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霊感少女 さとみ 130

2019年04月20日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 楓が消え、室内がしんとなった。
「おばあちゃん!」
 さとみは泣きながら富に駆け寄った。富は優しくさとみを抱きとめた。わあわあ泣くさとみの頭を愛おしそうに撫で続ける。
「さとちゃん、よく頑張ったね」富は何度もうなずいている。「もう大丈夫だよ」
「……うん……」さとみは、すんすんと鼻を鳴らしながら富の顔を見る。「おばあちゃん、ありがとう……」
「何言ってんの、ありがとうは一緒にいてくれたみんなに言うんでしょ」
「……うん……」さとみは豆蔵やみつを見る。「……ありがとう……」
「いえ、あっしは何もできやせんでした……」
 豆蔵が神妙な顔で答えた。
「わたしも、悪の生身を討てぬとは、おのれの未熟さを恥じています」
 みつは悔しそうに言う。
「でもね、皆さんのおかげですよ」富は笑顔を二人に向ける。「この娘一人じゃここまでの事は出来なかったでしょう」
「恐縮です……」みつが頭を下げる。「……それにしても、……お婆様(「はいはい、そう呼んでくださって結構ですよ」富はうなずく)のお力には正直驚きました……」
「あっしも驚きましたぜ」豆蔵もうなずく。「あの楓を、片手で首根っこ抑えるなんて。あっしじゃ絶対にできやせんぜ」
「さとみ殿」みつがさとみを見ながら言う。「こんな強い方に守られているとは、さとみ殿は果報者ですな」
「……うん」
「さとちゃん、うん、じゃなくて、はい、でしょ」
「……は~い」
 富に諭されたさとみが恥かしそうに言う。それを見て豆蔵もみつも笑った。
「さて……」富がそっとさとみの身体を離す。「そろそろ戻ろうかね」
「え?」さとみは富にすがりつく。「やだ、ずっと一緒にいてよう!」
「ばあちゃんはね、いつもさとちゃんと一緒だよ」
「やだ! ずっと一緒がいい!」
「お前には、いい仲間がいるじゃないか」
「でも……」
「本当に困った時にはすぐに来てあげるよ」
「……」さとみに眼から涙があふれる。「でも、おばあちゃん…… いい仲間だから、本当に困った時って来ないかも知れないじゃない。みつさんはうんと修行して強くなるだろうし、豆蔵だって……」
「はっはっは!」富は大声で笑った。「そうだね、強くて頼りになるいい仲間だね。ばあちゃんの出番は無いかもね」
「やだ! そんなの、やだ!」
「さとちゃんに見えなくても、ばあちゃんはいつだって一緒だ。安心しなさい」
「……」
 さとみは富から身体を離した。顔は伏せたままだ。
「聞き分けの良い娘だね」富は満足そうにうなずく。そして、豆蔵とみつに身体を向け、頭を下げる。「どうか、これからもお願いいたしますね」
 豆蔵とみつも頭を下げる。
「さとちゃん……」
 さとみは顔を上げた。
 富が右手で作った握り拳を胸元まで上げた。そして、親指をぴんと立てて見せ、にかっとした笑顔もまま消えて行った。
「……おばあちゃん……」
 さとみは笑顔になった。
「さとみ殿……」みつが真剣な口調で言う。さとみも緊張気味でみつを見た。「お婆様などと申しましたが、楓の事を考えますと、私の方が、はるかにお婆様でした……」
「は? ……」
 さとみは爆笑した。豆蔵も笑う。みつだけ不服そうに唇をとがらせた。
 と、その時、玄関で大きな音と大人数の声が聞こえてきた。


つづく

 

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