goo blog サービス終了のお知らせ 

お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシル、ボディガードになる 51

2021年02月27日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 絨毯を剥がし続けて、後一列を残すのみとなった。
「……じいさんよう……」ガルベスはふらふらしながら、唸るように言う。「……これで、終わりだぜい…… って事はよう、この下に、あるって事だよなあ?」
「そうだな、そう言う事になるな」アーセルはガルベスに大きくうなずいて見せる。「そうと分かりゃあよ、さっさと剥がしちめぇよ!」
 ガルベスは最後の力を振り絞って、残りの絨毯を剥がしにかかった。剥がした下をアーセルが覗き込んでいる。
「どうでぇ? あっただろうが?」ガルベスは絨毯の下にいるアーセルに言う。「言った通り、十割方を、もらうからな!」
「……ガルベスよう……」アーセルが振り返ってガルベスを見る。その表情は曇っている。「……お前ぇ、床に何かしやがったか?」
「何かって、何でぇ?」ガルベスはアーセルの言葉にイヤなものを感じた。噴き出ていた汗が冷たいものに変わる。「それってよう、まさか……」
「ああ、そのまさかでぇ!」アーセルは怒鳴ると、転がっている椅子を蹴った。「何にも無ぇぞ! 隠し扉があったはずなんでぇ! それが無ぇ!」
「じいさんよう! そりゃ、どう言う事でぇ!」ガルベスも怒鳴り、手にした絨毯を床に叩きつけた。「何にも無ぇたあ、おかしいじゃねぇかよう!」
「おかしいとぬかしやがってもな、無ぇものは無ぇんでぇ!」
「ふざけんじゃねぇ! オレ様にこんな事をさせくさりやがって、その挙句に何にもねぇで、済むと思ってんのか? いくらじいさんでも、ただじゃおかねぇぜ!」
「やかましい! ……お前ぇ、絨毯を敷く前に床に何か敷きやがっただろう? ケラト合金の板でも張ったんじゃねぇのか? そいつもひっ剥がしやがれ!」
「そんなものは敷いちゃいねぇ! オレ様は何もしちゃいねぇ! ただ、殺風景だったからよ、絨毯を敷いただけだぜ!」
「体力馬鹿のお前ぇが、気取った事しやがるから、こんな事になりやがるんでぇ!」
「やかましいじいさんだなぁ、おい! とにかく、オレ様は絨毯しか敷いてねぇんだ」ガルベスはアーセルを睨みつける視線を、ふと馬鹿にしたものへと変えた。「……となるとよ、考えられる事は一つだな」
「何でぇ? そのぼんくら頭で何が考えられるって言うんでぇ?」
「ひっひっひ……」ガルベスは笑う。「じいさん、お前ぇは本当に耄碌したんだよ……」
「何だとぉ! じゃあ、オレがお宝の在りかを忘れちまったって言うのかぁ!」
「そうさ。その証拠に、お宝の隠し場所がどこにも無ぇ」
「だから、お前ぇが何か敷いたんだろうが!」
「何にもしちゃいねぇ。ただ絨毯を敷き詰めただけだぜ」
「オレを年寄り扱いしやがるのか?」
「扱う前から、年寄りじゃねぇかよ」ガルベスは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。それからアーセルを睨みつける。「とんだ無駄足を踏ませやがってよう、このクソじじいが……」
「馬鹿野郎が! オレが大ぇ事なお宝の在りかを忘れるわけがねぇじゃねぇか!」
「ああ、そうかいそうかい……」ガルベスは適当に聞き流している。「もう、どうでも良いや…… オレ様をコケにしやがった落とし前だけはつけさせてもらおうか」
「ふん! そんなふらふらのよたよたのくせしやがって、オレをどうにか出来るとでも思っているのか?」
「じじい一人ぐれぇ、指先一本よ!」
