清水はコーイチの額にぱちんと手の平を当てる。
「うーん、熱はなさそうね……」
それからコーイチの両の目の下を親指でぐいっと下げる。
「うーん、目に異常はなさそうね……」
次いでコーイチの鼻をぎゅっと掴む。息苦しさに思わず口を開ける。
「うーん、舌も荒れてなさそうね……」
最後に両の頬をびにゅっと引っ張った。痛さに涙目になる。
「うーん、反応にもおかしな所はなさそうね……」
清水は頬を引っ張ったまま天井を見上げた。何か考え事をしているようだった。
「うご……うが……うぎ……」
頬を引っ張られたままコーイチがうめいた。
「あら、ごめんなさい!」
はっと気がついた清水はぱっと手を放した。頬を真っ赤にし、目に大粒の涙を溜めたコーイチの顔があった。
「清水さん、突然ひどいじゃないですか!」
「本当、ごめんなさいね。だってコーイチ君がいきなり訳の分からない事をやりだすから、どうにかなったんじゃないかと思って、いろいろと検査をして正気の具合を確かめてみたの。異常無しだから、他の原因を考えてたんだけど……」
検査と言うよりもいじめみたいだったなぁ…… コーイチは意外に力の強い清水の手を見ながら思った。
「ところで、何か見えたのかしら?」
そうだ、それで清水さんを呼んだんだ。
「実は、引き出しの中が底知れぬ闇になっていて、そこに若い女の人の顔が浮かび上がって来て、ボクに向かって微笑んでウインクして……」
「はは~ん……」
清水は腕組みをしながら頷いた。
「さっきも言ったように、元課長の物には一つ一つ別々の呪いをかけてあるのね。言わば、引き出しの中には様々な呪いが渦を巻いている状態なわけ。だから、化学物質同士が化学反応を起こすように呪い同士が反応し合って、全く予測がつかないものを生み出す事もありうると思うの」
「それが、ウインクする女の人…… って訳ですか」
「多分ね、はっきりした事は言えないけど、間違っているかもしれないけど」
「はぁ、そうですか……」
コーイチの声が心なしか震えている。清水は楽しそうな声で言った。
「また出そうで心配なのかしら? うふふふふ……」
「は、はぁ、まぁ……」
「じゃあ、もしまた出て来たら、嵌めた手袋の両方の手の平の結界模様をしっかりと合わせて…… え? そうねぇ、約十五秒くらいかな…… で、合わせた後、手の平を出て来た顔に向ける。そうすればすーっと消えていくはずよ」
「そうですか、分かりました!」
コーイチは幾分元気を取り戻した。
清水が自分の席に戻り、コーイチは再び自分の仕事に取り掛かった。引き出しの中を見る。
また底知れぬ闇が広がっていた。
つづく
「うーん、熱はなさそうね……」
それからコーイチの両の目の下を親指でぐいっと下げる。
「うーん、目に異常はなさそうね……」
次いでコーイチの鼻をぎゅっと掴む。息苦しさに思わず口を開ける。
「うーん、舌も荒れてなさそうね……」
最後に両の頬をびにゅっと引っ張った。痛さに涙目になる。
「うーん、反応にもおかしな所はなさそうね……」
清水は頬を引っ張ったまま天井を見上げた。何か考え事をしているようだった。
「うご……うが……うぎ……」
頬を引っ張られたままコーイチがうめいた。
「あら、ごめんなさい!」
はっと気がついた清水はぱっと手を放した。頬を真っ赤にし、目に大粒の涙を溜めたコーイチの顔があった。
「清水さん、突然ひどいじゃないですか!」
「本当、ごめんなさいね。だってコーイチ君がいきなり訳の分からない事をやりだすから、どうにかなったんじゃないかと思って、いろいろと検査をして正気の具合を確かめてみたの。異常無しだから、他の原因を考えてたんだけど……」
検査と言うよりもいじめみたいだったなぁ…… コーイチは意外に力の強い清水の手を見ながら思った。
「ところで、何か見えたのかしら?」
そうだ、それで清水さんを呼んだんだ。
「実は、引き出しの中が底知れぬ闇になっていて、そこに若い女の人の顔が浮かび上がって来て、ボクに向かって微笑んでウインクして……」
「はは~ん……」
清水は腕組みをしながら頷いた。
「さっきも言ったように、元課長の物には一つ一つ別々の呪いをかけてあるのね。言わば、引き出しの中には様々な呪いが渦を巻いている状態なわけ。だから、化学物質同士が化学反応を起こすように呪い同士が反応し合って、全く予測がつかないものを生み出す事もありうると思うの」
「それが、ウインクする女の人…… って訳ですか」
「多分ね、はっきりした事は言えないけど、間違っているかもしれないけど」
「はぁ、そうですか……」
コーイチの声が心なしか震えている。清水は楽しそうな声で言った。
「また出そうで心配なのかしら? うふふふふ……」
「は、はぁ、まぁ……」
「じゃあ、もしまた出て来たら、嵌めた手袋の両方の手の平の結界模様をしっかりと合わせて…… え? そうねぇ、約十五秒くらいかな…… で、合わせた後、手の平を出て来た顔に向ける。そうすればすーっと消えていくはずよ」
「そうですか、分かりました!」
コーイチは幾分元気を取り戻した。
清水が自分の席に戻り、コーイチは再び自分の仕事に取り掛かった。引き出しの中を見る。
また底知れぬ闇が広がっていた。
つづく
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