ボクは広告です

CMから考える広告の教科書

広告における著作権の考え方

2011-10-12 00:00:01 | 広告/ニュース
広告に携わっていると一度は遭遇するのが“著作権”の問題ですね。テレビのCMにしてもポスターにしても、よく出てくるのがこの言葉です。「あの広告は私が作った。」クライアントの担当者も、広告代理店の制作マンも、制作会社のプロデューサーやデレクターも、これだけではありません、撮影時のカメラマンやアシスタントまでもが同じことを言います。一体本当は誰がその広告を作ったのでしょう?
制作した人に著作権があるという概念からするとこの場合ひとつの作品に大勢が著作権を持っている事になってしまいます。上記の人たちが最初から最後まで全員で相談しながら作品を作ったとすれば合同で著作権を持つと言う事になりますが、そういうケースはまれと言うよりほとんどありません。クライアントから発注を受け代理店がコンセプトを伝え制作会社がアイデアを考え、代理店が選んだ案からクライアントが決定する。これが通常です。クライアントから直接制作会社に発注する場合もありますが、この場合も制作会社が考えたものからクライアントが決定します。つまりクライアントと代理店はコンセプトに合っているかどうか確認する立場でアイデアを考え作っているのは制作会社なのです。とすれば広告制作物の著作権は制作会社にあるとなりますが、現実はそんなに単純ではありません。
そもそも著作権ってどんな権利なのかを著作権法(1970年制定)に合わせて考えます。著作権には使用と利用があります。使用とは小説や映画などを読むこと見ることを言い、利用とはそれらの著作物をコピーしたり、多くの映画館で上映することを言います。広告制作物の場合、クライアントは使用も利用もできることになりますが、あくまでも著作権者である制作会社の了解のもとという考え方です。法律上では発注者には著作権はありません。
こうなってくると本当の権利はどこにあるのかわからなくなってしまいますので、2点にまとめます。まず1点はアイデアには著作権はないけど表現には著作権があるということです。アイデアは著作権ではなく特許になるからです。しかしお笑いタレントが新しいギャグをひらめいた時、著作権で守られないなら取られてはまずいと特許申請などしていたら、特許が降りた頃にはすでに古いギャグになってしまいます。広告も同じで良いアイデアだからと特許申請しても意味がありません。アイデアを形にし表現した時に著作権が生まれます。もう1点は著作者と著作権を持っている人が異なる場合があると言うことです。作品を作った人は著作者です。著作権がどこへ移動しようと著作者は変わりません。無茶な使用や利用をすると著作者の人権が著作権を上回ることもあります。広告に関して言えばこの2点を踏まえておけば大きな問題にはなりません。著作権を持つ人または会社の了解のもとで著作者の人権を踏みにじることなく使用や利用すれば広告制作物は発注者であるクライアントが自由に使えると言う訳です。
広告業界に限らず日本では通常のビジネスでいちいち契約書を交わすことなく口約束で進められます。その方がなぜか気持ち良い取引のように思うからです。ところがあれだけ契約書が多いアメリカが実は著作権に関しては一番ゆるく著作権についていまだに確立されていないのです。変な話ですね。しかし権利ばかり主張するのではなくお互いを尊重し合って仕事をした時が一番良い作品が出来ます。ちなみにボクは作品が完成しオンエアされた時からそれはボクのものではなく社会のものだと考えてきました。やはり最後は発注する側される側の信頼関係ではないでしょうか。
また、今世界では著作権を超えて著作者の人権を守るための“同一性保持権”の方がクローズアップされています。これについてはクリエイティブコモンズと共に改めてお話します。

2011/10/11