「両者、中央へ!」審判がジェシルとケレスに言う。しかし、二人とも動かない。審判は声を荒げる。「両者、中央へ!」
ケレスが面倒くさそうに動いた。それを見て、ジェシルも動く。歓声が高まる。ジェシルは貴賓席に目をやった。ミュウミュウが『姫様』の隣に立っている。ジョウンズはケレスの勝利を確信しているのか、笑みを浮かべている。
審判の右手が二人の間に入った。殺気立った視線で見下ろすケレスを、冷たい視線でジェシルは見上げる。会場が静かになった。
「始めぃ!」
審判の右手が上がった。会場が歓声に包まれた。が、二人は動かない。睨み合ったままだった。下手に動けばやられる、二人は互いに理屈ではなく本能的にそう感じ取っていた。
「ジェシルさん!」
ノラが堪らず、叫んだ。これが引き金になった。
ケレスが右の拳を打ち込んできた。ジェシルは後方に大きく飛んで、それを躱す。ケレスはそれを見込んでいたのか、ジェシルと間合いを詰めるように跳躍した。巨体からは想像も出来ない軽やかな跳躍だった。跳躍と同時に右脚の蹴りを繰り出した。ジェシルは左足を軸にして、からだを時計回りに半回転させる。ケレスの右脚が目の前をかすめる。ジェシルはケレスの太腿に、振り上げた右肘を撃ち込んだ。
ジェシルに躱されたケレスは、試合場の端まで飛んだ。両足が床に着くと、苦痛で顔を歪め、右膝を折った。ジェシルの肘を喰らった太腿に赤い痣が出来ていた。ジェシルは振り返って、右膝を着いているケレスの大きな背中を見ている。ケレスは立ち上がると、ジェシルに向き直る。その間、ジェシルは攻めようとはせず、腕を組んで立っていた。その表情に少し残忍な色が浮かんでいた。
「どうして攻めてこないんだ?」ケレスが苛立った声を出す。「わたしを馬鹿にしているのか!」
「あなた、わたしを舐めていたでしょ? 観賞用とか言ってさ」
「何だい、根に持つタイプなんだな……」ケレスは言うと、何度か右脚で床を踏み込んだ。重々しい音が響く。脚の痛みが消えたようだ。ケレスはにやりと笑う。「……まあ、確かに舐めていたよ」
「そう、それは不注意だったわね」ジェシルも笑み返す。「わたしを倒したいのなら、全力で来ることね……」
ジェシルの言葉が終わらないうちに、ケレスはジェシルに突進した。ジェシルは高く跳び上がった。が、ケレスはそれを読んでいた。ケレスの頭上より高く跳んだジェシルの左足首を右手で握った。そのまま、右手を振り下ろし、ジェシルの背中を床に叩きつけた。もの凄い音がした。ケレスはまだ手を離さない。今度は、ジェシルが苦痛で顔を歪める。歓声が上がった。ケレスは観客席に向かって左腕を突き上げてアピールする。更に歓声が高まる。
ジェシルは動けず、ぐったりとしている。ノラが悲痛な悲鳴を上げるが、歓声にかき消されてる。その隣でミルカのカメラがジェシルの苦痛の表情をアップで撮っている。
「ミルカさん! 止めてくださいよう!」ノラが言って、背伸びをしながらカメラの前に手をかざす。「ジェシルさん、苦しんでいるじゃないですか!」
「それが良いのよ」ミルカは言いながらカメラを高く差し上げる。もうノラの手は届かない。「あんなジェシルの表情は、レアものよ。男たちがプリントアウトして持って歩くんじゃない?」
ケレスは左手も伸ばし、ジェシルの右足首も握った。両足首を握ったケレスは、ジェシルを再び持ち上げようと両腕を振り上げた。ジェシルのからだが布切れの様にケレスの頭上で揺れた。
つづく
ケレスが面倒くさそうに動いた。それを見て、ジェシルも動く。歓声が高まる。ジェシルは貴賓席に目をやった。ミュウミュウが『姫様』の隣に立っている。ジョウンズはケレスの勝利を確信しているのか、笑みを浮かべている。
審判の右手が二人の間に入った。殺気立った視線で見下ろすケレスを、冷たい視線でジェシルは見上げる。会場が静かになった。
「始めぃ!」
審判の右手が上がった。会場が歓声に包まれた。が、二人は動かない。睨み合ったままだった。下手に動けばやられる、二人は互いに理屈ではなく本能的にそう感じ取っていた。
「ジェシルさん!」
ノラが堪らず、叫んだ。これが引き金になった。
ケレスが右の拳を打ち込んできた。ジェシルは後方に大きく飛んで、それを躱す。ケレスはそれを見込んでいたのか、ジェシルと間合いを詰めるように跳躍した。巨体からは想像も出来ない軽やかな跳躍だった。跳躍と同時に右脚の蹴りを繰り出した。ジェシルは左足を軸にして、からだを時計回りに半回転させる。ケレスの右脚が目の前をかすめる。ジェシルはケレスの太腿に、振り上げた右肘を撃ち込んだ。
ジェシルに躱されたケレスは、試合場の端まで飛んだ。両足が床に着くと、苦痛で顔を歪め、右膝を折った。ジェシルの肘を喰らった太腿に赤い痣が出来ていた。ジェシルは振り返って、右膝を着いているケレスの大きな背中を見ている。ケレスは立ち上がると、ジェシルに向き直る。その間、ジェシルは攻めようとはせず、腕を組んで立っていた。その表情に少し残忍な色が浮かんでいた。
「どうして攻めてこないんだ?」ケレスが苛立った声を出す。「わたしを馬鹿にしているのか!」
「あなた、わたしを舐めていたでしょ? 観賞用とか言ってさ」
「何だい、根に持つタイプなんだな……」ケレスは言うと、何度か右脚で床を踏み込んだ。重々しい音が響く。脚の痛みが消えたようだ。ケレスはにやりと笑う。「……まあ、確かに舐めていたよ」
「そう、それは不注意だったわね」ジェシルも笑み返す。「わたしを倒したいのなら、全力で来ることね……」
ジェシルの言葉が終わらないうちに、ケレスはジェシルに突進した。ジェシルは高く跳び上がった。が、ケレスはそれを読んでいた。ケレスの頭上より高く跳んだジェシルの左足首を右手で握った。そのまま、右手を振り下ろし、ジェシルの背中を床に叩きつけた。もの凄い音がした。ケレスはまだ手を離さない。今度は、ジェシルが苦痛で顔を歪める。歓声が上がった。ケレスは観客席に向かって左腕を突き上げてアピールする。更に歓声が高まる。
ジェシルは動けず、ぐったりとしている。ノラが悲痛な悲鳴を上げるが、歓声にかき消されてる。その隣でミルカのカメラがジェシルの苦痛の表情をアップで撮っている。
「ミルカさん! 止めてくださいよう!」ノラが言って、背伸びをしながらカメラの前に手をかざす。「ジェシルさん、苦しんでいるじゃないですか!」
「それが良いのよ」ミルカは言いながらカメラを高く差し上げる。もうノラの手は届かない。「あんなジェシルの表情は、レアものよ。男たちがプリントアウトして持って歩くんじゃない?」
ケレスは左手も伸ばし、ジェシルの右足首も握った。両足首を握ったケレスは、ジェシルを再び持ち上げようと両腕を振り上げた。ジェシルのからだが布切れの様にケレスの頭上で揺れた。
つづく
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