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「わが母の記」

2012-04-29 | 過去に観た映画
個人的に自分には兄がいて、さらには息子がいるせいか、
母親から息子への愛。は自分自身でよ~く分かっている^^;
(もう少し言うと、息子が母親命!になるのも)
なので冒頭の、母親と主人公の雨の別れ。のエピソードが
(これが彼には相当のトラウマだったのだろうけど)
まさか、母親が息子を捨てたりするワケないだろーが!と
そこに何らかの理由(これもほぼ予想通り)があると思った。
でもねぇ、子供にそんなこと分かるはずがないのだ。
小さい頃の、その鮮明な記憶だけが、彼をずっと苦しめた。
では母親の方は、どうだったのだろうか。
主人公が聞きたくて仕方なかったその真相は、
意外な所で、さらに意外な人物によって、明かされる…。
本作のテーマは、そこなんだと思っていた。
母親が認知症を患いながら、その真実を語り、主人公が号泣
するシーンを期待していた私は(号泣はしてたが)、その場面の
意外な淡白さに驚いた(もちろん感動はしたけれど…)

井上靖の自伝的小説の映画化、さすがに文学作品とあって
監督が原田眞人だというのに(爆)インテリ度がバリバリで^^;
知的で崇高な会話が飛び交う、飛び交う。かといって嫌味な
シーンが多いわけではなく、凄いな~この家。とか、わぁ~
別荘だ。とか、何しろ井上靖だから^^;当たり前のように豪華。
これだけ裕福だから介護もできたんだろう(それは、あるぞ)と
やっかみのひとつも出てきそうになるが、でもそれは本当だ。
介護の大変さ(程度にも因ろうが)は、経済的にも精神的にも
ある程度のゆとりがなければ、看ている方が先に参ってしまう。
今作でも兄妹の多さ、使用人を始め手助けする人達の多さが
格段に現在とは違う。たった一人の子供がたったひとりの親と
向き合って介護をするのは、立場を変えると子育て中に起こる
育児ノイローゼと同じである。立場を分かち合う人がいたから
なんとかその苦境を乗り越えられた、という経験は多いものだ。
赤ちゃんにしても老親にしても、憎むべき存在ではないのに
(むしろその逆なのに)悲しいかな、精神的疲労は愛情を裏返し
してしまうものだから辛い。今作では優しい孫(宮崎あおい)が
祖母の世話をかって出るが、やがて彼女に精神的疲労が溜まり
爆発するところがとてもリアルだった(立ち直りが早すぎるけど)
まぁこれが、家族なんだな…と思うのだが。

自分を捨てたはずの母親をどうしても切り捨てられない。
愛されたくて、抱きしめてもらいたくて、仕方なかったのだろう。
憎む気持ちと愛を乞う気持ちが入り混じる息子の苦悩を、彼は
小説の中で昇華させていた。その小説を書かせる意欲を与えた
トラウマの謎が、実は母親以外の人物からも明かされなかった、
という二段構えのオチがすごい。才能は、その人物を取り巻く
人々が開花させるものだということをあからさまに描いている。
冒頭で妹たちが口々に云う、お兄さんは幸せだったわよ~!は
本当だと思った。幸せですよ、伊上洪作さん。貴方は本当に…。

個人的に重なった部分は、まだあった。
私の父親は小さい頃奉仕に出されたり、兄弟は養子に貰われたり
していったそうだ。貧乏と裕福の違いがあっても離されたわけだ。
しかし子供時分の想い出というのはどうしてこう鮮明なのだろう。
その頃に親の愛情いっぱいに受けて育った子供たちが、成人して
多くの人に愛情を与えられることが本来は望ましいのだろうな。。
今作に登場する家族に悪人はおらず(当たり前か^^;)そこへ飄々と
悪態をつく祖母の姿がやけにおかしい。心に余裕があるというのは
こういうことなのだ。苦笑いも幸福のひとつの象徴かもしれない。

(樹木希林は、まんまの演技^^;絶妙な素を持っているのが羨ましい)

★★★★

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4 コメント

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まだ観てませんが・・・ (かずねえ)
2012-05-13 15:50:30
この映画はここ静岡県東部では、ご当地ムービーの扱い!?で、ロケ地訪問ツアーとか監督の舞台挨拶とかけっこう目白押しでしたよーそのせいか妙齢の方々でごった返してて観る気になれなくてねぇ・・でも良い映画みたいですねー

すごい前にもう亡くなっちゃってるんですが、父方の祖母が井上靖と同郷で小学校の同級生だったってよく言っていたよ。確かにお金持ちの家だったみたいねー
返信する
私も (ヤスフミ)
2012-05-13 21:37:37
息子を捨てた(と思ってる)本当の理由を知ったとき、
主人公は号泣するだろうし、つられて自分も涙、涙になるだろう・・・
と思ってましたが、ほんとになんだかあっけなかったですね。

まあ、でも、あからさまな「お涙ちょうだい」じゃないのが
かえってよかったのかも知れませんね。
それでも、お母さんが亡くなったとき、
面倒を見ていた妹が「ご苦労さんでした」と
言われて、電話口で号泣するシーンでは、
私も涙があふれて仕方なかったです。
返信する
かずねえさん♪ (sean)
2012-05-14 20:44:50
あーそっか、そっか、そうですよね!^^;
こちらでもかなりの混み具合でしたもん…(汗)
チラシにロケ地とか全部のってて、風光明美な場所ばかりで…v

へぇー!同級生!?すごい(゜o゜)
かなりの金持ちですよ(稼ぎもあるけど)、誕生会なんか豪華豪華^^;
返信する
ヤスフミさん♪ (sean)
2012-05-14 20:49:32
理由は想像通り…という感じでしたね。
手紙を丸暗記しているのが凄かったですね、、母の愛、強しv

そう!あのキムラ緑子は本当に偉い!!
彼女がほぼ面倒を看ていたんですもんね。
なのに使用人^^;とか言われちゃってねぇ…。
一番の功労者は彼女です。感謝されて当然でしょう。。
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