみは差し出された手を軽く握った。と、不意に強く握られ、力任せに引っ張られた。さとみはあっと言う間も無く、光のトンネルへと放り込まれた。眩しさにさとみは目をつぶり、座り込む。
「ははは! 純情な娘ってのは扱い易いものだ!」ミツルの声が響く。「さあ、さとみちゃん、目を開けな。もう眩しくはないはずだ」
 さとみは目を開ける。眩しさは無くなって、うっすらとした明るさになっていた。ただ、先は見通せる程に明るくはない。
「ははは、驚かせてしまったね」
 ミツルの声がエコーが掛かったように響く。姿は見えない。
「ひどい! だましたのね!」さとみが声を荒げ、立ち上がる。「ここはどこなの?」
「ここかい?」ミツルは笑む。「ここはわたしのコレクションルームだよ」
「コレクション……?」
「そうだ。わたしはラッキーだよ。二日続けてコレクションが増えたのだからね」
「まさか、それって……」
「そう、さとみちゃん、君もわたしのコレクションになるのさ。みつと共にね」
 ミツルの指先をぱちんと鳴らす音がした。と、部屋がぱっと明るくなった。コンクリート張りの様な大きくて広い部屋だった。何も置かれていない。ドアも窓もない。さとみは眩しさに閉じた目をゆっくりと開ける。すぐ目の前にミツルが居た。
 そして、部屋の奥に、みつがぐったりとした様子で座り込んでいた。
「みつさん!」
 さとみが叫ぶ。


つづく

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