神主神気浴記

月待講、御神水による服気、除災招福の霊法、占などについて不定期でお話します。
神山の不思議な物語の伝えは継続します。

大森木に出会う   68

2019年02月27日 | 幻想譚
天駆け5頭が上に飛び上がったところでいったん止まった。見たこともない静止画の世界だ。上空と言っても陽があるわけではない。一面淡い灰色だ。周囲を見渡すと薄いガスが立ち込めているようにも見える。眼下に目をやると、濃い灰色に覆われた広大な不穏の様相のツル・ツタの杜が見える。チラッと光が走った。カエンと光虫か? 一筋の光がさらに走っていてなぜかホッとした。カエンと光虫だ。於爾と都賀里の戦闘車も後に続いているようだ。先頭の耶須良衣がふりむいた。すぐ後のナカトミの指示で目指す方向が決まったようだ。光の軌道が真っ直ぐ直線になった。久地は上からその直線の先を見やった。眼下の景色が動くたびに前方の静止画の景色が変る。

「オーッ!」目指す前方に杜を突き抜けて小山のような黒い塊が頭を出しているではないか。
「あれが大森木。この杜の主か!」スクナビの神が叫んだ。
「それにしても巨大です!」言いながら衛士頭の近衛隊長伊支がこぶしで胸をたたいて気合を入れた。門主殿が言った通り道が通じたようだ。他の者たちの駆けるスピードが上がった。
天駆け5頭は一気に飛んだ。前方に突出している黒い塊に絡みついていたものが崩落するのが見えるところまで来た。その巨大な姿の上の方が表れた。まさに巨木だ。
下の方から明かりが這い上がってくるのが見えたので、そこから天駆けがゆっくりと下に降りて行った。

さきがけ全員が杜の主、大森木の前に集まった。巨木にはカエンの放った光虫が次々と上の方まで列をなして取り付いていく。
光虫の高度が少し落ちた時、上の方から重々しい声が聞こえてきた。
「皆の者よく来てくれた。おかげで杜はワルサの縛りから解き放たれた。ハヤカワ族をはじめとして下都国の神たちよ、仔細は光虫より聴いた。アダシ国に捕らわれし者を奪還し、またウマシ国の力を借りてサクナダリ国を再建してほしい」
「大森木殿、吾れは下都国の久地と申す。ここから先を知る者がいない。道案内をお願いしたい」
「久地殿、心得た。この杜を救ってくれたお礼じゃ。ここから先はこの杜の精霊である妖精たちが光虫に代わって案内する。光虫はここまでじゃ。大渓谷を超えることは出来ない。この先の大渓谷と大氷河は妖精軍が先導する」
「大森木殿、かたじけない。アダシ国の様子もぜひ知りたい。お願い申す」
「久地殿、承知した。さてその前に、ハヤカワ族の身軽な者よ、ワシの下から三番目の枝についている妖しの実を5個採ってきておくれ。実は人の頭ほどの大きさだ。木のコブを足場にすれば登れるはずじゃ。実は生き物じゃから丁寧に扱ってもらいたい」

丁度そこへ後続の隊列が到着した。すかさず、久地が手を挙げて美美長に合図を送った。
「赤足殿。細綱を出してくだされ。あの辺まで届くものが必要です」 美美長が上を指さしながら物資の車両の側に来た。
早速、赤足が用意した綱を受け取るとその先端を器用に結んで網状にした。
「よしこれでいいだろう。ナカトミ殿、この細綱でお願い申す」
「心得た。モク、カン一緒に来てくれ。この網綱に実を入れて降ろす」
「承知、吾が先に行きます」と言ってモクが大森木に取り付いた
コヒトの三人は大森木のコブを伝って上に消えた。

「さてと、カエン殿夜光杯を用意してくだされ。次に光虫を周りの木々に飛んでいかせて目覚めさせてくだされ。汝じたちよ!もう大丈夫じゃ、目覚めるのじゃ!」
光虫は次々と夜光杯の聖水をお腹いっぱいに溜め込んで飛んだ。
するとどうだろう、周りの木々が一斉に枝を揺らし始めたではないか。あちこちからツルやツタの類がゆっくりと落ちてきた。不思議なことに動きはスローモーションだ。
「実を降ろしま~す!」頭上から声がした。
「ゆっくり降ろせ! 気を付けよ、実は生き物だそうだ!」 葉の茂みの中から綱で絡めた塊が降りてきた。

妖しの実を囲むように皆が寄ってきた。
「カエン殿、聖水を実のエタの部分に一滴注いでくだされ」
「大森木殿、この妖しの実は?」久地が上に向かって尋ねた。
「この杜の宿り木の実じゃ。吾れが育てておる」 妖しの実は次々とその場に降りてきた。
その時、聖水を注いだ一番目の妖しの実が二つに割れた。
中から出てきたモノが大きく伸びをしている。
それは人の形をした緑色の肌を持つ妖精だった。身には黒の甲冑をまとい羽根を持っている。
「吾はコヒトのナカトミと申す。汝は名を何という」
「吾はエノと申します」
「エノ殿、汝は一の長となりこの杜の妖しの精の者をさらに集めよ」
「かしこまりました」
それから次々と実が割れて、妖精が現れた。
「次の者たちはそれぞれ名を申せ。汝は名を何という」
次の者たちは、ケヤ、クリ、ナラ、ミズとそれぞれ名乗った。

「大森木どの、五名の長がそろいました。お命じくだされ」ナカトミも上に向かって叫んだ。
「宿り木の息子たちよ! いよいよ時が来た。この杜の精霊たちを結集して精霊軍として下都国の神々、ウマシ国の遠征隊に加わり共にアダシ国へ出発するのじゃ。直ちに手分けして集め、ここに結集せよ」
「ケヤ、緑の精霊をさらに集めよ、クリは土蜘蛛族、ナラは、枯れ木軍、ミズは、五色群の所へ参れ」一の長のエノが羽を動かしてゆっくりと上昇して他の長たちに命じた。

「アー、アーアーアー」大森木が森全体に響き渡る声で叫んだ。
久地達一行は森全体が凄まじい勢いで揺れ動いたのを感じた。
杜は目覚めたようだ。騒がしくなってきた。妖精の長の五名はそれぞれが飛び立っていった。
「よし、飛、龍二、主だった者を集めてくれ。赤足、於爾加美にも加わるように」
「わかりました」二人が左右に散った。
「スクナビの神、伊止布殿。ナカトミ殿がこの杜を出たところで水の流れを見つけたようだ、カン殿を連れて探索してくれている。追っ付戻ってくるだろう。観えるといいのだが・・」本宮が言った。

つづく





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