「そうかい。じゃあよ、冥土に行く前ぇに、お宝の隠し場所を教えてやるぜ」
「ほう、良い覚悟じゃねぇか。聞いてやるぜ。じいさんをぶっ倒してからお宝を頂くぜ」
 ガルベスはよろけるからだを立て起こした。吊り上った眼で、ぎろりとアーセルを睨む。
「あのさあ、ガルベス……」ノラが割って入る。「アーセルのおじいちゃんが本当の事を言うと思う?」
「うるせぇんだよ、小娘がよう!」ガルベスはノラを睨みつける。「黙っていやがれ!」
「そうだぜ、娘っ子!」アーセルもノラを睨みつける。「死に向かおうってオレだ。嘘なんざつかねぇよ」
「何よ、二人して! もう、勝手にやって!」
 ノラはぷっと頬を膨らませ、向こうを向いてしまった。
「さあて……」ガルベスは改めてアーセルを見る。少し機嫌が良くなったようだ。「うるせぇ小娘が黙ったところでよ、お宝の本当の在りかを聞かせてもらおうか?」
「おう、良いぜぇ……」アーセルはこほんと軽く咳払いをする。「実はな、お宝はこの部屋にはねぇんだよ……」
「はあ!?」ガルベスは目も口も大きく開け、元々の間抜け面に拍車をかける。「今、何て言いやがったぁ?」
「何でぇ、お前ぇは頭同様に耳も悪いんだなぁ!」アーセルは呆れた顔をする。「この部屋には、お宝なんて、端っから、無ぇんだよ!」
「てめぇ! ふざけやがってぇぇ!」ガルベスの表情が険しく、凶悪なものに変わった。「只じゃおかねぇ!」
 ガルベスは怒りで全身を震わせている。しかし、ガルベスはふらついている。その姿を見たアーセルは、にやりと笑う。
「おう! 娘っ子!」アーセルがノラに振り返る。「今なら、娘っ子でもガルベスを倒せるだろう?」
「ふん!」ノラは鼻を鳴らす。「お宝はこの部屋に無かったんじゃない! おじいちゃん、やっぱり嘘つきだったのね!」
「そんな事ぁどうでも良いからよ、さっさと倒しちまえ!」アーセルは言う。「オーランド・ゼムの所に戻りてぇんだろ? だったら、早くやっちまいな」
「そんな事を言われなくったって、倒してやるわよ!」
 ノラが言うと、ガルベスはノラに標的を変えた。怒りに満ちたその顔を見たエリスとダーラは悲鳴を上げてノラから離れた。ノラはポシェットの口を開けて右手を入れる。
「この小娘がぁぁ! 全部てめぇのせいだぁぁ!」
 ガルベスは叫びながらノラに飛び掛かった。
「責任転嫁しないでよね!」
 ノラが言って、ポシェットから引き抜いた右手を、ガルベスに向かって振り下ろした。と、ガルベスは急に床に倒れた。仰向いて白目になっているガルベスの口から、煙が立ち昇っている。
「……ふう、やれやれ……」
 ノラは大きく息をつく。アーセルは倒れているガルベスを爪先で蹴る。ガルベスはまだ息があるようで、小さくうめいている。
「……娘っ子、何をやったんでぇ?」
「ふふふ……」ノラはいたずらっ子のように笑う。「ポシェットに入れてあって超小型爆弾を二つ、ガルベスの口にお見舞いしたのよ。そうしたら、びっくりしたみたいで、思わず飲み込んだのよ」
「じゃあ、口から出ている煙は……」
「多分、爆弾が胃の中で爆発したのね」ノラは言うと、ガルベスを蹴る。小さなうめき声が上がる。「……でも丈夫ねぇ。まだ息があるんだから……」
「娘っ子、お前ぇ、おっかねぇヤツだなぁ……」アーセルがしみじみと言う。「まるで、若ぇ頃のビョンドルか、それ以上だぜぇ……」


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジェシル、ボディガードにな... | トップ | ジェシル、ボディガードにな... »

コメントを投稿

ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)」カテゴリの最新記事