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吸血鬼大作戦 ⑭

2019年08月22日 | 吸血鬼大作戦(全30話完結)
「とにかく、そいつが宇宙人であっても無くても、だ」はるみが真顔になる。「そんなヤツがのさばっているのは気に食わないな」
「気に食わないって……」くるみが不安そうに言う。「まさか、本気で捕まえるつもり? そんな事思ってないわよね、はるみちゃん!」
「いや、有りなんじゃない?」赤い髪の桂子がにやにやしながら言う。「なんだかむかつくじゃない。あたしたちでシメちゃおうよ!」 
 そんな事、出来るわけないだろう! 何を言い出してんだ、この連中は! 明は思った。
「それ良いね!」小柄な千草もうなずき、立ち上がると、右脚で二、三発鋭い蹴りを繰り出した。「宇宙人だろうが何だろうが、あたしの蹴りにはかなわないさ!」
「賛成!」文枝がうなずいた。座っているベッドがきしむ。そして、明の肩を力任せに抱き締めた。「な? へっぽこもそう思うだろ?」
 明は返事をしなかった。
 無理だ! 無茶だ! いくら強いって言ったって、中学生の女子なのだ。相手は何者かなんてのも、まだ分かっていない状態なのだ。力の強い大男かも知れないし、怪しい宗教団体の集団かも知れないし、イカレた科学者かも知れないし、何かの犯罪組織かも知れないし、本当の宇宙人かも知れない。
 もし宇宙人だったとして、そのままの姿で現れるかどうかも分からない。人の姿をしているかもしれない。オレだって白木先生の事をそう思ったんだ。もし、相手が大人しそうな子供だったり、女の人だったり、年寄りだったりしたらどうするんだ? どうやって見分けるんだ? 今は猫や犬が被害を受けているけど、人間が被害を受けないとは言えないだろう。呑気に捜索して回って、相手の正体に気が付かず、すれ違いざまに襲われるって事も考えられるじゃないか。もし、被害に遭ったらどうするつもりなのだ? 気合や腕っぷしだけじゃ、絶対に対処なんかできない! ……明はそう思っていたが、とても口には出せなかった。
「うん! それは正しいわ!」突然、白木先生が言って、立ち上がった。「やっとみんなは正しい心を持ってくれたのね! 先生は嬉しいわ!」
 白木先生は着ていた白衣のポケットから花柄のハンカチを取り出すと、流れる涙をぬぐった。
「先生!」
 不良娘たちは一斉に白木先生を取り囲み、一緒に泣き出した。その様子を見て、くるみも涙ぐんでいる。
 ……おいおいおいおい! こんな非常識な事を先生が率先してどうすんだよう! 本来なら「馬鹿な事言わないで!」って諌める側なんじゃないのかよう! 生徒に何かあったらどうするつもりなんだよう! これは、職員室に行って伝えなきゃならないぞ。学校側で対応してもらわなきゃならない話だ。みんなの命がかかわる事だからな。そう明は思った。
「へっぽこ君!」白木先生が明に顔を向けた。「君は男子なんだから、積極的にこの作戦に関わって欲しいわね」
 えええええ! 何を言い出すんだ、この先生! 男子って言うんなら、運動部の主将やら、男の先生やらに頼めばいいんだ。ボクはこの中じゃ一番ひ弱だぞ! 出来るわけ、ないじゃないかあ! しかし、不良娘たちの鋭い視線に明は怯んでいた。逃げ出せない雰囲気が明を圧し潰す。
「……分かりました……」
 明は弱々しく答えた。いや、答えさせられてしまった。
「頼むぜ、へっぽこ!」はるみが楽しそうに言う。
「良いねえ。やられたら骨くらいは拾ってやるよ、へっぽこ」赤い髪の桂子がにやにやしながら言う。
「あたしが守ってやるよ、へっぽこ」千草が素早い蹴りと突きをしながら言う。
「あたしは守ってもらおうかなあ。なあ、へっぽこ」大柄な文枝が明の肩にかけた腕に力を入れながら言う。 明は大きなため息をついた。
 くるみはそんな様子を、にこにこしながら見ていた。


 つづく
 

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