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ジェシル、ボディガードになる 71

2021年03月25日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ノラが部屋を去って、ジェシルは再びベッドに横になる。
「『姫様』と世話係の二人、今はどこに居るのかしらねぇ……」
 ジェシルは天井を見ながらつぶやく。 静養中と言う事の様だが、オーランド・ゼムとの関係がバレている点を考えると、どこかに軟禁されていると見て良い。姫はともかく、世話係のミュウミュウが気になる。実際にオーランド・ゼムが関心を持っているのはこのミュウミュウだろうからだ。
 ジェシル個人は、自分と張り合おうなどと考えているヴェルドヴィック家の姫とは関わり合いたくは無かった。……最悪な場合は、ミュウミュウだけを救出すれば良いわね。アーセルは姫様を嫌っているみたいだから、アーセルのせいにして、最初からミュウミュウだけを救出しようかしら。ジェシルの心中に、そんな悪意が湧き上がる。
「それにしても、二人がどこに居るかが問題よねぇ……」
 ジェシルは枕の下の熱線銃を取り出し、弄びながらつぶやく。この要塞衛星は全てを賄えているようだから、この中のどこかに居る可能性は高い。しかし、確信はない。別の惑星かどこかにいるのかもしれない。
「あまりにも情報が少なすぎだわ!」ジェシルは、オーランド・ゼムの笑っている姿を思い出して、べえと舌を出した。「ちゃんと調べておいて欲しいものだわ! そうすれば、もっと素早い行動がとれるのに! あまりにもわたしに頼り過ぎだわ! それに、ジョウンズだって、このまま黙っているとは思えない。『大会出場者として公平に扱わせてもらう』なんて言っていたけど、何も仕掛けて来ないとは限らないわ。何しろ、シンジケートのボスだものね!」
 ジェシルはぷっと頬を膨らませながら天井を睨む。
「……まあ、考えても分からないことは、考えても仕方がないわ。それに、少し疲れたし。ちょっと休もうかしら……」
 ジェシルはつぶやき終わる前に、すうすうと寝息を立て始めた。寝付きが良いのは数少ないジェシルの長所の一つかもしれない。
 どれくらい寝たのか分からなかったが、ドアのノックされた音で目が覚めた。
「……どなた?」
「あ、ジェシルさん、お休み中でしたか……」ノラの声だ。ジェシルの寝ぼけたような返事で察したらしい。「……あの、食事、夕食です……」
「あら、もうそんな時間なのね……」
 ジェシルは乱れたガウンを直しながらドアへと向かう。ドアを開けると、ノラが緊張した面持ちで立っていた。手押しのワゴンの上にクローシュで覆ったトレイが二皿乗っている。
「ありがとう」ジェシルは笑む。「じゃあ……って、どこに置いてもらえば良いかしらねぇ」
 ジェシルは振り返って、室内を見回す。テーブルもデスクも無い。
「他のお部屋の人は、クローシュを外して、トレイだけ室内に持ち込んでいましたけど…… 床に置いて食べているんでしょうか?」
「きっとトレーニングしながら食べているのよ」ジェシルは言う。「スクワットしたり、腹筋したりしながらね」
「そんな事をしていたら、床にこぼしてしまいませんか?」
「そうねぇ……」ジェシルはつぶやく。軽い冗談で言ったつもりだったのだが、ノラは真剣に受け留めたようだ。ジェシルは込み上げる笑いを押さえる。「……じゃあ、ワゴンごと入れてもらうわ。ベッドにでも腰かければ、何とかなるでしょうから」
「そうですね」ノラは言うとワゴンから手を離した。「では、食べ終わったら、ワゴンは通路に出しておいてください。あとで片付けに来ますから」
「あら? 部屋の中まで入れてくれないの?」
「実は……」ノラの表情が曇る。「他のお部屋で、そうしようとしたら『集中力が乱れるから入るな!』って怒られちゃって……」
「ふん!」ジェシルは鼻を鳴らす。「そんなことくらいで乱れる集中力しかないんなら、そんなヤツは一回戦で敗退ね」
「……そうでしょうか?」
「当然よ!」ジェシルは言うと、ノラに室内に入るよう促す。「さあ、入ってちょうだい」
「良いんですかぁ!」ノラの顔がぱっと明るくなる。「うわぁ…… 憧れのジェシルさんのお部屋に入れるなんて!」
「何を言っているのよ」ジェシルはノラの様子の変化にくすくすと笑う。「どの部屋も同じじゃない?」
「そうですけど……」ノラは言うが、すぐに首を左右に振る。「でも、全然違いますよう!」
 ノラはワゴンを押して室内に入った。そのままベッドの方まで押して行く。
「……では、食事が終わったら、通路にワゴンを出しておいてください」
「ねえ、ノラ」ジェシルは出て行こうとするノラの肩に手を置いた。ノラの全身がびくんと揺れた。「少し時間があるかしら? ちょっとお話でもしない?」
「え……?」ノラは頬を赤くする。「そんな、わたしなんか、話し相手にはなりませんよう……」
「一人で食事をするなんて、味気ないわ。……忙しいんなら無理にとは言わないけど」
「いえ! 大丈夫です! 他の人の世話がかなり少なくなったから、時間はあります!」
 ジェシルは、ノラの一生懸命な態度に思わず笑み崩れる。ノラはますます赤くなった。ジェシルはベッドの端に腰掛けると、隣をぱんぱんと叩いた。
「ここに座ってちょうだい」
「いいえ! 立っています! ジェシルさんの隣に座るなんて、そんな……」
「あらあら、わたしの言う事を聞いてくれないのかしら?」
「いえ、そんなつもりは無いですよう!」ノラは両手を左右に振りながら、必死になって言う。「……ですけど、そんな畏れ多い事……」
「そんな大袈裟に考えないで」ジェシルは笑いを堪えながら、優しく言う。「座ってちょうだい」
「はい…… 失礼します……」
 ノラは言うとジェシルの隣に座る。下を向いたままだったが、耳まで赤くなっている。
「あのね……」ジェシルはノラの耳元でささやく。ノラの全身がびくんと揺れる。「ちょっと聞きたい事があるのよね……」  


つづく

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