お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 40

2022年08月31日 | コーイチ物語 1 5) 部長・吉田吉吉  
 うわあぁぁ、ボクだけ、にまあっとしていたのが悪かったんだろうか! ボクには驚きよりも喜びのほうが大きかったんだ! 仕方がないじゃあないか! 根が正直なだけなんだ! 
 憮然とした顔で黙々と大股で近付いてくる守衛を見ながら、コーイチの前髪が逆立ち、やや広めのおでこが丸見えになった。とっさに顔を覆い背を丸める。
 守衛さんに襟首をつかまれてひょいと持ち上げられそのまま出入り口のガラスドアから放り出され哀れ路頭に迷う事となってしまうのか…… コーイチは覚悟を決めた。課長が無事ならもう恐いものなんかないさ!
「ちょっと、あんた!」 
 守衛の声がコーイチの背後から聞こえた。コーイチは顔を覆っていた手を下げながら振り返った。
 守衛はボーイスカウトの制服を着た老人と対峙していた。老人は小柄ながらもかくしゃくとした印象があり、守衛の静止を全く意に介してはいない様で、平然としてビル内を進もうとしていた。
「ちょっと、待ちなさい! そんな格好で、いったい何なんだね!」
 守衛が老人の肩をつかむ。老人は守衛の顔を覗き込んで言った。
「You、ご苦労さん」
 途端に岡島が老人のそばに駆け寄り、叫んだ。
「社長!」
 そして守衛をきっと睨みつけた。
「こちらはうちの会社の綿垣社長だ! 手を離すんだ!」
 守衛は岡島の見幕に押されて手を離した。
 これが噂の綿垣社長か…… コーイチはしげしげとボーイスカウト姿の老人を見た。
 妙な外国かぶれな喋り方をする人、自分の都合で動く人、よく携帯電話を変えて音信不通になる人、めったに人前に出ない人、などなど、本当に実在するのか誰かの創作ではないかと疑われた事もあるらしい。そういえば、入社式のときも音信不通でつかまらず、急遽、副社長が挨拶していたっけ。
 コーイチが我に返ると、社長の周りを皆が囲んでいた。コーイチもこっそりと近付いた。

       つづく

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